表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/67

20.T⑦.やっぱり、あれは緑だ!

 太陽がバスに乗っている緑のそっくりさんをみかけた夜、羽賀宅の食卓ではハンバーグが用意された。

 太陽の大好物だ。

 なのに、今日の太陽は母の手料理が(のど)を通らなかった。

 食べようとするのだが、つい緑のことを考え、(のど)に詰まって()せてしまう。


「太陽、行儀(ぎょうぎ)悪いわよ」


 母が軽く(さと)す。


「あ、ごめんなさい」


 太陽の謝罪に、母は仕方ないというようにため息をついた。


「今日、緑ちゃんを見かけたんだって? 大ちゃんから聞いたわよ」

「本当なんだよ。緑がバスに乗っていたんだ」


 話題が振られたことをこれ幸いにと、太陽は意気込んで答えた。


「そんなはずはないだろ」


 明らかに、父の声もため息交じりだった。


「だって……」


 太陽の言葉を待たずに、母が口を(はさ)む。


「あなたが友達を大事に思う気持ちはわかるわ。だからこそ、緑ちゃんを信じてあげるべきじゃないのかしら」


 太陽は柄にもなく考え込む。

 母の話はもっともだが、自分の感に勝るものはないような気がする。

 しかし、


「あまり、大ちゃんに心配かけちゃダメよ」


 息子にとって最も効果的なのは、何気ない母親の台詞に違いない。


「う、うん、ごちそうさま」


 それだけ言い残し、自分の部屋に戻った太陽は、ベッドの上で横になった。

 天井に向けた視線が時空を超える。

 バスの中から振り向いた緑の表情が、鮮明に(よみがえ)った。

 どうしても、他人の空似には思えないのだ。

 物心がついたころからずっと、姉弟のように育ってきたのだから、緑を見間違えるはずがない。


「あれは、やっぱり緑だ」


 自分の呟きから、太陽は強い意志が湧き上がってくるのを感じた。


 翌日の午後1時半頃、加藤宅に着いた太陽はチャイムを鳴した。

 昨夜の計画では、早朝から来る予定だった。

 ところが、朝食の最中、母から居間の模様替えの手伝いを頼まれてしまったのだ。

 正直、今の太陽はそれどころではないが、緑を探していることを母に悟られたくないから、承諾するしかなかった。

 結局、模様替えの手伝いが午前中いっぱいかかり、その後昼食をとってから来たので、最初の計画より遅くなったというわけだ。

 太陽は耳を澄ますが、チャイムへの応答はない。

 ドアをノックしてみたが、もちろん無駄だった。

 そこまでは想定内である。


 次に、太陽が向かったのは町役場だった。

 役場と言っても、この島だけの俗称で、☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)の社員が役場の仕事の一部を代行しているに過ぎない。

 太陽の目的はもちろん、緑の移転先を調べるためだ。

 町役場に入った太陽が、カウンターに近づこうとした瞬間だった。

 どこからともなく、島民たちが流れ込んできた。

 と思う間もなく、カウンター前には、長蛇の列ができてしまった。

 島民たちの列から弾き出された太陽は仕方なく、ソファに座り待つことにした。

 それにしても、と太陽は不思議だった。

 今日に限って、住民課係の社員が一人しかいないのかと。

 それに 、面倒な手続きなのか、社員と島民が()める件数も少なくない。

 一件終了するのに、30分くらいかかる案件もあった。

 それでも、緑のためならいくらでも待っていられるのが太陽だ。

 結局、3時間以上待たされたあと、いよいよ最後の島民の手続きが終わった。

 待っていましたとばかりに、太陽がソファーから立ち上がる。

 と同時に、社員が素早く、カウンターの上に『本日の業務は終了しました』のプレートを置いた。

 思わず、太陽がカウンターに駆け寄る。


「ちょっと待ってください」

「今日の受付時間は終了しました。明日にしてください」


 面倒くさそうに説明した社員は、そのまま奥に行こうとする。


「友達の移転先を知りたいんです」


 と、太陽は哀願する。

 立ち止まった社員が勢いよく振り向いた。


「委任状は持っていますか?」

「委任状……?」

「なければ無理ですよ。プライバシーの問題ですからね。絶対……」


  社員は、最後の“絶対”に皮肉を込めるように、力強く念を押した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ