第九世代(2140年〜)
2140年の夕暮れ街です。
この年代では、世界を揺るがす出来事がありました。
池田家の闇がついに暴かれたのです。
第九世代の子どもたちは皆、亡くなるか自我を失ってしまいました。
このことを問題視した夕暮れ芸術際企画委員は池田家の登録を抹消。
夕暮れ芸術祭は当面の間、開催延期となります。
名家池田家は、跡取りがなくなり、血が途切れて表舞台から姿を消します。
しかし事はそれでは治りませんでした。
教団の指導者に新たに就任した坂上直哉は、この件を全て『芸術というエゴが人を狂わせた』とし、
人を動かすのはあくまで『信仰』であるべきで、『芸術』であってはならない。 と言う考えを打ち出します。
そして、教団は一層過激な手段に出るのでした。
[ケースA]
2140年の坂上家はこんな状況です。
坂上家立地:坂の下に駅があり、勾配の上には教団の大きな施設があります。 住宅街で、周りは宗教活動が盛んである。
信者以外の人間を、咎めるわけでもないが勧誘は続き、暮らす身としては窮屈。
何せ急勾配のてっぺんに家があり、車がないと生活は不便である。
坂上家夫:坂上 透真(第九世代、坂上 透真に準ずる)空間演出家。 弟である直哉とは、対立の立場をとっているが、世間的に個人の芸術行為が悪とされ、活動の収縮を余儀なくされている。
坂上家妻:坂上侑李。女優/劇作家。小劇場演劇出身。親が他教の宗教家であり、 この街の宗教観に違和感を覚えている。信じるもののためなら武力行使も辞さない苛烈な人である。
親戚:坂上 ラヤ(第九世代、坂上ラヤに準ずる。)女優/ダンサー。現在活動を、この街の外に移している。
親戚:坂上 澄(第九世代、坂上 澄に準ずる)「無言の詩」プロデューサー。兄直哉の思想は、一定の理解は示すも、坂上 透真を一人のこし家を出たのを後悔している。
長男:坂上 透(2122年生)
[0~10歳]
父・透真の無言演出、母・侑李の烈しさの間で、「話さない訓練」を自然と覚えたそうです。
5歳で紙芝居形式の演出『声なきセリフ』の発明に至ります。セリフが“空白の台本”で演技だけを求めると言う内容でした。
教団系学校では「不穏な演出」と見なされ、停学処分を数度受けました。
[ 10~20歳]
13歳にして自宅地下のアトリエで“無音劇団を主宰しますが、旗揚げ公園の観客はゼロでした。
18歳で『観賞されない劇場』をプロデュースします。
兄・直哉から「神を描かない罪人」と世間的に公言されるも、無反応で通すしました
現在、無観客・無映像・無音の“三無劇”を次代に繋げる活動を続けています。
長女:坂上 雫(2125年生)
[ 0~10歳]
幼少期より、身体言語と宗教的振付(ラヤ譲り)を並行して学習します。
8歳で教団主催の「神の演舞」を模倣して踊り、“形式だけを盗んだ”として教団から糾弾されることに。
母の影響を強く受け、「人は言葉より先に儀式を踊るべき」と信じるようになります。
[ 10~20歳]
12歳から信仰抜きの祭礼を創作。儀式の型だけを抽出し、再構築すします。
17歳で、呼吸とまばたきだけで構成された舞踏『一斉に』を発表。
20歳現在、山浦家の非公開アーカイブに“身体と言葉の断絶譜を寄贈予定です。
次男:坂上 漣(2130年生)
[ 0~10歳]
教団に影響を受けたベビーシッターの影響で、早くから「信仰」を絶対的な善と信じます。
5歳で直哉主催の「奉光少年会」に通い始め、教義の理解と暗唱に驚異的な才能を見せたそうです。
親に逆らっても「神の方が正しい」と言い切ります。家内宗教対立の中心人物となります。
[ 10~20歳]
13歳で“信仰布教のための演出術”を体系化します。聖典朗唱と身体演技を融合した新たな形式を創出しました。
15歳で家を出て、教団下部施設に移住しました。
父・透真と母・侑李の存在を「堕落者」と断じ、“家の断絶”を宣言しました。
現在、教団の若手指導者候補として名が挙がっています。
次女:坂上 詩音(2135年生)
[ 0~10歳]
感染症後期の混乱期に生まれ、病弱かつ光過敏。生後2年で視覚と言語の刺激を制限されます。
3歳で与えられた無地ノートに「空の観察日記」と称する点だけの記録を続けます。
他者との会話はなし。唯一、澄叔父の詩を何度も口の中で転がす姿が目撃されています。
[ 10~20歳]
小屋の中で“音も色もない環境”を維持しつつ、体内時計で1日1語だけ記録するという生活をしています。
17歳で1冊目の『詩音語辞典』完成。単語数は365語、すべてに“揺らぎ”の定義が記されているそうです。
現在、観応室の“語られない文学部門”で保護的に扱われています。
•総括:坂上家(2140)
•透真・侑李の子らは全員、“言語や芸術の抑圧された都市”で、 黙ることで反抗する存在として育った。
•坂上家は今や――
◦沈黙の透(長男)
◦身体の雫(長女)
◦信仰の漣(次男)
◦記録する詩音(次女)という、四つの断絶と対話の象徴を擁する“新たな時限爆弾”として存在している。
教壇との対立を続けている坂上家ですが、どうしても血の中に、信仰に身を捧げる人間が現れてしまうようです。
* * * * *
記録:池田家の没落
発覚のきっかけ:
【2121年2月】
ある無記名の小包が、夕暮れ市民メディア《町ノ音》編集部に届く。 中には、古いSDカードと手書きのメモが1枚――
「彼らの芸術は、家の壁から剥がしてご覧ください。 私は池田家の『子』ではない。 ただの『製品』でした。 これが最後の“作品”です。どうか、外に出してください」
送付者は不明。 SDカードには、悍ましい家系図。池田家の地下で密かに撮影されていた15年間の映像記録が含まれていた。
◆ 内容の衝撃:
カード内の映像ファイル(総計 約4800時間)の内容は、以下のようなものだった:
1監禁・幽閉された灯が、何度も脱走を試みる様子。 朔による拘束と説得。「お前は“母体”であり、芸術ではない」という発言の記録。
2澪奈・澪真・澪々とみられる子どもたちが、 会話のない空間で“行動パターン”のみを繰り返す様子。 それが**「芸術的習慣」として記録されていた**。
3朔の自白音声(2060年代から録り溜めていたもの)が断続的に挿入されており、 そこにはこう語られていた:
「創作とは、言葉を産ませる前に、言葉を絶やすことだ。 彼らは言葉を知らない。 よって彼らは最も純粋な“芸術体”である。」
◆ 拡散の経緯:
•《町ノ音》編集部は内部審議の末、2129年5月1日、 匿名ジャーナルサイト《LogEcho》を通じて、記録映像の編集版を公開(※本人・児童保護の観点からマスク処理あり)。
•以後、世界各国の人権団体・芸術財団・ジャーナリスト・AI報道メディアが一斉に拡散。 “血の温室”と題された連載ドキュメントが数千万回閲覧される。
◆ 世界に与えた影響:
社会・法制度:
•複数の国で「創作における人権保護ガイドライン」が制定。
•日本国内でも、芸術家を対象にした「家庭内表現環境調査委員会」が設置される。
芸術界:
•池田朔のすべての受賞歴が**「精神的人権侵害を伴った創作行為」として取り消し対象に**。
•「芸術とは何か」ではなく、「芸術に見せかけた暴力とは何か」が問われ始める。
一般市民の意識:
•多くの視聴者が、映像内の無音・無反応な子どもたちに強いショックを受け、 「自分の子にこうはしたくない」「美しさとは、苦しみの上にあるものなのか?」と語る。
夕暮れ市の動き:
•観応室(山浦家による文化アーカイブ施設)は、 「池田家関係者による創作物の永久収蔵拒否」を明言。
•2140年現在、池田家の跡地は**“封印された場所”として市の地図から除外**されている。
◆ その後の池田家:
•灯の生存説、朔の失踪、澪真の死亡、澪奈の自殺など、未確定な情報が錯綜。
•池田姓を名乗る芸術家は、以後1人も出現していない。
ある芸術家の言葉(匿名/山浦系と思われる):
「彼らが死んだのではない。芸術が、家庭を喰ったのだ。――それが、最初で最後の“観賞者ゼロ”だった。」
* * * * *
[ケースC]
2140の山浦家の状況です。
山浦家立地;池田家とまでは行かなくとも、裏に山を持つ地主である。 あたりは、住宅街で周りの人間との交流は多い。
街までのアクセスは良く、徒歩圏内に商店街や、スーパー、劇場、アトリエ、本屋に映画館など、立地的には恵まれてるといえるが、人の多い場所は教団の攻撃対象になるのでテロや、人為的な事故の被害に遭っている。
山浦家夫:山浦 悠季(第九世代 山浦 悠季に準ずる。)「都市芸術のバックヤード」展主催。 代々守ってきた芸術祭を、自分の代で止めてしまい、自分を責めている。
山浦家妻:(第一世代、坂上家妻のファクターを使用)弟が引きこもりで、母親が弟を溺愛している。息子には真っ当な道に進んでほしい。
親戚:山浦 結葉(第九世代、山浦 結葉に準ずる)病気がちで体が生まれつき弱く、山浦家で同居している身である。
親戚:山浦 環(第九世代、山浦 環に準ずる)天才音楽家。池田家の騒動の後、街を出ていき外で活動を続けている。
祖父:山浦 嶺(第九世代、山浦 嶺に準ずる)池田家の事件をなんとか世間の目から逸らそうとするが失敗。 事実上、教団に敗北した身である。
長男:山浦 嵩【2123年生】
[ 0~10歳]
幼少期から祖父・嶺の“敗北”の空気の中で育ちます。
父が語る、「失われた芸術祭」の話を絵で記録するようになります。
1枚の紙に1日1枚、現在までに6000枚以上の「記録絵」を残しています。
小学校では「言葉よりもレイアウト」で伝える技術に秀でていたが、
教団の襲撃により美術教育を一時停止されました。
[ 10~20歳]
父・悠季から、アーカイブ技術・展示設計・記録の全てを学びました。
18歳で地下室に「幻影博物室」を創設。
実際には展示物はありませんが、『あったものの配置だけを保存する空間』を展示しています。
次男:山浦 泉【2126年生】
[ 0~10歳]
教団の襲撃によって爆音を受け、右耳を完全に失います。
音が半分しか聞こえないという体験が逆に、“記録できなかった音”に強い執着を生むことになりました
[10~20歳]
音楽的才能はなかったが、音の再現技術に長けていくことに。
16歳にして父の協力を得て、かつて演奏された街の音楽反響再生装置を開発しました。
現在、「音が残せるうちは、街は死なない」と語り、街角で“音の記憶”を擦過する活動を続けています。
長女:山浦 音葉【2129年生】
[ 0~10歳]
遺伝的に呼吸器が弱く、人が多い場所には連れて行けなかったようです。
声を出すと咳き込むため、会話は目配せと所作のみ。
[ 10~20歳]
13歳から、『死んだ声と、消された言葉だけで組んだ詩』を発表します。。
文字にしない。すべては口パクで録画され、その表情を読み解く『通訳』を必要とする詩であるようです。
しかし、その詩達は18歳で、教団に記録物を焼却されます。しかし彼女は「私はまだ、読める」と笑ったようです。
次女:山浦 柚希【2134年生】
[ 0~10歳]
感染脆弱体質で、家の外に出られませんでした。
食物栽培と植物観察に長け、言葉ではなく「生き物の配置」で気持ちを示すことを覚えます。
病弱な母を看病する日々から、“無理をしない生き方”の象徴となります。
[10~20歳]
14歳で、祖父・嶺のために制作した「記憶の植栽」は、山浦家の裏庭にまだ残っています。
訪問者が特定の木を揺らすと、その人が見た“かつての祭りの記憶”が再生される仕掛け(?)
総括:山浦家(2140)
・悠季と妻、そして4人の子たちは、芸術の復権を直接叫ぶことはしない。
・彼らはむしろ、**「すでにあったもの」「失われた感覚」「忘れられた配置」**を
少しずつ、しかし着実に掘り返す者たちである。
彼らにとって芸術とは、もう“表現”ではない。 それは、“消されない”という祈りである
池田家が歴史から姿を消します。
残ったのは、坂の上の呪いと、山の麓の祈りでした。
池田家の再起はあるのでしょうか?
そして、泥沼と化した坂上家の未来は……。