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57.T⑰.☆TSgame-Co.本社ビルCEO室

 高橋宅を出発して約30分後、羽賀太陽は☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)本社ビルの表に立っていた。

 もちろん、横には日向もいる。

 空を突き破りそうなほど巨大で冷徹なビルを見上げながら、太陽は想像する。

 昨日、緑もここに立ったのだろう。

 そして、この冷たく巨大なビルを見上げながら、手が届かない相手、顔さえ見えない不気味な敵のように思ったに違いない。

 それでも、太陽の表情には迷いなど存在しなかった。

 ただ、 緑を救い出すだけだ。


「日向さん、行きましょう」


 ビルの入り口に向かって歩き出す。

 CEO室にいる藤堂が、監視カメラで自分たちの行動を覗いていることは、太陽もわかっている。

 だから、正面突破とは大胆すぎるとも思う。

 でも、自分にはそれしかできないから仕方ないと覚悟していた。

 それに、横には頼りになる協力者も一緒にいてくれる。

 なによりもありがたいし、心強くもある。

 結局、皆の力を借りなければ何もできないが、 緑を救い出せるならそれでもいいと、太陽は腹をくくっていた。

 太陽と日向がロビーに入っていくと、 案の定奥から黒服の男たちが出てきた。

 やはり、待ち構えていたのか。

 余裕綽々(しゃくしゃく)にみえるから悔しい。


「太陽様、エレベーターは危険です。 階段で行きましょう」


 日向が的確な指示を出してくれる。

 一体、この人は何者なのだろう、と太陽は不思議でならない。

 ただの執事とは思えない。

 やけに肝が座っているし、 動きも機敏で、本当に自衛隊の経験があるのではないかと思えてくる。

 頼りがいがあるから、太陽は素直に従い、左側にある階段入り口のドアに駆け込む。

 日向の靴音が後を追ってくる。

 更に、ドアの開閉と複数の足音で、黒服たちが入ってきたのもわかる。

 文字通り追われて、太陽は階段を駆け上がっていく。

 その後からついてくる日向が、


「太陽様、CEO室は最上階です」


 と叫ぶ。

 どうして知っているのだろうと考えて、太陽はやっとあの1時間の意味に合点がいった。

 太陽は階段を2F、3F、4Fと駆け上がり、日向が5F、6F、7Fとつき合ってくれる。

 正直なところ、強そうな日向が後ろについてくれているから、太陽は前だけを意識して進むことができる。

 時間的だけでなく、精神的にも楽だった。

 それでも、先はまだまだ長い。

 いくら若いとはいえ、太陽は荒い息を吐きながら、手すりにつかまるようにして上がっていく。

 もちろん、後から日向と黒服たちもついてくる。

 追われる立場として、8F、9F、10Fと上りながら、太陽はなにか違和感を覚え始めていた。

 とても大事なことのような気がするのに、考える余裕がない。

 脳は酸素不足だし、足は痛くて悲鳴を上げていた。

 破裂しそうな肺も苦しい。

 やっとのこと、太陽は最上階の踊り場に到着した。

 慌ててドアを開け、廊下に飛び出したものの、膝についた両手で何とか体重とバランスを支えながら、荒い息を整えるので精一杯だった。

 何百段という階段を駆け上ってきたのだから当然だ、と 一旦は思うものの、そんなことも言っていられないと、自分を叱咤する。

 後方から、日向の声が追いかけてくる。


「太陽様、左の突き当たりがCEO室です」


 さすがの日向も途切れ途切れの声を絞り出す。

 反射的に太陽が廊下左側を確認すると、突き当たりのドアに 貼り付けられた『代表取締役CEO室』のプレートが、キラキラ輝いていた。


「もうすぐ、緑に会えるんだ」


 そう呟いた太陽は、湧き上がる力を感じた。

 最後の体力を振り絞り走り出す。


「緑、すぐに助けるから」


 心中でそう叫びながら。

 しかし、はやる心と現実の距離感が、あまりにも違いすぎる。

 自分の体なのに、太陽はまるでスローモーションのように思えてならない。


「もっと早く、一歩でも先に」


 と頭の中で叫びながら走る。

 やっと代表取締役CEO室にたどり着いた太陽は、ドアを開け、飛び込んだ。


「緑ー」


 と叫びながら。


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