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61.T⑱.『ミドリチカダイサンソウコ』

 緑はどこだどこだどこだ…… 。

 ☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)本社ビルのCEO室から飛び出してきた羽賀太陽は、完全にパニック状態に陥っていた。

 緑は最上階のCEO室にいると信じ切っていただけに、期待度の高低差にめまいがする。

 今の太陽は一部屋ずつドアを開け、確認するしかない。

 全館どころか、この階の部屋を調べ終わる前に、黒服たちの視界が回復し追ってくるだろう。


「そんなこと、わかっているわかっているわかっている。でも、 他の方法が思い浮かばないから、仕方ないじゃないか」


 心の中で叫んだとき、太陽は不思議な光景に立ち止まった。

 日向がじっと、天井を見上げていたからだ。

 そんな余裕がないことは、誰よりもわかっているはずなのに……。

 何が気になっているのだろうと、太陽も天井を見上げた。

 そこだけライトが点滅している。

 電球の寿命が切れかかった不快な感じとは、微妙に違っているように思えてならない。

 点滅している間隔が意図的に変えられているからだ。

 太陽が不思議に思っていると、日向は独り言のように呟く。


「ミ ド リ チ カ ダ イ サ ン ソ ウ コ」


 日向が満面の笑顔で振り向いた。


「太陽様、緑様は地下の第3倉庫です」


 どうしてわかるのだろうと、太陽が疑問に思ったときだった。


「☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)の社員の中にも我々の味方がいるようです」


 と、藤堂が嬉しそうに説明する。

 まだ事情を理解できない太陽は、完全に脳がフリーズしている状態だった。

 またしても、日向が察してくれる。


「太陽様、わたくしを信じてください」


 ここまで言われたら、感情派の太陽としては素直になってしまう。

 海上で気を失い、溺れかけた自分を助けてくれた命の恩人を疑うなんてできっこない。


「はい」


 太陽も満面の笑顔を返した。

 あ、とまた、日向が天井を見つめた。

 やはり、ライトが点滅している。


「今度はエレベーターで行きましょう」


 日向が告げた直後、“チン”とエレベーターの到着音が鳴り、ドアが開く。

 あまりのタイミングに驚きながらも、太陽は日向と共に、エレベーターに駆け込んだ。

 ほぼ同時にCEO室から出てきた黒服の男たちが、二人に気づいたようだ。

 慌てて駆け出し、向かってくる。

 恐怖した太陽は思わず、『閉』ボタンを連打してしまった。

 エレベーターのドアがゆっくり閉まり始める。

 まるで陸上競技会のように、黒服たちが腕を思いっきり振って走ってくる。

 あと、20メートル。

 自動扉が三分の一ほど閉まっている。

 太陽が心中で祈る。


「早く閉まれ早く閉まれ早く閉まれ……」


 黒服たち、あと10メートル。

 自動扉が三分の二ほど閉まっている。

 このままだと、計算ではギリギリだ。

 セーフか?

 アウトか?


「頼む。早く閉まってくれー」


 太陽が心中で叫んだ。

 黒服たちが目の前にまでやってきた。


「間に合えー」


 太陽の口が叫んだ途端、エレベーターのドアが閉まった。

 間一髪だっただけに、太陽は思わず床に座り込んでしまった。

 ドアの向こうから、乱暴にドアを蹴る音や男たちの叫び声が聞こえる。


「どうしてドアが開かないんだ。クソッ」

「覚えてろー」


 太陽の心臓はまだ暴走しているのに、急にエレベーターが動きだした。


「行き先のボタン押したっけ?」


 と考えていると、今度はエレベーター内の天井のライトが点滅し始めた。

 日向が読み上げる。


「トマラズニチカマデイク。デキルノハココマデ。チカニタスウノクロフク。ケントウヲイノル」

「地下にたくさんの黒服が待ち構えているということですか? 日向さん、どうしますか?」


 思わず太陽が質問した。


「わたしにいい考えがあります」


 日向は背負っていたリュックサックを床に置き、ファスナーを開けた。

 太陽の感覚からすると、それから直ぐだったような気がする。

 エレベーターの到着音がチン と鳴り、ドアが開いたのは……。

 案の定、廊下には十数人もの黒服たちが待ち構えていた。

 この狭い空間にこれだけの人数では、いくら日向でも勝ち目はないだろう。


「緑……」


 絶体絶命の中、心配でたまらない太陽はその愛しい名を呟いた。


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