【Part6】ハルエ視点
私は、ナツコと一緒にいろんな種類のスポーツで金メダルを取ってきた。
皆が、私の天性の運動神経の良さと恵まれた体格を褒めてくれた。
けど、私は、私はずっと、こんな岩みたいなゴツゴツした顔、こんな固太りの身体………ずっと、嫌だった。
特にラグビーとプロレスと女相撲と柔道と空手と異種格闘技は、中でも本当に嫌で嫌で、騙されて多額の借金を背負っていたうちの家にお金を入れる目的が無かったら、絶対にやっていなかった。
他のアスリート達は、自信に満ちあふれていた。なのに、どうしてか私だけは、卑屈な性格だったし、いつまで経ってもそれが治ることはなかった。
社会人になってスポーツをやる以外にお金を稼ぐ方法も学んでからは、借金も返して家族も皆裕福になって大好きな両親や弟妹達が幸せになったから、それは嬉しかった。けど、
それでも私は、やっぱり幸せじゃなかった。
「凄い筋肉だね」って言われることは、私にとっては苦だった。
好きな人にも尽く女性に見えないって言われて、小さな頃から女の子らしい可愛い服も全然似合わなくて、私はずっと、ずっと辛かった。
なのに、ナツコってば、私と同じなのに、何もかも、私とは正反対で。
他のアスリート達と同じように、どこに行っても何を言われても前向きで堂々としていて。マイペースで明るくて自信に満ちあふれていて、キラキラ輝いていて。
でも他の人達とは違って、ナツコだけは、ずっと私の側にいてくれた。
私を、アスリートのくせに根暗だ、とか言わない。私を、怖いって言わない。
なんなら、本気で可愛いと言ってくれる。
私を引っ張り、守ってくれる。
私にとって、特別な存在。
それがナツコだった。
わかってる。破天荒なナツコの世話をすると言い訳をしながら、私はナツコに依存している。
でも、しかたがない。ナツコが側にいてくれるから、私は息をすることが出来るんだもの。
確かに私は、善人じゃないし、小心者だ。ナツコの影に隠れて、姑息に生きてる。
でも、社会人になって、忙しさのせいで遅くなった入社祝に2人で高級温泉に行ってそこで旅行中バスが横転してそのまま死んじゃって神様に異世界に送られちゃってそこで、お、お、男漁りしろ、とか言われちゃって心の友ナツコからはいきなり結婚する、とか言われたような気がしたけど全く受け入れられないしなんなら何言ってんのか全然わかんない………。
完全にキャパシティオーバーだ。
「私は善人じゃない。でも、極悪人でもない。なのに神様、どうして私は、こんな目にあうの………?」
目の前に広がる光景(極上イケメンに恭しく膝まづかれるナツコ)を見て、私は気を失った。
遠くの方で、私を心配するナツコの声が聞こえる。
ああ、ナツコ、ナツコ。
こんな、わけのわからない時に、どうしてあなたは、結婚なんかしちゃうの?
………どうして、私を、ひとりぼっちにするのよ………?
薄れる視界が、涙でぼやける。ナツコの顔も、まるで幻を見ているかのように、どんどんと消えていく。
これからは、ナツコから自立しなきゃいけない。
そして私は、また………孤独に、なるのかな………。
「世界的に有名な超人的姉妹と謳われる、伊集院夏子さんと東十条春江さんの2人が、旅行先のバス横転事故により現在行方不明となっています。夏子さんと春江さんは、数々の競技で日本を代表する有名アスリートとして活躍しており、今回のは休暇のためのお忍び旅行だったとのことです。現場には夏子さんと春江さんの物と思われる手荷物が落ちていたとの証言があり………」
日本が生んだ今世紀最強と言われる天才アスリート2人が、姿を消した。
その後の2人がどうなったのか………まさか異世界に飛ばされて、片方が神に愛されもう片方が闇落ちして魔王になるだなんて、誰1人として思いもしなかったのである。