表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/67

04.T②.サンは大切な友達なんだ

(これまでのあらすじ)

 サンは太陽から作り育てられたAIキャラクターで、平和主義者だった。ところが、大地の嘘によって格闘ゲームに参加させられたサンは、敵のキャラクターの説得にも失敗し、襲いかかられる……。

 スタジアムを飛び出した太陽は走る。

 目的も行きたい場所もなく、ただひたすら走り続けた。

 じっとしていると、辛い感情がマグマのように煮立ち、心が爆発しそうになるからだ。

 そのパワーを使い切るまで走りたかった。

 悩み事や辛いことがあると、疲れ果てるまで思いっきり体を動かす。

 それが太陽の癖なのだ。

 わ~、と泣き叫びながら、太陽が砂浜に着いたのは、スタジアムを出て30分後だった。


「太陽……」

「待って……」


 後から大地と緑の声も追いかけてくる。

 しかし、今の太陽に二人を気遣う余裕はない。

 まだ、体を動かし足りなかった。

 このままでは、辛い感情がどんどん自分の心を侵食していく気がする。

 目の前は海だ。

 泳ぐしかない。

 走りながら服を脱ぎ捨て、前もって()いていた海パンだけになった太陽は、海の中に入っていく。

 ゲーム大会終了後、三人で泳ぐ約束になっていたのだ。

 ついに、太陽は水平線に向かって本気で泳ぎだした。

 後ろから、


「しょうがねぇなぁ」


 と、わざと大声で叫ぶ大地の声が聞こえた。

 呆れ顔なのに、なぜか嬉しそうに学生服を脱ぐ大地の表情が、太陽の脳裏に浮かんだ。

 きっと、海パン姿で追ってくるに違いない。

 太陽は必死で逃げる。

 合わせる顔がないのだ。

 それに、泣き顔も見られたくなかった。

 どれくらい沖へきただろうと、ふと気を抜いたときだった。

 突然、太陽は溺れそうになった。

 大地の手が泳いでいる太陽の足をつかんできたからだ。


「太陽、落ち着けって」

 

 波音に負けないように、大地が叫ぶ。

 太陽はパニックになりかけるが、大地の手が太陽の足を解放したため、二人は立ち泳ぎになった。

 再び、大地が叫ぶ。


「ゲーム大会の1回戦は勝ったのに、なにが気に食わないんだ? サンも無事だったんだから、いいじゃないか」


 確かに、大地の言うとおり、中学生ゲーム大会の1回戦は幼馴染み三人組が勝利した。

 緑のレイが動けなくなったサンを連れて逃げ回り、大地のマックスが敵の3体を倒したからだ。

 しかし、その直後、太陽がスタジアムを飛び出し、大地と緑も追いかけたから、2回戦は棄権になっているだろう。

 ただ、太陽にとって問題はそこではない。


「でもでもでも……」


 太陽はそこまで口にしたものの、次の言葉が出てこない。

 本当は、サンを守れなかった自分が許せないからと言いたいのに、興奮すると頭の中が空回りする。

 理屈より感情が先走るからだ。

 大好きなサンのためだから、一生懸命弁明しなければならないと思えば思うほど、焦ってしまう。

 感情が体を駆け巡り、頭は空回りして、いつもの口癖になる。

 太陽の他の口癖は、


「だってだってだって……」

「だからだからだから……」 


 で、どれも同じようなものだ。

 3回繰り返すのは、言いたいことが言えない悔しさと歯がゆさからだった。


「たかがゲームのキャラクターだろ」


 と、呆れ顔の大地が太陽の頭を小突く。

 サンは大事な友達なんだ、と言いたいのに、結局太陽の口から出た言葉は、


「でもでもでも……」

「だから、その“でも”はやめろと言ってるだろ、“でも”は。男だったら、はっきり言え」


 大地もいつもの口癖で返したあと、太陽の後方を見て、“あ”と驚きの声を()らした。

 大地の視線を追って、太陽も後ろを振り返る。

 そこでは、ボートに乗った3人の監視員が、海水に浮いている太陽と大地を見下ろしていた。

 直感的に、太陽は違和感を覚えた。

 普通、海上の監視員は爽やかで動きやすい水着かウエットスーツが多い。

 なのに、スーツにサングラス? 

 しかも、黒ずくめ……。

 どうして海の監視員がこんな威圧感を必要とするんだろう、と太陽は不思議だった。


「この先は遊泳禁止だ。戻れ」


 監視員の一人が、ドスの効いた口調で命令してきた。

 サングラスで表情がわからないから、脅しともとれる。

 監視員たちの後方には、『☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)の私有地につき、関係者以外立ち入り禁止』の看板が浮いていた。

 そこから先は☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)の領域ではないから、遊泳禁止になっている。


「あそこから先に行ってはいけない」


 game(ゲーム) isle(アイル)の子どもたちは、幼い頃から何度も言われた。

 両親だけではなく、多くの教師や大人たちからも。

 海は続いているのに、どうして行ってはいけないのだろう?

 この先に何があるのだろう?

 行ってはいけないと言われれば言われるほど、太陽の想像力は駆り立てられたものだった。


「すいませ~ん」


 大地は頭を掻きながら、笑って誤魔化(ごまか)す作戦らしい。


「太陽、お前のせいで怒られたじゃないか」


 と大地が責める。


「ごめんごめんごめん」

「緑が待っているから、戻ろう。砂浜まで競争だ」


 と言い終わると同時に、大地は砂浜を目指し泳ぎだした。


「あ、大地、ずるいよぉ」


 単純な太陽も反射的に大地を追った。


♢ ♢ ♢ 


(どうして、ぼくはひとつのことしか考えられないのだろう。)


 砂浜に戻った太陽は、反省せざるを得ない状況に(おちい)った。

 サンのことでスタジアムを飛び出したことも、大地との競争に夢中になりすぎていたことも。

 太陽は砂浜に泳ぎ着いて初めて、心配そうに待っている緑に気づいたのだ。


「緑……」


 と口にしたものの、続く言葉を失ってしまった。

 せっかく、中学生ゲーム大会の3連覇がかかっていたのに。

 しかも、今年が最後だというのに、負けてしまった。

 それも自分のせいで……。

 そのことを思い出した太陽は、まともに緑の顔を見ていられない。

 そのときだった。


「ありがとう」


 と緑の声が聞こえた。

 え? と太陽が視線を上げると、そこにはいつもの優しい笑顔があった。

 緑のことだ。

 嫌味ではないはず。

 じゃ、何故?

 緑の口から発せられた言葉の意味を理解できない太陽は、不思議そうに首を傾げる。

 自分のせいでゲーム大会の2回戦が棄権になり、3連覇の夢が絶たれたというのに、ありがとう?


「どうして?」


 と、太陽が頭に浮かぶのと同時に、口から出ていた。


「だって、太陽のサンがあたしのレイを守ってくれたから」

「レイがサンを助けてくれたんだよ」

「レイが誰かを殺さないように守ってくれたのはサンでしょ」


 緑の優しさが言葉以上に伝わってきた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ