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ダークサイド  作者: Fluffy
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幼馴染にバレた彼女の秘密2/2


 丹音は黄輝を自身の書斎へと招き入れた。応接間ではなく密閉された書斎。使用人がお茶を持ってきたが、丹音がすぐに下がらせた。これからここで始まるのは内密の相談だ。


 ソファがない書斎。机の椅子を引いて丹音が黄輝に座るように促す。黄輝は無言で指示に従い、椅子に腰掛けて足を組んで肘掛けに両肘を乗せてリラックスした体制をとる。


 目上の人と話す態度ではない。業界の中立である潤間(うるま)家の人間として丹音の言葉を聞くという無言の意思表示だ。


 丹音はこれから丹についての出来事を黄輝に告白する。これは命令ではなく、丹音の意思だ。だが娘と同じ高校生にしてはやたらと権威と存在感がある黄輝を直視するのが気まずく、黄輝の正面に立って横を向く。そして腕組みをした。


 黄輝は丹音が話したくないことをこれから話そうとしていることはとうわかっていた。だが、時間を食うわけにはいかない。黄輝はまどろっこしいことは嫌いなのだ。何事もシンプルに物事を捉えて処理する。沈黙を破って黄輝が先に口を開いた。


「丹が暁人と寝たって、どういうことですか?」


 丹音は盛大なため息をついて、腕を組んでいた手は片手が眉間を押さえに行く。


「あの子、五大夫になりたくないからって、暁人様にとんでもない頼み事をしたの」


 丹はまだ正式に五大夫候補にはなっていない。なぜなら、丹が行方をくらます前は印紋がまだ出現していなかったからだ。


 花桜里や黄輝は出生時にすでに存在していた。印紋が出るタイミングには個人差がある。そして、幕井(まくい)家の長男である水都(みずと)とその妹の丹にはまだ印紋が出ていなかった。二人には今後印紋が出るかもしれないし、出ないかもしれない。大抵は思春期までには出てくるはずではあるが、酒々井長人(しすいながひと)のように成人してから出るケースもある。


 丹は以前からよく言っていた。

 『五大夫には水都(お兄ちゃん)がなるべきよ』と。


 要するに丹は自分に印紋が出て欲しくないのだ。


 印紋が出た者が代々五大夫になって来た。その印紋を消すことはできないが、出ないようにする術があるという噂は実しやかに聞いたことはある。所詮噂であって信じるには取るに足りない。なぜなら、馬鹿げた内容だからだ。だがまさか、その噂を信じて丹は暁人にその噂の内容を実行したということだろうか。黄輝はすぐにこの結論に辿り着いた。


「要するに、印紋が出るのを防ぐため、丹は暁人と交わったということですか?」


 丹音は信じたくないという顔で目を瞑ったまま頷く。そして深く、呆れたため息をついた。


 (とんでもないことをやらかしたな)

 黄輝はそう思った。だが、起きてしまったことは変えられない。


「もしかして、姿を消したのはそれが原因ですか?」


「ええ、おそらく。五大夫になりたくないとは言え、親友の婚約者と交わってしまった。印紋が現れるかどうかに関わらず、そんなことしてしまったら花桜里に会わす顔がないもの」


「そんな代償を払ったのにも関わらず、印紋は出てしまった」


「そう、最悪よ。まだどっちかが叶っていたらいくらかマシだったのかもしれないのに」


「もし丹に印紋が出なかったら、術師業界をそのまま追い出すつもりだったんですか?」


「……」


「もしかして、俺は余計なことをしましたかね?丹を見つけて連れ帰って来なかった方が良かったですか?」


「……あなたも五大夫の家の人間ならわかるでしょう?家紋の恥晒しがいるというのは、どんなに迷惑なことか」


 丹音が丹の扱いに手をこまねいているというのは明白だった。邪魔だけど切り捨てられない。だが家紋にとっては居ない方がいい存在。自分の娘をそう思うのだから、この女には母性というものがないのだろうか?いや、長男である水都にこのような態度を取っているのを見たことがない。母性の問題ではないのだろう。何か丹を純粋に愛せない理由があるのかもしれない。だが、長男を溺愛しているな、というのは黄輝は幼い時から感じていた。それと同時にこの母親が娘を蔑ろにしていることは事実だ。


 このまま丹音に丹を任せていると丹は報われないだろう。水都(兄貴)の方も丹のことは昔から邪険に扱っていた。そんな妹に印紋が出たと知れば、水都は(自分の妹)を恨むだろうことは黄輝は容易に想像がついた。


(陰湿な男だからな。最悪、家族内で殺生が起こりかねない。酒々井家と酒生家の争いのように)


 

 このままでは今後の五大夫の結界に支障が生じる。潤間家が丹を助けることが、五大夫のためにも蝶野家のためにも花桜里や暁人のためにもなる。そう思った黄輝が導き出した答えは一つ。


「丹を俺にください」


「……本気で言ってるの?」


「俺はいつでも正気ですよ」


「あなたは……丹を好きなの?」


「嫌いではないですよ?見た目も人間性も術師とは思えないほどの聖女です。一体どう生きてきたらこの業界であんなに純粋無垢でいられるのか…まあ、目的の為とはいえ親友の婚約者と寝てしまったようですが、そういう一か八かに賭ける潔さ、俺は好きですね」


「あなたがそんなにあの子を思っていたなんて考えてもみなかったわ……」


 丹音は腕を組んだまま顎に手を当てて考える。己の利益と世間体を考慮しているのだろう。黄輝の提案はそれら全てを解決する。そう思った丹が判断を下すのは早かった。


「いいわ。あの子をあなたにあげる。婚姻のタイミングは後で話しましょう」


「仰せのままに」


「一つお願いされてくれる?」


「?」


「あの子を傷つけないで」


(どの口が言っているんだ?)

 黄輝は思わず鼻で笑ってしまった。その態度に丹音は不審に思うが、黄輝の言葉でその心配はかき消される。


「世界一、幸せな花嫁にして差し上げますよ」


 黄輝はそう言って書斎を出た。その足でそのまま丹の部屋に向かう。中から花桜里と丹の楽しげな声が聞こえてくる。どうやら花桜里は先ほど聞いた話を聞かなかったことにしたようだ。


 黄輝はノックをせずにドアを開けると、丹のベッドに腰掛けてドアを背にしていた花桜里が勢いよく振り返った。


「ちょっと!レディの部屋に入る時はノックしなさいよ!」


 怒る花桜里をよそに黄輝は丹の前までゆっくり歩いていく。そして片膝をついて丹の手をとる。


「今日のデビュタントでお前をエスコートしたい」


 丹の瞳が困惑の色を映し出す。当然の反応だ。黄輝はこんなことを丹にする仲ではない。幼馴染だが、二人の仲にはそんな甘い空気は存在しない。戸惑う丹をよそに、花桜里は丹を庇うように黄輝に言い放つ。


「一歩遅かったわね?丹のエスコートはさっき別の男性に頼んだから」


「……誰だ?」


「安心して?アンタも知ってる家柄も十分な紳士よ。五大夫じゃなくても、アンタよりはマシな男」


「…鞍替えするならいつでもどうぞ?」


 黄輝はそう言って丹の手の甲に口付けを落として部屋を出ていった。その一連の行動を横で見ていた花桜里は混乱している丹をよそに不快な顔を隠さない。


「何アレ?きもいんだけど…絶対何か企んでるよ、黄輝(アイツ)


 この時、丹を心配しているように振る舞いながらも、花桜里はデビュタントで丹をどう陥れるか頭の中で想像を回らせていた。そんなことも知らず、丹は墓場まで持っていくつもりの秘密が一番バレたくない花桜里からどう隠して過ごしていくのかを思案し、今後を憂いていた。



 

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