表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/67

21.T⑧.緑のおじさんとおばさん……?

 町役場をあとにした太陽は、とぼとぼと歩き出す。

 もう行く当てなどない。

 いつもであれば、大地や両親に相談するところだが、心配をかけるだけだと思いとどまった。

 それにしても、と太陽は思い出した。


「あのときの緑、なんか変だったなぁ」


 それは昨日のことである。

 バスの最後部座席から自分に向けた緑の表情が、気になってしかたないのだ。

 最初は驚き、次に安堵したかと思うと、急に強張っていた。

 確かに、おかしい。

 叔父さんと何かあったのかな?

 太陽は確かめずにいられない。


「 緑の力になりたいのに、どうしたらいいんだ?」


 太陽は力なく呟いた。


 緑のことで頭がいっぱいの太陽は、そのまま家に帰る気になれず、目的もなく歩き続けた。

 ふと、周りの風景がいつもの生活圏から離れていることに気づく。

 とほぼ同時に、ん? と太陽が首をかしげた。

 ある男女に気づいたからだ。

 彼らは道路から、ある家の中を覗き込んでいた。

 二人とも、帽子とマスク姿だった。

 泥棒か? と思った瞬間、男女が横を向いた。

 あ、と太陽が驚く。


「緑のおじさんとおばさん……?」


 清掃員の服を着てはいるが、似ている。

 思わず太陽の足が止まった。


「あの~……」


 と声をかける。

 振り向いた中年男女は、緑の両親にそっくりという次元ではない。

 瓜二つだった。

 帽子とマスク姿とはいえ、物心がついた頃からの付き合いだから、太陽の目を誤魔化せるはずがない。

 やっぱりそうだ、と口にした太陽が、満面の笑顔で近づいていく。

 が、その中年男女は、突然逃げ出した。


「あ、待ってください。ぼくです。太陽です」


 二人が逃げるから、太陽も追うしかない。

 三人は商店街に入り、太陽がもう少しで追いつけると思ったときだった。

 突然、


「わ~」


 と、左側から叫ぶ声が聞こえた。

 反射的に太陽が声の方を向くと、自転車に乗った出前持ちが突進してきた。

 と思った途端、出前持ちは太陽とぶつかってもいないのに、自転車ごと派手に転んでしまった。

 上半身を起こした出前持ちは、痛たたた、と叫びながら膝を抱きかかえている。


「あ、大丈夫ですか?」


 太陽が慌てて助け起こすと、出前持ちは、


「痛~」


 と大げさに腰をさすったあと、


「出前、どうしてくれるんだよ? これじゃ、売り物にならないだろ!」


 と怒鳴った。

 確かに、路上にはチャーハンやラーメンが散乱している。


「ごめんなさい」


 出前持ちの威勢に押された太陽は、思わず深々と頭を下げる。

 が、その途中、走り去る中年男女の後ろ姿が目に飛び込んできた。

 居ても立ってもいられない太陽は、


「話はあとで」


 と言いながら、すでに足は走り出していた。

 出前持ちの叫び声が追いかけてくるが、今の太陽には言葉ではなく、ただの音でしかなかった。

 太陽が商店街を抜けると、目の前は砂浜だった。

 二人の中年男女は50m程先を走っている。

 というより、砂に足を取られながらフラフラ歩いてると言った方が近いだろう。

 ターゲットが見えた分、俄然(がぜん)勇気が湧いた太陽は、更に力強く走る。

 体力的にも精神的にも追い込まれた中年女性は、自分の両足を絡ませ転んでしまった。


「おい、大丈夫か?」


 中年男性が手を貸し、起こそうとする。

 疲れ切った中年女性は荒い息を吐くだけで、立ち上がるどころか、答える体力も残っていないようだ。

 やはり、若い太陽が二人に追いつくのは時間の問題だった。

 荒い息を吐きながらも、太陽には問いただすための力がまだ残っている。


「緑は、どこに、 いるんですか ?」


 もう逃げられないと、覚悟を決めたのだろう。

 太陽の顔を睨みつけながら、中年男性が荒い息遣いのなか、なんとか声を絞りだす。


「な、何のことだよ。一体」

「ぼくです、太陽です」

「お前なんか、知らないよ」


 中年男性が吐き捨てる。


「だって、緑のおじさんとおばさんでしょう?」

「またかよ。よく間違えられて困ってんだよな」

「またって?」

「第一、その人たちは死んだんじゃないの?」


 中年女性が最終手段を持ち出した。

 あ、と大事なことを思い出した太陽は、それ以上何も言えなくなってしまった。

 そのときだった。

 なんとなく違和感を抱いた太陽が後ろを振り向く。

 そこでは何故か、屯する島民たちが右往左往していた。

 ある者は慌てたように、ある者はバツが悪そうに。

 太陽は不思議そうに首をかしげた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ