52.H⑪.1人目、発見!
いろんなことが、しかも大事件ばかりが起こっているというのに、MCハンマーには現実味が足りなかった。
途中から脳が、もういいやと、考える機能を放棄したようだ。
それも仕方ないと諦めかけ、集中力が散漫になる。
その機会を狙いすましたかのように、昔見た子猫の夢が、脳内に甦ったのだろう。
あの夢を見たのは、テログループで兵士としての訓練をさせられていた頃か?
それとも、すでに☆TSgame-Co.で働かされていた頃か?
ハンマーは思い出そうとして、 どちらにしろ、あまり変わらないか、と諦めた。
もっと重要な問題に気づいたからだ。
あまりにも激変、しかも急変したため、ハンマーの頭脳は変化という激流の中で溺れかけていた。
頭脳と気持ちを立て直すために、この数日間の記憶を辿る。
それにしても、あのときの南部大地はいつもとは別人のようだった。
白スーツの男のクルーザーが羽賀太陽の体を奪ったというのに、大笑いしていたっけ。
何かおかしいと感じながらも、その時のハンマーには大地の気持ちを察してやる余裕がなかった。
一体、あの白スーツの男は何者なんだ?
敵か?
味方か?
少なくとも☆TSgame-Co.の人間でないことだけは確かだ。
この最悪な状況のなか、見知らぬ人物まで登場してくるとは、一体これからどうなるのだ?
ハンマーは途方にくれかけたが、はっと気づく。
今はそれどころではない。
幼馴染三人組を探す方が先決だ、と。
ハンマーはずっと思い込んでいた。
この部屋から出られない以上、自分にはgame isleの監視カメラの映像だけが全てだと。
ところが、突然、「本当に?」と疑問が湧く。
『思い込みは想像力の敵だ。』
と閃いた。
そういえば、game isle以外でも観られる箇所があるではないか、と。
ハンマーは画面の映像を、game isleの監視カメラではなく、☆TSgame-Co.本社の防犯カメラに切り替えた。
こともあろうに、そこはCEO室だった。
場所が場所だけに、当然一般社員が勝手に覗き見することは禁止されている。
すでに、☆TSgame-Co.の創立20周年記念行事も終了し、しかも太陽が島を出るという非常事態の中、セキュリティも厳重になっていた。
が、伊達に15年近くも働いてきたわけではない。
セキュリティを超える裏技も身につけてあるし、例え見つかったとしても悔いはない。
ハンマーはそう思っていた。
既に、太陽と緑の手助けをすると決心済みなのである。
「あ、いた」
最初に見つけたのは緑だった。
昨日、拉致されたまま、☆TSgame-Co.本社に連れてこられたのだろう。
今はCEO席に座っている。
ドアの前には 見張りの黒服が立っているから、監禁状態に違いない。
ハンマーはつくづく思う。
全てはここから始まったんだよな。
藤堂CEOがリアル育成ゲームを発案し、全ての命令が下されたのも。
テログループが拉致した赤ちゃんを養子縁組し、洗脳したのも。
その子どもたちのプレイヤーを募集したのも。
大地や梓のように、プレイヤーに選ばれなかった子どもたちを脅迫によって社員にしたのも。
そして今、 緑の運命が決まるのも、やはりここなのか。
一体、緑はこれからどうなるのだ?
本当に自爆テロ要員としてテログループに引き渡されるのか。
あの藤堂ならやりかねない。
下手をすると、もっとひどい目にあうかもしれない。
底が知れないだけに、ハンマーの不安は尽きそうにない。