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第十世代(2170年〜)

 夕暮れ街の2170年です。

 

 太陽が、分厚い雲に隠れてから数年が経ちました。

 農業が壊滅的な打撃を受け、音質栽培や合成食料が主流になります。

 気温は、真夏でも20度を下回るようになりました。


 氷河期の訪れが囁かれ、50年後には人類は地上に住めなくなると言われています。


 

[ケースA]

 2170年の坂上家の状況です。

 坂上家立地:坂の下に駅があり、勾配の上に立っている。 住宅街で、周りは宗教活動が盛んである。    

  信者以外の人間を、咎めるわけでもないが勧誘は続き、暮らす身としては窮屈。    

 何せ急勾配のてっぺんに家があり、車がないと生活は不便である。

  氷河期の訪れを前にして、宗教活動と芸術活動のせめぎ合いがどう発展してくるのかが1つのポイントである。 坂上家は芸術を諦めるのか。それとも運命に抗うのか。  

 

 坂上家夫:坂上透(第10世代、坂上透に準ずる)『鑑賞(干渉)されない劇場』プロデューサー。       

世間は既に芸術活動に懐疑的であり、その中で芸術活動を続けるのかの瀬戸際に立たされている。  

 

 坂上家妻:一般人女性。良くも悪くも箱入りのお嬢様で、芸術に関しても宗教に関してもフラットな感情のまま、坂上家に入った。



 宗教関連。  坂上 漣(第10世代、坂上 漣に準ずる)教団の指導者。  氷河期の訪れは人類のエゴが招いた結果であるという教えを貫く。  



 坂上家 第11世代:坂上さかがみ 悠翔ゆうと

•性別:男

•生年:2170年

•出生背景:母体の冷えによるリスクを抱えながらも無事に誕生。冷え込みと物資不足の影響で、兄弟は彼一人のみとされます。

•出生地:坂上家本家・坂の頂上の家屋にて。


0歳~5歳(2170~2175年)

•生後まもなくから冷気に弱く、肺炎を繰り返します。

•家族はできる限り屋内での育児を徹底し、布団と薪による暖房生活を過ごします。

•坂上透は家庭のため、劇場活動を一時休止しました。

•母は教育熱心で絵本や音楽を通じた家庭内芸術教育を施しました。


6歳~12歳(2176~2182年)

•教団の影響で、公教育の多くは信仰的教育に移行します。透は地下で秘密裏に“無観客演劇”を試行し、悠翔をその観客として育てたそうです。

•教団の漣との関係は最悪で、叔父と甥でありながら面識を避けられています。

•学校では、家庭が“異端的”として問題視されます。本人は無口で孤立しながらも観察眼に長けた子供へと育ちました。


13歳~15歳(2183~2185年)

•密かに父の作品にスタッフとして付きます。劇場が観客不在でもなお成立することの証人となります。

•しかし、母が教団信者に襲撃されかける事件が発生。一時的に坂上家は郊外へ避難します。これが心に深い傷を残しました。

•悠翔は芸術を「家族を危険に晒すもの」と感じ、距離を置き始めます。


16歳~18歳(2186~2188年)

•高校の代替制度では、職業訓練的なものが主流になるなか、建築設計へ興味を抱き始めます。

•『劇場を“構造”から救う』という思想を持ち始めます。舞台ではなく、耐寒構造や地下避難型ホールの設計に興味を持ち始めます。

•父・透とはしばしば「それは芸術ではない」と衝突します。「芸術家を生かす場所がないなら、誰が芸術を続けられる?」と返します。


19歳~20歳(2189~2970年)

•坂上家を出て、小さな建築設計の組織に所属します。氷河期対策として、地域の避難芸術空間の設計に携わります。

•2170年、坂上透が重度の低体温症で倒れ、悠翔は帰郷。家の一部を“寒冷地対応型劇場”に改築することを決意します。

•悠翔は芸術を“表現”ではなく、“空間として支える”という新たな視点で定義づけようとしています。





総評(坂上家 2190年時点)

•生まれた子どもは1人(坂上悠翔)のみ。

•氷河期の影響から兄弟姉妹の出産は断念。

•芸術と宗教の対立は家庭内にまで浸透し、子はその両極を踏まえた“建築芸術”という新たな立場を模索中。


 * * * * *


[ケースB]

 2170年の池田家の状況です。


  池田家立地:代々からの大地主の家で、近くに立派な池があるが、埋め立てられて今は更地である。 後継が途絶えた没落芸術家の一族。

土地の8割を失い、家賃収入も無くなったが、 第10世代、山浦 柚希によって再興が図られている。

失った土地のほとんどは、地下シェルターに改築されているが、池田のものではない。  


  池田家夫:池田 朔の遺伝子(第七世代の池田 朔に準ずる)保管されていた池田 朔の遺伝子を使い、  正当な池田家の再興を試みた。

「言葉を覚える前に筆を握った」という逸話を残す伝説的な作家。  

2110年の夕暮れ芸術祭では『空間の失調:朔ノ書・終章』でグランプリをとる。  


  池田家妻:山浦 柚希(第十世代、山浦 柚希に準ずる)虚弱体質ながら、池田家の芸術感に惚れ込み、 反対を押し切って池田家再興を目指した。

       世間の目は既に芸術からかけ離れている現代で、彼女とその遺伝子は何を残さんとするのか。


 子ども:池田いけだ りん

•生年:2171年

•性別:不明(本人は性別を明かさず「表現体エクスプレッション」と呼ばれることを好む)

•出生時の異常:脳梁が極端に発達しており、右脳・左脳の領域分担が崩壊している。言語・空間認知・感情表現が混在した思考回路を持つ。


0~6歳

•言葉をほとんど話さず、筆記と絵画でコミュニケーションを取ったそうです。

•柚希の療養中、麟は独りで壁という壁に絵を描き続けます。特に地下構造図に酷似した迷路を無数に残したそうです。

•6歳の時、初めて発した言葉は「まだ、掘れる」という謎の一言だっだようです。


7~12歳

•地元の学校には通えず、家庭内で教育が行われます。池田朔の作品と遺稿を暗誦し、模写し、解体することで学びます。

•教育者が3人交代するも、全員が精神的疲労により離脱しました。

•書いた詩のうち「目の前の風景にあまりに似ている」一篇が、地元住民の間で心霊現象として噂になったようです。


13~17歳

•地元のアトリエにて“見えない展示”を開催しました。展示空間には何も設置されておらず、鑑賞者には「この部屋に何が見えるか」を語らせるのみ。

•芸術か詐欺かでメディアを賑わしますが、「作品は存在する。君たちが触れていないだけだ」という発言で論争に終止符を打ちました。

•この発言を境に“池田麟現象”として都市伝説化し、全国に模倣者が現れました。


18~20歳

•氷河期の影響により芸術活動は厳しく制限されます。

•しかし、麟は街から排水された染料廃液を氷の表面に描く“融解画”を発明。それは、温度が上がると溶けて消える作品群でした。

•20歳の誕生日に地下シェルターの外壁一面に巨大な詩画作品《廃映はいえい》を残し、忽然と姿を消します。

•最後の目撃情報は、元池だった場所で「池はまだ、ここにある」とつぶやく姿でした。


評価・余波

•政府文化庁は麟の活動を危険視し、“幻視誘導表現”として規制対象に指定。

•しかしその影響力は拡大し、芸術の終焉と再定義の象徴としてカルト的信仰の対象となる。

•柚希は麟の消失後、外部との接触を一切断ち「池田家再興は完了した」とだけ記した手紙を遺す。



 * * * * *


[ケースC]

 2170年の山浦家の状況です。


 山浦家立地;池田家とまでは行かなくとも、裏に山を持つ地主である。 あたりは、かつて住宅街で周りの人間との交流は多かった。

徒歩圏内に商店街や、スーパー、 本屋に映画館などがあったが、今はほとんどが地下シェルターに改築され、生きるためのライフラインと化している。

山浦家が築いた『芸術の街』は、今は見る影もない。


   山浦家夫:山浦 嵩(第十世代、山浦 嵩に準ずる)山浦家の地下にある「幻影博物室」は、そのままシャルターになったが、『あったものの配置だけを保存する空間』という概念は、これで完成されたとした。



  山浦家妻:一般人女性で、自衛官の父親と救命士の母親を持ち、防災知識に明るい。


子ども:山浦 葉明やまうら・ようめい

•生年:2172年

•性別:男性

•出生時情報:出生直後から心拍が異常に安定しており、「静かな子」として評される。外界の刺激に対しても反応が薄く、医師からは「感覚の逆転」が起きている可能性を指摘される。


0~6歳

•周囲の子どもたちが地下へ避難して育つ中、葉明は父・嵩の手で「幻影博物室」の一角で生活する。

•日常生活のすべてが“再現”で構成された空間の中で育ち、現実と記録の区別を持たずに成長。

•実際に存在する食物を拒み、「再現された食品模型」による食事訓練を求める奇癖が現れる。


7~12歳

•周囲との接触は極端に少なく、地下の教育端末と「幻影博物室」の情報アーカイブのみを通じて学びます。

•一度も空を見たことがないまま「空の見え方」を記憶に描き、それを博物室の天井に映すプロジェクションを自作。 → この映像が、後に“地下教育コンテンツ”として模倣されることになります。

•自衛官の祖父が定期的に訪れ、防災訓練を施すが、葉明は“災害”の概念自体を「物語装置」としてしか理解できませんでした。


13~17歳

•急激に言語能力と抽象思考力が開花します。

•15歳で「記憶と再現の非対称性」をテーマに論文《二次現実における一次体験の損耗》を執筆。 → 都市圏の教育機関で議論を巻き起こすが、本人は「記録が主で現実が副」と断言し、注目を浴びます。

•博物室内に“未来の古代”というテーマ展示を作成。そこでは現代的な生活様式が「かつての神話」として語られます。 → 芸術ではなく歴史学だと主張しますが、学会からはどちらでもないとされました。


18~20歳

•地下生活により虚弱化した身体を補うため、母親の協力で「身体拡張計画」を実施。 → 外骨格型の補助装置を自作し、はじめて地上に立ちました。その瞬間に涙を流したという記録がります。

•20歳の記念に幻影博物室で最終展示《幻視する遺構》を開催。 → 展示内容は「自分の記憶しか展示されていない空間」。鑑賞者はそれぞれ別の部屋に通され、まったく違う展示を体験しました。

•展示の数日後、葉明は幻影博物室の最奥部に“自分を封印する”と記して行方を絶ちます。現在も消息不明。


社会的・文化的影響

•山浦葉明の活動は、芸術とも科学とも哲学とも分類できない“中間表現”として注目される。

•彼の思想「現実はすでに複製である」という言葉は、人工知能・仮想現実・教育工学の分野に波紋を広げる。

•山浦家は以後も「再現文化の聖地」として認識され、年に一度“博物室巡礼”と呼ばれる地下ツアーが密かに実施されるようになる。


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