54.M(23).人生の転機はいつも突然に……
それにしても、と加藤緑は不思議に感じた。
(ここはどこなの?)
画面の中には豪華な部屋が映し出されている。
(game isleにこんなすごい家なんてあったっけ?)
そんなことを考えながら、緑が画面を注意深く観ているときだった。
「ん?」
思わず、緑は素っ頓狂な声を発してしまった。
画面の中、振り向いた人物の顔には見覚えがあるからだ。
実際に会ったことはないが、写真で観た強烈な印象が残っている。
それ以上に、電話で話したときのショッキングな内容も鮮明に甦った。
彼女は太陽のプレイヤーである高橋美津子だった。
ベッドの横にある椅子に座り、 枕元を心配そうに見下ろしている。
そのベッドの中で大事な人が眠っている、そんな感じだ。
それにしても、 何故彼女が映っているのだろう?
疑問は更なる驚きへと導く。
パソコンの画面の中で、ドアが開き、誰かが入ってきた。
「あー」
と、叫びそうになる口元を、 緑は慌てて両掌で抑えた。
白スーツ?
まさか、あのクルーザーの……?
昨夜から☆TSgame-Co.のCEO室に監禁されている緑は、大地のボートに装着されている監視カメラの映像の一部始終を見ていた。
机上のパソコンで。
当然、海に投げ出された太陽の体が、クルーザーに引き上げられる場面も。
緑は研ぎ澄ました瞳で、パソコンの画面を確認する。
やはり、あの人だ。
ということは……。
次に、緑はベッドの枕元をズームアップした。
掛け布団から出ている寝顔は、やはり太陽だった。
緑の思考回路は素早く答えを導き出す。
恐らく昨夜、白スーツの男が太陽の体を、その部屋まで運んだことになる。
ということは味方なのか。
いや、と、これまでの辛い経験がストップをかける。
決めつけるのは時期尚早、危険だ。
それに、疑問はまだ残っている。
何故、勝手に映像が変わったのか。
あ、そういえば、と緑はサンの言葉を思い出した。
「俺が必ず、太陽を助けに来させるから、安心して待ってな」
緑はやっと気づく。
サンがパソコンの画面を切り替えたのだろうと。
太陽の居場所を知らせるために。
自分はボロボロで、今にも死にそうな状態なのに……。
緑は再び込み上げてくる涙を我慢した。
一方、ベッドの中で眠っている太陽は、何か悪い夢でも見ているのだろう。うなされていた。
その枕元で、高橋美津子が太陽の寝顔をじっと見つめている。
心配というより、辛くてたまらない、そんな感じだ。
白スーツ姿の男も察したようで、高橋美津子の斜め後ろに立ち、まるで自衛隊員のように直立不動の体制をとる。
「会長、お体に触ります。わたくしが変わりますので、少し休んでください」
「日向、ありがとう。でも、太陽の看病だけはわたしにさせて。お願い」
白スーツの男性は日向というらしい。
どうやら高橋美津子の執事のようだ。
緑は素早く頭の中を整理する。
今までの経緯からすると、 主人である高橋美津子の依頼で、執事の日向が太陽を助けだした、と考えた方がすんなりいく。
「わかりました。ただ、無理だけはしないでください。お願いします」
日向は一旦引き下がり、様子を見た方がいいと察したようだ。
ふと、一流の主人には一流の執事が似合う、と頭に浮かんだ。
辛そうに太陽の寝顔を見守る高橋美津子の映像を観つめながら、緑は電話での会話を思い出した。
彼女は大したものだと、つくづく思う。
余命宣告を受けているというのに、自分の命より太陽の方が心配だというのか。
一方、どうやら、悪夢がピークに達したのだろう。太陽が思わず、
「緑、危ない」
と叫び、上半身を起こした。
緑が鼻に込み上げてくる熱いものを感じたときだった。
人生の転機はいつも突然やってくる、と悟った。
ノックもなしに、突然CEO室のドアが開き、入ってくる藤堂の姿に気づいたからだ。
緑の表情が、緊張 一色に変わる。
「どうして?」
緑は間髪を入れず、ストレートに口にする。
昨日から、なにより先に確かめたいことがあった。
「どうして、太陽を苦しめるの? どうして、あなたにそんなことができるの? だって、あなたは……」




