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18.T⑤.緑との再会?

 8月初旬の日曜日。

 しかも、夏休み中ともなれば、公園は人でごった返している。

 家族連れ、友達や恋人同士、中には仕事中らしくスーツ姿やユニフォームの人もちらほら見える。

 空は青くて高いし、少し強めに吹く気持ちいい風に誘われて集まったのだろう。

 噴水の周りにコンクリートで作られた池では、日差しが水面(みなも)に反射して、キラキラ輝きながら遊びまわっている。

 まるで、


「あなたも楽しんで」


 と微笑む妖精のようだ。

 でも、それは無理だ、と太陽の気持ちは沈む。

 大地から公園の噴水の前に呼び出されたものの、遊ぶ気分ではない。

 頭の中では今も、緑との思い出が走馬燈(そうまとう)のように駆け巡っている。

 砂浜で、ずっと一緒にいると約束してくれたこと。

 バースデーパーティーで言ってくれた、おめでとう。

 そして、あまりにも急すぎる別れ。

 いつもの自分なら、思考回路が追いついていけず、呆然としているところだろう。

 でも、今回ばかりはそういうわけにはいかない。

 緑と離れて初めて自覚してしまった。

 緑が優しい姉だけでは嫌だ。

 緑は緑、ひとりの女子なのだ、と。

 そうわかった以上、頭がついていけなくても、 心の中で感情が暴れ狂っている。

 子どもだから、義務教育だから、離れなければならない。

 理屈は理解できても、心は絶対認めてたまるかと、だだをこねていた。

 しかも、心は意地っ張りだから手に負えない。

 その上、叔父と共にgame(ゲーム) isle(アイル)を出ていったまま、緑からは音沙汰(おとさた)がない。

 両親や友達、中学校の教師に聞いても連絡先さえわからず、心配でたまらないのだ。

 それでも、周りの人々に心配をかけてはいけないと、太陽は自分なりに頑張っているつもり。

 緑との約束だから。

 しかし、つもりはあくまでも希望的観測に過ぎない。

 無意識のうちに、つい緑のことを考えてしまう。

 太陽が心中で、約束は守れそうにないよ、と緑に謝った直後だった。


「太陽!」


 突然の大地の大声に、太陽は反射的に振り向いた。

 首に痛みを感じるほど勢いよく。

 驚かされたからというより、自分の淋しさを悟られたかもしれないと思ったからだ。

 (あせ)った太陽は、心身共にあたふたしているうちにバランスを崩し、噴水の中に倒れ落ちてしまった。

 太陽がびしょびしょで立ち上がったとき、大地の背後から、


「キャー」


 と女性の甲高い声が聞こえてきた。

 太陽が振り向くと、そこには驚き顔の近藤梓が立っていた。

 太陽はふと考えてしまう。

  緑なら呆れて、


「ホント、子どもなんだから」


 と苦笑したに違いないと。

 思わず懐かしさがこみ上げてくる。

 そんな本心を悟られてはいけないと、太陽はアハハと笑いながら頭を掻いたが、うまく笑顔を作れた自信はない。

 腹を抱えて笑ってる大地に対し、梓は少し頬を引きつらせている。

 まだ、自分の性格に慣れていないのだろうと思った太陽は、寂しさを感じた。

 その時だった。

 一瞬だが、太陽の瞳の隅に、公園沿いの車道を走り去るバスが目に入った。

 あれ? と無意識のうちに、太陽の口からこぼれ落ちた。

 バスの最後部座席に座っていたのは……。

 確認するため、太陽が慌てて視線をバスに戻そうとした瞬間だった。

 大地が、


「びしょびしょじゃないか」


 とタオルで顔を拭いてくる。仕方なく、太陽は瞳を閉じるしかない。

 結局、太陽はバスの後部座席を再確認できなかった。

 が、そのお陰で、暗い瞼の裏にはっきりと映っている記憶の残像を見ることができた。


「あれは、やっぱり緑だ」


 思わず太陽の口から、独り言が漏れた。

 太陽には、それがスターターの音に思えた。


「ヨーイ、バン」


 と。

  太陽の体は反射的に、バスを追い走りだしていた。


「太陽、どうしたんだ?」


 大地の叫ぶ声も、緑に気づいてしまった今の太陽には意味のない、ただの雑音でしかなかった。


 太陽が公園から大通りに走り出ると、バスはすでに30mほど先を走っていた。

 それでも、太陽は追って走るしかない。


「緑ー、緑ー」


 と、その名を呼びながら。


 どれくらい走っただろうか。

 焦る気持ちにまかせ、最初から全速力で飛ばしたから、バスとの距離は離れもしないが、近づきもしていない。

 やがてお節介にも、時間がバスと人間との明らかな差を教えてくる。

 太陽の足が疲れてきたのだ。

 今は気力だけで走っているといっても過言ではない。

 このままではバスに振り切られる、と思ったときだった。

 あ、と太陽が叫んだ。

 突然、バスの後部座席に座っている人物が振り向いたからだ。


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