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49.D④.究極の選択

 遂に、大地の顔から余裕の()みが消えた。


「何故だ。何故だ。何故だーッ」


 南部大地は悲鳴にも似た叫び声を挙げた。

 羽賀太陽の親子ごっこも、今までなら、


「ゲームとも知らないで……」


 と、 心の中でバカにして笑っていられた。

 大地にとって、それが唯一の平常心を保つ支えだったのだ。

 しかし、太陽はゲームの親だと知った今でも、両親を愛している。

 加藤緑も複雑な心境ながら、結局両親を守ろうとした。

 つまり、太陽と緑には家族がいる。

 互いに守り守られる存在でもある。

 その上、 俺まで守ってやりたいだと?

 ふざけるな!

 それは傲慢(ごうまん)だッ。

 屈辱(くつじょく)だッ。

 じゃ、俺に残されたものは何だ?

 裏切り者の烙印だけだ。

 今更、全てをなかったことにできるわけがない。


「太陽、俺はお前が大嫌いだ。一緒にいるだけでヘドが出る」

「ぼくは大地が大好きだよ」  

「俺はお前が憎かった。ずっとずっと憎かった」


 売り言葉に買い言葉。

 つい言ってしまうってこともあるよな。

 と大地は頭をかすめるが、口に出してしまった以上、今更取り返しはつかないと、自分に言い聞かせる。

 そこに、太陽の声が聞こえた。


「ぼくが悪いなら謝るよ。ごめんなさい。だから、ぼくはずっと大地と一緒にいたい」

「俺が憎んでいると言っているのに、どうしてそんなことが言えるんだ。バカにしているのか?」


 太陽、お前は何もわかっていない。

 リアル育成ゲームの本当の意味も、何故お前がキャラクターにされたかも、両親や俺たちがどんなにひどい人間かも全然わかっていない。

 そして、一番大事なこともわかろうとしない。


「一番、お前を騙してきたのは誰だ? 裏切り者は誰だ? そうだ。それは俺だ。いい加減わかれ!」


 そう叫んでやっと、大地は悟った。


(俺はいつか太陽から憎まれると思っていた。だが、先に太陽の方をから憎まれるのは怖すぎるから、俺の方から憎もうとしたに違いない。俺が憎んでいるんだから、太陽から憎まれて当然だと、思い込もうとしたのだ。

 自分勝手だと思う。逆の立場なら、我が儘もいい加減にしろと激怒するだろう。

 わかっているわかっているわかっている。だが……。)


 そこまで考えて、大地は太陽の癖が移ったと気づいた。

 何故なら太陽が、


「わかんないわかんないわかんないよー!」


 と、3回繰り返してきたからだ。


「どうして大地が悪いの?  どうして大地を好きじゃいけないの? どうして一緒にいられないの?」

「お前はガキか!」


 大地はそう叫ぶが、本当は誰よりも太陽を理解しているつもりなのだ。

 感情豊かな太陽の心の中には、大好きが溢れている。

 その気持ちがあまりにも偉大すぎて、それに値するだけの言葉が見つからない。

 というより、 太陽にとって、大好きな気持ちと同等の言葉など存在しないのかもしれない。

 それだけ、気持ちが素直なのだ。

 太陽は自分のバカな部分も、ダメなところも隠そうとしない。

 それはそれとして素直に受け止め、大好きを気持ちで訴えようとする。

 邪念が少ない 分、周りの人々にストレートに伝わるのだろう。


「ガキにはお手上げだよな」


 そう苦笑すると、大地は肩から力が抜けていくのを感じた。

 今まで複雑怪奇に思えた自分の運命も、バカバカしく思えるからだ。

 太陽と一緒なら人生をやり直せるかもしれない、と甘い考えが浮かんだときだった。

 突然、 携帯の呼び出し音が響き渡った。

 誰かはわかっている。

 だから、 大地の顔からみるみる血の気が引いていく。

 しかも、この携帯は特注なのだろう。

 ポケットに入れたままなのに、低音でよく響く藤堂の声が大音量で怒鳴ってきた。


「大地、まさか太陽の情が移ったんじゃないだろうな。お前の行動に緑の命がかかっていることを忘れるな」


 大地は究極の選択を迫られたことになる。

 緑を取るか? 

 太陽を取るか?

 この作品と並行して書いている次回作品、「異世界劇団『Roman(ロマン) House(ハウス)』」の第1話プロローグを6月8日(日)13:00に投稿予定です。読んで頂けると嬉しいです。

(内容)並木知美(19)は知っていた。多くの霊が天国に行けずにいることを。彼らは大切な生者が苦しんでいるのに、なにもできず、ただ見ているだけの自分を責めていた。そこで、知美は死者の気持ちを、芝居で生者に伝える劇団『Roman(ロマン) House(ハウス)』を思いつく。芝居の力に賭けるのだ。ところが、白血病の知美は双子の妹・愛合めぐりに浪漫座を頼み、寿命を全うする。その後、転生した知美は、異世界でも劇団『Roman(ロマン) House(ハウス)』を立ち上げる。知美の計画とは……。まず、知美が死者の思いを、異世界の浪漫座の芝居で現世の愛合に伝える。その愛合が現世の浪漫座の芝居で、生者に伝えるというものだった。

 果たして、現世と異世界をまたぐ姉妹の壮大な以心伝心は成功するのか……? 


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