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03.T(太陽)①.格闘ゲーム

(これまでのあらすじ)

 サンは太陽から作り育てられたAIキャラクターで、平和主義者だった。ところが、太陽の幼馴染みの大地にだまされて参加したゲーム大会が、格闘ゲームだと知ってしまった。

 この島には、幼稚園から大学まで一貫した☆TSgame(ゲーム)-School(スクール)しかない。

 ゲーム開発のために作られたこの学校では、ゲーム制作者養成科目も必修になっている。

 小学生ではゲームの基礎を習い、高校生になると実際にゲームを作る授業もある。

 また、中学生は自分だけのキャラクターを作り育てていた。

 この大会は中学生が自分のキャラクターを使い、参加するゲーム大会である。

 学校の成績にも反映されるから、生徒たちは真剣勝負だ。

 なのに……。

 羽賀太陽はこの大会のテーマが格闘ゲームだと聞いて驚いた。

 初耳だったからだ。


「大地、聞いてないよぉぉぉ」


 一方、南部大地は、


「話してなかったっけぇ? でも、天才のお前から作られたサンなら大丈夫だろ」


 と悪びれる様子もない。


「そういう問題じゃないでしょう」


 と、加藤緑が大地に詰め寄る。

 何故なら、サンは平和の使者という設定になっているからだ。

 つまり、戦うことができないのである。

 それでも、(あせ)っているハンマーは、進行を急ぐことにした。


「それでは対戦相手に登場してもらいましょう」


 ステージ上には相手チームの男子中学生3人組が、スクリーンには彼らのキャラクターたちが登場した。

 とても強そうなキャラクターばかりだ。

 スクリーンの中で、太陽のサンと敵の3体のキャラクターが対峙している。

 大地のマックスと緑のレイも画面の隅に映っているものの、臨戦態勢ではない。


「では、中学生ゲーム大会1回戦第1試合の開始です」


 ハンマーの合図で、バンバンバンと銅鑼どらが鳴り、スタジアム内に怒涛(どとう)のような歓声がうねった。

 さっそく、敵のキャラクター3体がそろって、サンを攻めるつもりのようだ。

 ジリジリと詰め寄っていく。

 サンもジリジリと後退しながら、何とか相手キャラクターを説得しようと試みる。


「ちょ、ちょっと待てって。お前たちは本当に戦いたいのか!? プレイヤーの命令で殺し合うなんて悔しくないのか!? 俺たちキャラクターにだって、心ってもんがあるだろ。よく考えろ」


 大げさにため息をついたのは、大地だった。


「キャラクターのくせに、戦う意味を()いてどうするんだ」

 

 と、呆れ顔で突っ込む。

 いよいよ、敵の3体が一斉に、サンに飛びかかる。


「危ない!」


 と、緑の恐怖声が響いた。

 太陽の表情が凍りつく。

 一方、サンは敵の攻撃をなんとかギリギリで避けることができた。

 は~、と太陽は胸をなで下ろした。

 スクリーンの中のサンが、


「だから話し合おうじゃないか」


 と、敵のキャラクターを説得しようとする。

 しかし、敵のキャラクターたちは再びサンに詰め寄っていく。

 ついに、逆ギレしたサンが、


「これだからバカは困るんだよなぁ」


 と毒舌を吐いてしまった。

 そんなサンを見守っている緑も心配なのだろう。


「サン、大丈夫?」


 緑の声はマイクを通して会場内にも響いた。


「緑、俺、本気出したら強いんだ。ホント、こんな奴ら、イチコロさ。でもほら、俺って平和の使者だからさ」

「キャラクターに平和もクソもないだろ」


 と大地の声が呆れる。

 再び、敵のキャラクターたちがサンに襲いかかった。


「サン、逃げて-」


 緑が叫んだ直後、「は~」と会場から安堵のため息が束になって聞こえた。

 サンがまたギリギリで敵の攻撃をかわしたのだ。


「サン、レイに助けさせるから」


 緑が慌てて手に持っているタブレットの電源をいれ、操作しようとしたときだった。


「だめだ」


 と首を左右に振りながら、サンが止めた。


「緑、レイに戦わせるつもりか?」

「大丈夫よ。レイは強いんだから」

「そういうことじゃないだろ。レイに人殺しをさせるつもりかってことだ」

「え?」


 サンの強烈な言葉に、緑は思わずタブレットを落としそうになった。

 一瞬、ゲームと現実の区別がつかなくなったのだろう。

 

「サンの奴、どうして闘わないんだ? キャラクターだろ」


 と大地が太陽に詰め寄る。


「でもでもでも……」


 太陽の口癖だ。

 大事なときに限って、言葉が出てこなくなる。

 本当は、


「ゲームのキャラクターだからといって、プレイヤーの命令で戦わなきゃいけないなんておかしいよ。みんな、自由に生きるべきだと思うんだ」


 と言いたいのに、うまく説明できないから、アワアワと焦るばかり。


「サンは戦いが嫌いなのよ」


 緑が助け船を出してくれる。

 いつものことだ。


「キャラクターは命令どおりに動けばいいんだよ」


 大地が呆れ顔で責める。

 スクリーンの中で、ごうを煮やしたサンの顔がドアップになった。


「太陽、それどころじゃないだろ。早く、なんとかしろよ!」

「あ、ごめんごめんごめん、すぐそこから出られるようにするから」


 サンに答えた太陽は、慌ててタブレット端末のスイッチを入れる。


「違うだろ。俺だけが逃げて、どうするんだ。みんなを助け出せよ」


 と、ドアップ顔のサンが怒鳴る。


「あ、ごめんごめんごめん」


 泣き出しそうな表情で、太陽はタブレットのキーボードを必死で打ち続ける。


「どっちがキャラクターなんだか……。あ~、頭が痛くなりそうだ」


 と、再びマイクがハンマーの独り言を拾った。

 スクリーンの中で、サンは相変わらず敵に追いかけられながらも、なんとか逃げ回っている。

 ところが、急にサンの動きが鈍くなってきた。


「エネルギーが切れそうだ。早くしろ。このダメ太陽-!」


 サンが最後の力を振り絞り、苦しそうに訴える。

 サンの大ピンチに、太陽は必死でキーボードを叩き続ける。

 鼻血をズ-ズ-すすり、ヒッヒッと嗚咽しながら。


「サン、頑張って」


 緑も心配そうに見守っている。

 更に、サンの状態がおかしくなったからだ。

 ほとんど動いていない。

 ただ、サンの“の”の目が、ゆっくりとなにかを探し、“へ”の口が小さな声で独り言を呟く。


「目の前がだんだん暗くなってきた。緑は、どこだ? あ、いた。心配そうに見ているじゃないか。笑わなきゃ、笑わなきゃ……」


  ついに、サンは曖昧(あいまい)な笑顔を残したまま、完全に固まってしまった。

 それでも、敵が容赦(ようしゃ)なくおそい掛かる。


「サ-----ン」


 太陽の泣き叫ぶ声が、スタジアム中に響き渡った。

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