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25.M⑪.砂浜で報告したこと

 加藤緑が羽賀太陽と共に向かったのは、幼馴染三人組の青春がぎゅっと詰まった場所、残酷にもあの砂浜だった。

 勿論(もちろん)、緑が選んだわけではない。

 南部大地から命令されたのだ。

 (かす)かに残っていた大地への信頼が大きく揺れる。

 一方、潮の香りを満喫した太陽は、


「わぁぁぁ……」


 と、歓喜の声を上げながら砂浜に倒れ込んだ。

 いつもの太陽。

 だから辛い。

 このまま時が止まって欲しいと、祈ってしまう。

 太陽の横に座った緑は、要件を言いあぐねたまま、無意識のうちにイヤリングを触っていた。

 先に気づいたのは、太陽の方だった。


「緑がイヤリングなんて珍しいね。買ったの?」

「 え?」


 不意をつかれて、緑は戸惑った。

 自分の秘密をどう話すべきか。

 その難問で頭がいっぱい、いや、それ以前に、話さなくて済む方法を考えることに集中していたからだ。


「 あ、う、うん……」


 思わず心も(うつむ)いてしまう。

 ちょうどそのとき、イヤリングから、ツンツンツンと聞こえてきた。

 反射的に1軒だけ建っている海の家に視線が向く。

 あ、いた。

 大地が海の家の影から双眼鏡で監視している。

 耳にイヤホンを当てたまま。

 つまり、緑の耳たぶで揺れるイヤリングと大地のイヤホンは、通信機として繋がっているのだ。

 もちろん、二人とも承知の上だから、盗聴などではない。

 大地が指先でイヤホンを軽く叩く音、“ツンツンツン”は、


「早く言え」


 という催促で、緑がイヤホンを触る音は、『わかっている』の意味だった。

 緑が何度もイヤリングを触ったということは、大地も同じ回数だけ催促したことになる。

 その度に緑は、


「わかっているから……」


 と答えて、結局、まだ言えないままだ。

 さすがに、大地も苛立(いらだ)っているのだろう。

 緑もそう気づいた以上、ついに決心するしかない。

 緑は唇をかんだ後、太陽に視線を向けた。

 そして、大きく息を吸い込み、口を開いた瞬間、 先に話し始めたのは太陽の方だった。


「ここだったんだよね。約束したの。ぼくたちずっと一緒だって……」


 緑は思わず、自分の口から出るはずだった言葉を飲み込んでしまった。


「約束どおり、緑は帰ってきてくれた。今度はぼくが約束を守る番だ」


 太陽、違うの、と緑は心の中で叫んだ。

 もちろん、太陽に通じるはずもないが……。


「でもさ、緑がいなくなってから、大地も両親も島の皆も、なんか変なんだよね。どうしちゃったんだろう……?」


 緑は愕然(がくぜん)とした。

 太陽は頭で考えるというより、心で感じるタイプだ。

 だからこそ、危ない。

 頭脳派なら理屈で考える。

 育成ゲームのキャラクターを現実の子供にさせるなど、社会が許すはずないと判断するだろう 。

 しかし、感情派は気持ち次第で信じることもある。

 もし、太陽が会社の陰謀に気づけば、どんな目に遭わされるかわからない。

 どうしても、それだけは避けなければ。

 今度こそは絶対に、と緑は覚悟を決めた。


「 ねぇ、太陽、あたしね……婚約したの」


 太陽は、グっと絶句に近い声を吐き出したあと、なぜか急に照れだした。


「いくらなんでも、それは早すぎるよ。ぼくたちはまだ、中学生なんだからさ。あ、先の話か。バカだな、 ぼくって……」


 太陽は照れ笑いで頭をかく。

 この無邪気さが辛くて、緑は思わず視線を()らした。

 太陽の素直さに弱い。

 それが自分の悪い癖だ、と緑は自覚した。

 太陽のためだ、と自分に言い聞かせる。

 葛藤(かっとう)の末、緑は再び、太陽を直視した。


「そこでね、お願いなんだけど、太陽に友人代表のスピーチを頼みたいの」


 自分の口から出た言葉とは思えないほど、震えていた。

 まるで泣きそうなぐらいに。

 その時初めて、緑は声にも表情があることを知った。


「ん?」


 理解できない太陽は、頭の中が空回りしすぎてショートしたように、無防備な表情になった。



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