学園での奇襲
学園での奇襲
デビュタントの会場を後にしてからどうやって寮に戻ったのかは泰羅は覚えていない。気づいたら寮でシャワーを浴びていた。酒を飲んだわけでもないのに記憶がない。
ベッドに入ってさっさと眠りに就きたいところだが、会場であった出来事のせいで寝るに寝られないでいた。
泰羅は明らかに悪目立ちしてしまった。業界五大夫とも言われる家のご令嬢に近づき過ぎてしまった。あんなに旧家名家が揃う場で。
学園じゃ泰羅は庶民クラスであの学園では底辺層。本来はそこまで気にする必要はない。
(いや、でも業界で仕事していくなら……)
今回のデビュタントへの参加だって学園側の指示だと思っていた。まさか五大夫からの直々の招待だったとは。考えるとキリがなく永遠に眠れない。羊を数えようにも今の泰羅には邪念が多過ぎる。
しばらく悶々とした後、泰羅は決めた。蝶野丹と徹底的に距離を取ろう。仲が悪いと思わせるとそれはそれで五大夫を敵に回してしまう。だから、赤の他人と接するように、よそよそしく行こう。そもそもほとんど関係ない人だ。元々友達でもなければ知り合って間もない、数多くいるただの同期生の一人だ。
そうと決めたら睡魔に襲われるまでは早かった。抗うことなく意識を手放した。夢を見ることなく目が覚めると、朝だった。決意した分、熟睡できたらしい。体が軽い。
安眠できたおかげでスキップでもしてしまいそうなくらいご機嫌だが、今この学園で目立つのは得策ではない。泰羅はいつものように行き交う生徒に挨拶をして、無事に無視されて、1限目の授業のために席に着く。
(いいぞ。いつも通りだ)
無事に1限を終えて2限目の教室へと移動しているその時だった。
「ちょっと、着いてきなさい」
いきなり階段の前に現れて腕組みをして泰羅を見下ろす女。
(また花桜里か…いつも唐突だな)
泰羅は呆れた。
彼女はそのまま階段を降りていく。みんなが自分の思い通りに動くと思ってるようだ。泰羅はこの階段を登って教室に行きたい。しかも今、丹に関わりのある人物と会って話しているところでも見られたら、何かしら関係があると思われて俺の人生は破滅だ。二度とこの業界では生きていけない。この学園の卒業生しかほぼいない業界で今目立つわけにはいかない。
泰羅は彼女を無視して階段を登った。ついてこないあたり、諦めたのだろうか。大した用でもなかったんだろう。
階段を登り切ってフロアに踏み込もうとした時、廊下の窓際にある花瓶の花が突然伸びてきて泰羅を包み込み、身動きが取れなくなった。
「なんだ?!どうなってんだ!?」
泰羅は焦る。校内で。しかも廊下で誰かの術式にかかるとは思ってもいなかったからだ。校内では指定の場所以外で能力を使うことを禁止されている。ここは闘技場ではなく共用部だ。明らかに使用禁止エリア。
(植物を扱うということは木の術者か?)
相手が木族なら切るか燃やすか。だが燃やすと校舎が危ない。そもそも火種もない。過去の泰羅ならまだしも、今の特待生である泰羅はタバコなんて吸わないしライターなんて持ってない。
(刃物なんて持ってないし……いや、もう滅却するしかないか)
泰羅はそう思った瞬間、印を組んで細長い結界で目の前の泰羅を取り囲む花を貫く。隙間ができて外の空間が見えた。思い切り引き裂いて脱出する。
外に出るとその花たちの全景が見えた。思ったより小さい。泰羅を飲み込むだけのサイズだ。花瓶から伸びてる花が見えるが、どこまで干渉されて操られているのかわからない。
(迷うくらいなら……)
泰羅は出所の花瓶もろとも結界で囲み、滅却した。結界で突き破ってから滅却までかかった時間、およそ3秒。
滅却時はテレビの電源を切るように花が消失した。周りに細かな破片が飛び散り、床にその残骸が散らばっている。
その破片を床に撒き散らしたままでは誰かが滑って転んでしまう。いつもは滅却後に破片を回収して別次元に移動させている。だが今日は術式の授業は無く、普段破片を回収するために使用する装備品を寮に置いてきているためどうすることもできない。
(この破片をどうする…そんなことよりも、誰だ?こんなふざけた真似をしでかした野郎)
泰羅は術式発動禁止エリアで喧嘩を売ってきた相手に苛立っていると、先ほど登ってきた階段の方から誰かの足音が聞こえてきた。ゆっくりだが、軽い足音。
(女か?)
すぐに印を組めるように泰羅は右手を前に半身に身構える。霊力が全く感じられない。霊力が全くない無能か、霊力を隠すほど力をコントロールできるヤバいやつか。
ここは術師のための学園だ。前者はほとんどいない。いても一般採用枠の事務員さんだ。だが気配も霊力もここまで消せるのは、明らかに手練の術師。泰羅も能力持ちとは言え格上相手なら何もできない。
嫌な汗をかきながら階段を見つめていると意外な人物が姿を現した。




