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58.H⑫.罠

 MCハンマーは突然、拳の内側に痛みを感じた。

 開いてみると、中央部分にくっきりと爪の跡が残っている。

 力いっぱい握りしめたせいだろう。

 それほど力んでパソコンの画面を観ていたのかと、自分でも呆れた。

 目前のパソコン画面には、☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)最上階の廊下に設置された、防犯カメラの映像が流れている。

 つまり、 最上階廊下を走る羽賀太陽と日向の姿が映っているというわけだ。

 CEO室は目前だ。

 太陽と加藤緑の再開シーンを想像しただけで、ハンマーは涙ぐんでしまう。

 生い立ちに恵まれなかったからか、情には滅法弱いのだ。

 画面の隅に、踊り場から出てきた黒服たちの姿も映った。

 太陽たちと10秒差か。

 これなら楽勝だろうと思った途端、ん? と、 何かが引っかかった。

 おかしい気がする。

 不思議というか、不安というか、ハンマーはなにか腑に落ちない、消化不良のような気持ち悪さを感じた。

 それでも、マイナス思考は悪い癖だ、と自分に言い聞かせる。

 ついにやっと、太陽の右手がCEO室のドアノブを握った。

 と同時に、ハンマー も期待を込めて、 画面を防犯カメラ番号1番CEO室内の映像に切り替える。

 そこには当然、藤堂慎一の姿があった。

 緑も希望と不安な気持ちを抱き、壁にはめ込まれたディスプレイをじっと見つめている。

 その画面には、CEO室前廊下の防犯カメラ映像が映し出されていた。

 ちょうど、太陽がドアを開ける瞬間だ。

 待ちに待った最高のシチュエーション。

 ハンマーは心の中で叫ぶ。


「さぁ、太陽入ってこい」


 だが、おかしい。

 いくら待っても、太陽が入ってこないではないか。

 ついさっき、太陽が開いたのは確かにCEO室のドアだった。

 緑と藤堂がいるのも、CEO室だ。 

 何故、太陽は緑に会えないのだ? 

 太陽と日向が消えた?

 まさか、オカルトやミステリーでもあるまいし。

 そういえば、と今更ながらにハンマーは気づく。

 緑と藤堂がいる部屋のドアは 一度も開いていない。

 では、太陽と日向はどこに行ってしまったのだろう? 

 まさか、と思ったハンマーは、防犯カメラを順番に観ることにした。

 1番が今緑と藤堂がいるCEO室だから、 2番の部屋からだ。

 やはり、太陽たちはいない。

 3番も4番も同じだった。  それでもボタンを押し切り替えていくしかない。

 この部屋もいない。

 ここも違う。

 これではキリがない。

 クソ、と叫びながらも、ハンマーの指がボタンを押し続けた結果、いた。

  太陽と日向が真剣な表情で立ち尽くしている。

 防犯カメラ番号112番の映像だ。

 しかも、二人と対峙しているのは、ドアを背にした黒服たち。


「罠にかかったな」


 そう 口にして、黒服のリーダーがニッと笑った。

 そうか、とハンマーは今更ながらに気づく。

 今から考えれば、確かにおかしいことばかりだった。

 鍛えぬかれた黒服たちが、中学生の太陽に追いつけないはずがない。

 その前に、階段で追いかける必要がどこにある。

 エレベーターで先回りし、最上階で待てばいいだけの話だ。

 第一、こんな非常時にCEO室前の護衛がいないのも不自然だった。

 今頃気づくとは、とハンマーは後悔の念を払拭できないでいる。

 太陽と日向は、黒服たちに唯一の出口を塞がれた袋の鼠状態だった。

 これが奴らの目的だったのか。

 それでも一応、日向に用心しているのだろう。

 黒服たちはいきなり飛びかかるわけではなく、じわじわと追い詰める作戦らしい。

 これだけの人数相手では、いくら日向でも、自分の体を守るので精いっぱいに違いない。

 絶対絶命。

 そう思ったときだった。

 日向が太陽に目配せし、太陽も笑顔で頷いたように思えた。

 その余裕はどこからくるのかと不思議に思っていると、日向が素早く壁に備え付けられているライトのスイッチを切った。

 もちろん、部屋内は真っ暗だ。


「どうしたんだ? 何も見えないぞ」

「早く明かりをつけろ!」


 などと、黒服たちの怒鳴り声が飛び交う中、


「 スリー、ツー、ワン、ゼロ」


 と日向の声が終わった途端、目がくらむほどピカッと光った。

 すぐに閃光弾(せんこうだん)だと理解した。

 その一瞬、サングラスをかけている太陽と日向、逆にサングラスを外し、瞼を開けている黒服たちの顔が観えた。



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