怒れる親友の復讐劇〜デビュタントのあの日〜1/2
花桜里と丹はビュタント会場へときていた。ここに来る前、ドレスもアクセサリーも花桜里が選んであげた。ついでにエスコート役の男も。黄輝が丹のエスコートに名乗りをあげた時、花桜里は焦った。丹への復讐を邪魔されては困るから。
丹と丹音がしていた会話を偶然聞いてしまったのが始まりだ。まさか、親友が裏切っていたなんて思いもしなかった。それを1年隠し通したことも、今も何食わぬ顔で目の前にいる丹を花桜里は許せなかった。
他人の婚約者を寝とっておいて、平然と生きてるなんて許せない。
婚約者の暁人にも怒りが湧く。丹が消えてからよそよそしくなって、最近は花桜里の方から冷めてきていたが、まさか親友と寝てたなんて。暁人もそれを黙っていた。よそよそしくなったのだって理由は明確。丹を好きだから。昔からそうだった。花桜里の婚約者なのに、いつも目で追っているのは丹。
親同士が決めた婚約に二人は逆らえない。だから言われた通りに暁人とこのまま結婚すると思っていたし、疑いもしなかった。暁人もそれを受け入れていると思っていた。暁人は優しい人だから、いつかは自分を好きになってくれる。花桜里はそう思って、暁人が丹に心が傾いているのを見て見ぬふりをしてきた。
だが、二人は花桜里を裏切った。
そして今もそのことを謝罪するつもりもないらしい。何も打ち明けないのだから。
花桜里は復讐することにしたのだ。手始めにデビュタントで盛大に恥をかいてもらおうと。
花桜里はエスコートしてくれる男を見つけて会場に呼び出し、時間になったら帰す、という作戦を思いついた。会場に呼び出した時点で丹とエスコート役を二人きりにさせて、周囲にはさもこの二人がペアだと思わせる。それに相応しい男を花桜里は選んだ。できれば関わりたくなかった男。でもこの男は気兼ねなく使って雑な扱いをしても今更花桜里の印象は変わらない。花桜里の本性を知っている男。
その男は水の五大夫の孫。大鳥凰大。花桜里たちの3つ上の先輩で、暁人と同級生。昔は丹と凰大は家同士が仲が良かったらしい。凰大は五大夫の孫ではあるが印紋が出現しておらず、五大夫を継承するかは危うい。それでも由緒正しい家の人間。まだ印紋が出ていない丹と、婚約者の親友を抱いた暁人を辱めるにはちょうどいい相手。花桜里はそう思って凰大に頼んだのだ。
凰大はもちろん、花桜里が何かを企んでいることには気づいていた。だが具体的に何をするのかはわからず、不安を抱えて会場へと向かった。そして凰大は暁人の顔を見て察したのだ。
(暁人、まだ丹のことを……)
凰大の独り言は心の中に消えていった。暁人が丹に思いを寄せていることはわかっていた。同じ学年でそれなりに暁人を見てきた分、嫌でも分かってしまうのだ。五大夫になることが決まっている黄輝のように暁人と堂々と渡り合うことは、印紋が出ていない自分の身ではしなかったがいい学友でいれたことは事実。
凰大は暁人の表情を見ればなんとなくわかるのだ。そしてそれに気づいた花桜里が、暁人の学友であり、丹とは家同士がかつて仲が良かった自分にわざわざ丹のエスコートを依頼してきた理由も読めてしまった。
丹は1年間行方不明だった。わざわざそんな彼女のエスコートを学年の離れた、以前のように交流もない自分に頼むなんて、花桜里がなんの考えもなしにそんなことをするはずがない。ただエスコートすればいいだけなら、同学年の黄輝に頼むほうが自然だ。自分とは違って、黄輝は五大夫になることが決まっている人間なのだから。花桜里がわざわざ印紋の出ていない先輩であり暁人の同級生である自分を利用してやりたいことがある。凰大はそのことに気づいたのだ。
暁人の心を傷ずつけないためにも凰大は会場の誰かに頼んでエスコート役を代わってもらいたい。そう思ってまず黄輝を探していた。先ほどまで暁人と一緒にいたはずだが、彼の姿が見えず必死で会場内を探していると花桜里が凰大に声をかける。
「エスコート役、別の人が見つかったから、もう帰っていいわよ」
「は?」
年上をわざわざ呼び出しておいてこの態度。悪びれている様子もない。花桜里は憎たらしい悪女だ、と凰大は思った。自らエスコート役を別に見つけたということは、もしかしたら丹の方にも何かをしようとしているのかもしれない。勘のいい凰大は花桜里の言葉を受け入れたフリをした。
「……わかった。じゃあ俺はもう帰っていいのか?この堅苦しい燕尾服を脱いでもいいんだな?」
「ええ、お疲れ様」
凰大は会場を後にするフリをして再び黄輝を探した。ようやく見つけた黄輝は会場の入り口の外にいたのだ。何故そんなところにいるのかわからないが、“花桜里が何やら怪しい“ということを黄輝に伝えるために数年ぶりに後輩に声をかけた。




