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ダークサイド  作者: Fluffy
19/19

怒れる親友の復讐劇〜デビュタントのあの日〜2/2


「久しぶりだな、黄輝(こうき)


凰大(こうだい)さん……どうしてあなたがここに?」


花桜里(かおり)に呼ばれて」


「何?」


 黄輝の顔が一気に険しくなる。黄輝も花桜里の動きを警戒していたのだろう。凰大は自分が花桜里に依頼されたことと、この会場でこの後起こるかもしれない悲劇を推測して伝える。


「今朝、(あき)のエスコートをしてくれと急に頼まれた。会場に来たはいいものの丹はいないし。そしてさっき花桜里に『別の人が見つかったから帰ってくれ』と言われた」


「……」


「一応聞くけど、その別の人って、黄輝?」


「いや……」


 凰大の勘が徐々に現実味を帯びてくる。


「もしかしたら丹は、このままだと誰にもエスコートしてもらえない屈辱を味わうのかもしれない……丹がこの会場にいればの話だけど」


「他に何か不審な点はありましたか?花桜里の言動で」


「さあ?でも、わざわざ俺を丹に当てがうあたり、もしかしたら暁人にも何かしようとしているのかもしれない」


 黄輝が明らかに動揺した後、犯罪者を弾劾するかのような目で凰大を見つめて口を開く。


「……丹と暁人のこと、知ってるんですか?」


「暁人が丹を好きだって話?」


 凰大の知ってる事情は黄輝が予想していた“丹が引き起こした事件”ではなかった。だが、さらに厄介な状況であることを黄輝は知ってしまった。


「暁人は、丹が好きだと言ったんですか?いつから?」


「本人の口から聞いたわけでない。でもこれでも一応、彼とは学友だからね。今まで丹を見つめてきた彼の表情を見ると、なんとなくわかるよ。いつからなのかは知らない。学園に入学してしばらくしたらそうなんじゃないかな?って思ってたけど。でも君も、気づいてたでしょ?君の方が丹や暁人と一緒にいる時間が長いんだから」


 いつもポーカーフェイスの黄輝も、流石にこの事情には頭を抱える。その様子を見て凰大は黄輝に同情しつつ口を開く。


「一応、黄輝には知らせた方がいいかなと思って。幼馴染たちが三角関係になってるなんて知りたくもないだろうけど。でも、もしこの会場で花桜里が何か企んでるとしたら止めなきゃいけない」


「……そうですね。凰大さんに残って丹の相手をお願いしいようと思いましたが、暁人が丹を好きなら話は代わってきますね。好きな人のエスコートが学友だなんて。今は下手に刺激するのは避けたいですね」


「そう。皇太子とは言え、暁人はメンタルが強いわけではないから。俺は友人を悲しませたくない」


 黄輝は少し悩むそぶりを見せたが、結論を出すまではそれ程時間を有しなかった。


「俺が丹をエスコートします。凰大さんは俺のパートナーをお願いできますか?


「いいけど、そのご令嬢って誰?」


「俺と同じ学年の浦部(うらべ)ケイトです」


「え、ケイト?」


「ご存じなんですか?」


 知ってるも何も、彼女は暁人の護衛の一人だ。暁人の家に招かれた時、よく彼のそばで身辺警護に当たっていたのを覚えている。


「まあ、ちょっとね」


「じゃあ話は早いですね。俺は丹を見つけて凰大さんに代わってエスコートすることを伝えてきます。ケイトはそろそろ会場に到着するそうです。ここで待ってれば会えるはずなので。彼女のことは頼みましたよ」


「おう」



 黄輝は丹を探しに会場の人混みへと消えていった。凰大はその後、無事にケイトと合流し、そろそろ始まるであろうデビュタントに向けて舞台袖へと移動した。



 凰大はケイトと共に司会に呼ばれる名前を聞きながら丹と黄輝の名前が呼ばれるのを待つ。だが、丹の名前が呼ばれてからパートナーの男性の名前がなかなか呼ばれない。不審に思ってカーテンの隙間から会場を見ると、丹は知らない男性の手を握って会場の中央へと歩いてきていた。すでに会場に整列している花桜里の表情を見るとかなり驚いている。彼女も予想していなかった展開だ。何が起きているのかわからないため、凰大はまだ舞台袖にいるであろう黄輝を探すと後ろから走ってきた。凰大は黄輝に尋ねる。


「どうなってんだ?」


「わかりません、とにかく、丹が恥をかくのは避けられました」


「ならいいけど。じゃあ、俺もう帰っていいかな?美しいケイト(彼女)と一曲踊りたいのは山々だが、正直、君たちの幼馴染のお遊びに付き合うつもりはない」


「そうですよね、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ケイトのエスコートも俺が変わります」


ケイト()と踊れないのは実に残念だ。私の無礼をどうか許してくれ。今後機会があったらぜひ君をエスコートしたい」


 凰大はそう言ってケイトの手の甲に口付けを落とすとそのまま会場を後にした。



 その後無事に各ペアが踊り終わり、会場が一気に歓談の場へと移っていった。




 丹に恥をかかせ暁人に屈辱を味わせることに失敗した花桜里は、まだ諦めていなかった。丹と丹がどこからか引っ張ってきた謎の男である泰羅(たいら)が二人でテラス席へと消えていったのを目にした花桜里は彼女の後を追った。

 

 だがテラス席には黄輝も入っていき、すぐに泰羅が出てくる。その場に乗り込むか迷っていると、暁人がテラス席を気にしながら窓際に立って外の様子を伺っている姿が花桜里の目に入った。花桜里が抑えていた怒りが一気に込み上げる。踊っている最中も、花桜里を前にしながら暁人は丹の方を見ていたのだ。無意識だろう。それが花桜里にとっては尚更腹が立った。


 花桜里はテラス席の入り口にいる暁人に一気に詰め寄り、右手を振り上げて盛大に頬を叩く。痛々しい音が会場の喧騒に吸い込まれていったが、近くにいた人々が動揺し始める。我らが皇族に五大夫の娘が手を挙げたのだから。いや、婚約者を平手打ちしたゴシップシーンだ。野次馬が黙っているはずがない。


 周りに集まり始める人を気にすることなく、花桜里は暁人を睨む。腹の底からマグマのように湧いてくる怒りが瞳から涙となって溢れ出てくる。暁人は突然のことで何が起きたかわからず、叩かれた方向に顔を向けたまま目を見開いていた。


 一連のシーンをテラス席から視界に捉えていた黄輝はすぐに暁人の元へと駆け寄る。黄輝は暁人の体を確認して無事なのを確かめた後、花桜里を取り押さえて周囲に言葉をかけて取り繕う。


「どうやら花桜里は酔っているようだ。誰だ?彼女に酒を飲ませたのは。まだ未成年だぞ」


 黄輝は暴れる花桜里を術式で抑えてそのまま会場の外へと連れ出した。注目の的になっている暁人を救出するよりも花桜里を隔離する方が先だ。黄輝は運転手がいる駐車場まで彼女を俵のように担いで歩く。自分の送迎車を見つけて後部座席に彼女を乗せて、自分も一緒に乗り込んだ。鍵をかけて結界で遮音してから彼女の拘束していた術式を解くと同時に、彼女が叫ぶ。


「何すんのよ!?」


「それはこっちのセリフだ!!」


 普段冷静な黄輝が怒鳴るのは花桜里にとっても恐ろしいものがあるのだろう。花桜里は騒ぐのをやめて驚いた顔で黄輝を見つめる。黒の中に青が光る力強い彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ出て、怒りで紅潮した頬を伝っていく。その雫は目が覚めるようなロイヤルブルーのドレスにシミを作った。


「なんで……なんで私ばっかり惨めな思いしないといけないのよ……!」


 黄輝は黙って彼女の目を見つめて彼女が紡ぐ言葉に耳を傾ける。


「私が暁人を思えば思うほど、彼の気持ちは丹に向かって……二人は、私に黙って……なんで!?なんでそんなことするのよ!?私が何したって言うのよ!?丹はいつもそう!男の視線は独り占め!でも私には暁人がいるからそれでもいいと思ってた!でも暁人も取られたら、私は!何にも残らないの!婚約者を取られて親友もいなくなって!アンタに私の気持ちがわかる?!」


 今まで溜め込んでいた思いを吐き出しながら花桜里は黄輝の胸元を殴る。殴るにはあまりにも弱々しい。そんな彼女を抱きしめるでも宥めることもせず見つめる黄輝が口を開く。


「だからって丹や暁人を貶めて大勢の前で恥をかかせる必要があるのか?」


「黙ってたのよ!?あの二人は!婚約者にも親友にも!黙って何もなかったかのように!私を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」


「……気持ちはわかるが、」


「いいえ!アンタにはわからないわ!人を物のように扱って切り捨てる、潤間(うるま)家の人間にこの気持ちがわかるわけ」


 感情のタガか外れた花桜里は黄輝だけでなく潤間の人間にも喧嘩を売り始めた。これ以上彼女の罪を増やさないために、黄輝は彼女の口を塞ぐ。突然のキスに先ほどまで感情が昂り荒れ狂うように声を上げていた花桜里の声が黄輝の口の中へと消えていく。


 花桜里が大人しくなったのを確認して黄輝は口を離した。花桜里は困惑した目を黄輝に向ける。しばしの沈黙の後、黄輝が口を開いた。


「公衆の面前で皇族を貶める行為は謀反とみなされて反逆罪に問われる。五大夫に関わる人間を貶めるのは、それが五大夫であっても罪に問われる。理由はどうあれ、お前は罪に問われかねないことをやったんだ。未来を担う同志がお互いを傷つけ合う姿なんて俺は見たくない。お前は、同志を処罰しなければならない立場にある俺のことも考えたか?俺は相手が誰であろうと中立で物事を処理しなければならない。それが潤間家だ。お前は一度頭を冷やせ」


「……」


「俺は会場を納めてくるから、ここで大人しくしていろ」


 黄輝は車から降りてドアを閉めようとした時、呆然と黄輝を見ていた花桜里が黄輝に声をかける。


「なんでキスしたの」


「……泣き喚く女を黙らせる方法を、俺はこれしか知らない」


 黄輝の目に熱はない。むしろ恐ろしいくらいに冷え切っていた。黄輝はドアを閉めた後、花桜里が逃げないように車に結界を張って会場に戻った。


 車の中に取り残された花桜里は黄輝に聞かれるはずもないのに、声を押し殺して泣いた。






 

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