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64.D⑥.緑との再会

 昨夜、南部大地はクルーザーに助けられる太陽の姿を確認したあと、☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)本社に向かった。

 誰にも見つからないように、本社ビルに忍び込み、隠し部屋に入ったのは日付が変わってからだ。

 設計図にさえ載っていない、大地だけが知っている部屋だった。

 なぜ、そんなものが存在するのか、社員の大地にさえ知る由もない。

 建築家の遊び心か、あるいはいたずら心としか思えない。

 広い資料室の奥にもうひとつ隠しドアがあることを発見したのは、大地が10歳のときだった。

 他の社員にそれとなく聞いてみたが、なんのことを言っているのか、ピンとくる社員は誰もいなかった。

 隠し部屋に気づいたとき、大地はワクワクしたものだ。

 誰にもわからないように、天井に届きそうなほど大きな本棚と書籍でドアを隠し、いつでも逃げ込めるように準備しておいたのだ。

 この部屋には、水や食料品など生活必需品が用意してある。しかも、どのセクションのコンピューターにでもアクセスできるようになっていた。

 少なくとも、数ヶ月間は誰にも気づかれない自信がある。

 昨夜から今日にかけての出来事も、この部屋で知ることができた。

 緑が社長室に監禁されていることも、昨夜海上で太陽を助けたのが誰かも、サンが☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)の陰謀を警察に報告したことも全てだ。

 大地は決して機械音痴なのではない。

 そう装ってきたのは、 今日の日のためだった。

 藤堂を油断させる必要があったからだ。

 いよいよ、全てを終わらせるときがきた、と大地は自分に発破(はっぱ)をかける。

 放送室のMCハンマーには、日向が流しているネット上の映像を守ってくれるように頼んである。

 あとは緑を助けだすだけだ。

 大地は階段で地下室まで下り、 太陽たちとは別の廊下を走っていた。

 目的地まであと10mに迫ったとき、第3倉庫から聞こえてきたのは、誰かの叫び声だった。


「まだわからないの? これはゲームじゃないのよ」


 その後、ガタガタとなにかが倒れるような音が響く。

 不安になった大地は、第3倉庫に飛び込んだ。

 そこで感じたものは、異様な雰囲気だった。

 床に倒れたまま、藤堂を睨みつけている緑。

 一方、藤堂の表情は苦虫をかみつぶしたように、(いら)ついている。

 大地に気づいた藤堂が、


「早くこの女を黙らせろ!」


 と怒鳴り散らした。

 今や、藤堂の姿など眼中にない大地は、慌てて緑に駆け寄り、助け起こす。


「緑、唇に血が……」


 と、思わずハンカチを差しだしたものの、余計なお世話かと持て余した。

 一方、少し躊躇ったあと、緑が、


「ありがとう」


 と素直に受け取ってくれたから、逆に大地は驚いてしまう。

 ハンカチを受け取った緑がお礼のつもりなのか、久しぶりに本気の笑顔を返してくれて、大地もやっと笑顔になった。

 勿論(もちろん)、自分の裏切りが許されるはずがないとわかっているだけに、半分はまだ作り笑いだが……。

 事情を飲み込めない藤堂は、焦っているようだ。


「大地、なにをやっているんだ? 俺に逆らうつもりか?」


 大地は、フンと鼻先で笑った。

 今までで、1番気に入った“フン”だった。

 藤堂が眼球まで赤く血走(ちばし)らせ、(にら)んでくる。

 しかし、今の大地には滑稽にさえ思えた。

 激怒した藤堂が、


「どうなるか、わかってるんだろうな。テログループに差し出してやる。誰かッ、誰かッ」


 とヒステリックに叫んだ。

 廊下からいくつもの足音が聞こえてきたと思うと、ドアが開き、数人の黒服の男たちが入ってきた。


「この裏切り者を連れて行け!」


 ボスである藤堂の命令で、黒服の男たちが大地に殴りかかった。

 もちろん、大地も応戦するが、いくら体育会系とはいえ、まだ中学生である。

 しかも、相手は鍛えられたプロの護衛だ。

 叶うわけがない。

 それは大地自身もわかっていることだった。

 それでも男には勝負しなければならないときがあるのだ。

 大事なものを守るためなら、自分はどうなろうと構わない。

 ただ緑だけは守りたい。

 その一心で殴られようが蹴られようが、緑の前から動くわけにはいかないのだ。

 少なくとも、太陽が来るまでは……と思い、大地は自分でも驚く。

 結局、俺も太陽に期待しているということか……。

 悔しいが、仕方ない、と大地は認めた。

 増えていく傷と痛みの分、 覚悟は強くなる気がした。

 しかし、体は正直で、殴られた鈍い音と同時に重い痛みが走り、思わず悲鳴に似た短い声を発してしまった。

 緑が心配するじゃないか、と反省する。


「やめて!」


 緑も必死で止めようとするが、とても敵う相手ではない。

 ついに、大地の体力にも限界が迫っていた。

 このままでは、緑を巻き添えにしてしまう。


「緑、一人で逃げろ、早く」


 と、大地が必死で訴える。

 これ以上、守ってやれない自分が不甲斐ないが、今はそんなことも言っていられない。

 だが、 大地自身嫌というほどわかっている。

 緑にそんなことができるはずはないと。

 黒服の男たちに体当たり していく緑の姿が目に入った。


「大地を離して」


 結局、緑は黒服に押さえつけられた。


「やめろ。緑に手を出すな」


 大地が最後の力を振り絞り、黒服たちを押しのけ、緑の前に立ちはだかる。

 なんとしても緑だけは助けたい。


「太陽、お前だってそうだろ。だったら、早く来い!」


 大地が胸中で叫んだとき、 突然、第3倉庫に多くの男たちが突入してきた。

 一見して、ざっと20人はいるだろう。

 黒服の仲間かと血の気の引く思いでよく見ると、青いジャンパー……? 

 以前どこかで目にした制服のような……と考えて、大地はやっと思い出した。

 ほっとした大地は大きなため息を吐く。

 気がつくと、青ざめた藤堂が 狼狽(うろた)えていた。


「お、お前たちは何者だ?」


 青ジャンパーは警官隊の第2の制服である。

 それも思い出せないほど、藤堂は動転しているのだろう。

 大地は藤堂に向かい、フンと鼻先で笑ったあと、話し始める。


「太陽の行動はネットで流れている。あんたの悪行のすべても公表済みだ。もちろん、プレイヤーは全員キャンセルしてきた」

「貴様ぁぁぁ!」


 額の血管を膨らませた藤堂が大地に(つか)みかかるが、警官隊に取り押さえられた。


「クソ! 放せ、放せ」

「もうゲームオーバーなんだよ。あんたも俺も……」


 大地にとって、藤堂と刺し違えるなら大満足だった。


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