デビュタント〜牽制〜
「花桜里、急にどっか行くのやめてよね?探したんだけ、ど」
聞き覚えのある声の主は丹だった。やっと泰羅が知ってる人間が登場。彼女がいつもより綺麗に見えるのは泰羅の気のせいではない。きっと彼女ならどんな服を着ていようと美人だろう。
燃えるリコリスのよいな真っ赤なドレスに彼女のブロンドヘアはよく映える。普通の人なら派手に見えてしまうスタイルも、彼女にかかれば今日この日の彼女のために存在するドレスになってしまう。それほど今日のドレスアップした姿は息を呑むほど美しく、泰羅は言葉通り目を奪われていた。そこに衝撃的な言葉が降ってくる。
「え、丹音と、泰羅?」
この年配の美人は、丹のお母さんらしい。
(通りでどこか見覚えがあると思ったわけだ…)
口元や輪郭がそっくりだ。明るいブロンドの髪も。この女性を若返らせると丹のように見えなくもない。
「丹、やっと来たのね。今日はあのまま来ないかと思ったわよ。それよりもう直ぐ時間だから、貴方達は早く舞台袖に行きなさい。黄輝と暁人様が探していたわよ」
丹音に促されて二人は消えてしまった。いきなり同級生の母親と二人きりにされても気まずい泰羅。そもそも同級生と言うほど仲良くない。むしろ学園で顔を合わせたのも最近で、ほとんど赤の他人だ。
だが、何も言わずにその場から消えるわけにはいかず。
(ほとんど他人の親と何を喋れって言うんだ…)
泰羅は身の置き所がなく困るが、丹音の方から口を開いた。
「あなた、丹と花桜里の友達なの?随分親しいようだけど」
「いえ、ただの同級生です。言葉を交わしたのも最近ですし」
「そう、ならそのまま他人でいてちょうだい」
まさかここで親から牽制を喰らうとは思わなかった。だが、その意味がわからない。泰羅は思わず問う。
「あの、それはどういう意味ですか?」
彼女は通りかかったウェイターからシャンパンを受け取り、それを煽ってから泰羅を見る。鋭い眼光。そのまま射抜かれそうな静かで、だが熱い炎が燃える目で。
「温見泰羅さん、あなたが今後もこの業界で生きていくのであれば、これ以上あの子達に近づかないことね。これは貴方のための助言です」
「…どうして、俺の名前を知っているんですか?」
「貴方をここに招待したのは、私共ですから」
そう言って丹音は去っていった。
“私共”。丹音は五大夫の一人。今回泰羅は、学園から通達を受けて参加した。だがその通達を指示していたのは五大夫だということだろうか。
(学園だけでなく、俺は五大夫に認識されてるということか?)
そうなってくると、立ち振る舞いを考えなければならない。泰羅はより難しい状況に置かれた気分だった。




