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ダークサイド  作者: Fluffy
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デビュタント〜思惑〜

デビュタント〜思惑〜

 黄輝が発する圧の中で淡々と動ける女子生徒がいるのかと不思議に思った泰羅。ふと彼のそばにいる女性を見ると見覚えのある顔が覗く。


 泰羅と同じ庶民クラスだった浦部(うらべ)ケイト。

 

 身分はさておき、男なら誰もが憧れるマドンナのうちの一人。父親譲りの白人独特の肌の白さとウェーブのかかったブロンドヘアに碧い目。日本人と言う方が無理ある容姿だが、顔が整っていて人形のようだと男子がいつも噂している。だから勘違い野郎共は我先にとアタックしては玉砕していた。

 

 誰も想像しないのだ。彼女の気の強さを。自分以外を必要としない強さを。


 まさか彼女があの潤間黄輝と一緒にいるとは思わなかった泰羅。

 

(黄輝を認めたってことか?彼女にしては珍しいな……いや、どんな魂胆がある?そもそも何故この会場に呼ばれた?)


 それほど成績優秀でもないケイトがなぜこの場にいるのか分からず泰羅は頭の中で理由を探る。庶民クラスにいた人間がなぜ上流階級の社交界に当然のようにいるのか。泰羅は2年間同じクラスで授業を受けて確信しているのだ。

 

 成績優秀ではないが彼女は意味がないことはしないタイプであると。目立つことを嫌う彼女がよりにもよって黄輝と一緒にいるのには何か魂胆があるに違いない。


 泰羅は思わずケイトを見てしまう。彼女まで表情は喜ぶでもなく不快そうでもない。無表情だ。いつもそうだ。あまり感情を表情には出さない。つい表情を読みたくなって泰羅はじっと見つめてしまう。


 一方、丹の方は目の前の泰羅に不服そうな顔をしている。自分のパートナーがケイト(他の女)を目で追うのは気分が悪いのだろう。丹は泰羅を強く引き寄せてむすっとした顔をした。


「黄輝のパートナーがそんなに気になるの?」


「いや……」


「…美人だもんね、あの子。男子に人気だし。泰羅もああいうのがタイプ?」


「そういうわけではない」


(勘弁してくれ)

 

 無愛想で何を考えてるか分からない女はいくら美人でも願い下げである。成績は良くはなさそうだが、彼女はいつもどこか手を抜いている感じがある。おそらく本当の実力は隠しているのだろう。だが何のためにそうしているのか泰羅は分からない。何もかもが読めなすぎて泰羅は怖いのだ。時々タバコの匂いもする。もしかしたら不良かもしれない。泰羅はケイトのことをそう思っていた。


 いくら目の前の女性のためとはいえ、ケイトが怪しいとはいえ、女性を他人の前で貶してはならない。そんなの男じゃない。泰羅の祖父がよく言っていた。

(じゃあなんて言えばいいんだ?)

 泰羅は何故自分のパートナーではなく別の女性を見ていたのか言い訳を心の中で考えながらも何を言えばいいのか迷っていると音楽が終わり、会場が歓談の時間へと移った。

 


 丹からすぐ離れるわけにもいかず、泰羅は何か飲みながら話を聞こうとテラスへと移動する。近くのウェイターから飲み物を貰って彼女へ渡した。夜のテラスはオレンジ色の光が控えめに当たりを照らしムードは出ていた。そこに佇む男女。ムードは出ているが、泰羅はそれどころではばい。すかさず丹に尋ねる。


「で、どういうこと?」


 言いづらそうにしているところを無理やり聞き出そうとすることに悪い気はするが、泰羅は何故あの黄輝や花桜里や丹音から泰羅が睨まれることになったのか知りたい。自分の人生がかかっている。いくら学園のマドンナと一曲踊れたとは言え、五大夫の家の人間から目をつけられたということだ。


「ごめん…巻き込むつもりはなかったの。でも、私のパートナーだったはずの人がドタキャンして……」


「君をエスコートできるのに無碍にする男なんているの?」


「…泰羅は嬉しそうじゃなかったね」


「そりゃ、俺は何の後ろ盾もない庶民だよ?君と釣り合うわけがない。そんな奴と君が社交界デビューをしたとなれば、業界の重鎮たちは黙ってないでしょ」


 何のことを言っているのか分からないと言いたげな表情の丹。

(自分の母親が俺を牽制したとは夢にも思ってないだろうな……こんな調子でこのお嬢様は本当にあの厳しい社交界を生き抜けるのか?変なのに引っかかりそうだ)

 泰羅は丹の疎さに心配になった。


 二人で腰掛けていた席のテーブルに人影がさす。薄暗いオレンジの照明と窓を開けたことによって差す会場から漏れる光が夜のテラスに伸びた。

(こんな大事な話をしている時に邪魔をしてくるのは誰だ?)

 大事な会話を邪魔された泰羅は影を辿った。その先にいたのは、できれば今は顔を合わせたくない人物だった。


「丹、何故こんな奴と一緒にいる?」


「あなたでしょ?!私のパートナーを脅して帰らせたの」


「違う。だがお前に相応しいのはこの俺だ」


「嫌よ!誰がアンタみたいなビッチなんかと」


「親友の彼氏と寝る奴に言われたくないな」


(なんなんだ、この人たちは)

 

 彼らのことをよく知らない泰羅は、目の前で繰り広げられる言い合いについていけない。丹が普段の太陽のように眩しい微笑みからは考えられない程憎悪に満ちた表情で黄輝と言い争っている。黄輝はまるで泰羅など存在しないかのように視野に入れようとするそぶりもない。


 あからさまな無視に泰羅は非常に気まずい。普段学園で挨拶を無視されるのとは訳が違う。何やら聞いてはならないような口論を盗み聞きしてしまったようだ。一度退席しよう。そう思って泰羅が席を立とうとすると丹に物凄い力で腕を掴まれる。女性の力とは思えない力で掴まれていて痛い。何か術式でも使って力を増強しているのだろうか。術式を使ってまで泰羅を引き止めることなのだろうか。


「ダメよ!行かないで!」


「…でも、彼は君に用があるみたいだし」


「ああ、そうだ。さっさと失せろ」


(ムカつくなこいつ)

 

 黄輝の態度についカッとなって反撃しそうになった衝動を抑えた泰羅。今ここで五大夫であり理事長のご子息の黄輝に楯突くのは得策ではない。文句の一つでも言いたいところだが、大人しく引き下がる方が今後の人生を考えると無難だろうと思った。


「ごめん」


 泰羅は目を見て一言丹に謝り、静止する彼女の手を振り解いてテラスを後にした。

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