最終電車の乗客
いらっしゃいませ。ありがとうございます。
1,000字程度のAI怖い話となります。
終電間際の電車は、いつもと違う空気が漂っている。普段は賑やかな車内も、この時間になると話し声も少なく、ただ車輪の音だけが耳に響く。金曜の夜、私は遅くまで仕事をして終電に飛び乗った。
車内は思ったより混んでいて、座席はほとんど埋まっていたが、運よく空いていた端の席に腰を下ろす。周囲を見渡すと、酔ったサラリーマン、スマホをいじる若者、疲れた顔の女性――みんなが自分の世界に閉じこもっている。
ふと、正面に座る男性と目が合った。四十代くらいだろうか、無表情でじっとこちらを見つめている。私は目をそらし、スマホを取り出した。だが、視線を感じる。気のせいだろうか。再び顔を上げると、やはり彼がこちらを見ている。
電車が駅に停まるたびに、乗客が少しずつ降りていく。終点が近づくにつれて、車内は静かさを増し、いつの間にか私とその男だけになっていた。私は自宅がこの時間帯の終点にあることをこれほど悔やんだことはない。
終電だからだろう、車内の蛍光灯がちらつき、不気味な音を立てている。私はそわそわとスマホをいじり続けるが、男の視線が離れない。だんだんと不安が募る。
次の駅で降りようか。いや、終点まで行ったほうが安全だろうか。頭の中で迷いが渦巻く中、電車が次の駅に到着した。ドアが開いても男は動かない。結局、私も降りることができず、電車は再び走り出した。
終点の一つ前の駅が近づいてきた。私は勇気を振り絞って立ち上がり、ドアの近くに移動する。ドアに映る窓ガラス越しに、男が私の動きを目で追っているのがわかった。背筋が凍りつくのを感じる。
電車が駅に停まり、ドアが開いた。私は勢いよくホームに飛び出し、振り返ることなく改札へ向かった。だが、改札を抜けて振り返ると、男がホームの端に立ち、こちらをじっと見ている。
駅から自宅までは徒歩15分。人通りはほとんどなく、街灯の光だけが頼りだ。早足で歩きながら、何度も後ろを振り返る。誰もいない――はずなのに、遠くで靴音が響いているような気がする。
家が見えてきた頃には、心臓が張り裂けそうだった。玄関に飛び込むようにしてドアを閉め、鍵をかけた。ひとまず安心した私は、カーテンの隙間から外を覗いた。
男が街灯の下でこちらをみつめていた。
何かを言っているようだが、暗がりで口許はよく見えず、窓を開けて聞く勇気はでなかった。
翌週の月曜日、出勤しようと電車に乗ると電車は通勤ラッシュでぎゅうぎゅう詰めだ。
いつもは鬱陶しく感じるはずの満員電車も、この時ばかりは人がたくさんいることに安心感を覚える。
私は普段通り、ドア付近で外を眺めているとふと後ろからあの男がじわじわと近づいてくるのがわかった。あまりの恐怖に身を固めていると、男は私の耳に口を寄せてきてこう言った。
「この前の夜は急に降りてびっくりしたよ。今度は終点まで一緒に行こうね。」
それ以来、私は電車に乗るのが怖くなった。特に夜の電車は一度も乗れていない。
周りの乗客の中に、また彼がいる気がして仕方がないのだ。
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