もう一人、乗せてたよね?
いらっしゃいませ。ありがとうございます。
1,000字程度のAI怖い話となります。
大学時代の友人たちと久々に集まり、ドライブに出かけたのは初夏の夜だった。
涼しい風を感じながら、深夜の国道を走る。助手席には陽介、後部座席には美咲と達也がいる。
高校の頃からの仲間で、夜更かしドライブはお決まりの遊びだった。
「あの道、知ってる? 昔、ひき逃げ事故があったって噂のやつ。」
陽介が話し始めたのは、人気のない山道に差し掛かった頃だった。
その道では、夜中に突然、車の横を歩く女性が現れるという噂があるらしい。
そしてその女性を振り返ると、「連れて行かれる」と。
「おいおい、そういう話はやめろよ。」
達也が笑いながら言うが、助手席の陽介は楽しげに続ける。
「でもさ、もしもう一人乗せてたらどうする? 知らない間にさ。」
ふざけ半分のその会話を適当に流しながら、車を進めた。そのときだった。視界の端に、白いものがふっと見えた。歩道のない細い道だ。誰もいるはずがない。
「なぁ、今、誰かいたよな?」
思わず口に出した俺に、全員が黙り込む。しばらくすると、美咲が震えた声で言った。
「ねぇ……後ろの席、ちょっと狭くない?」
「何言ってんだよ。」
達也が返すが、美咲は真剣だった。後部座席をチラリと確認すると、確かに妙な違和感があった。美咲が片隅に寄っているように見える。
「気のせいだろ、こんな時間だし疲れてんだよ。」
俺は無理やり話を打ち切り、スピードを上げた。早くこの道を抜けたい、そう思った瞬間、車の窓がコンコンと叩かれる音がした。背筋が凍った。
「……誰かいる!」
陽介が叫び、全員が窓を見る。だが、何もない。ただ、車内に重苦しい空気が漂っている。
その夜は何とか家に帰ったが、次の日から俺の周りで奇妙なことが起き始めた。
車を駐車場に止めていても、朝になると窓に内側から手形がついている。後部座席のシートには、泥のついた小さな足跡があった。
「気にしすぎだって!」
陽介に話しても笑い飛ばされるだけだ。だが、俺の耳には毎晩、車の中から聞こえるノック音が消えなかった。そしてついに、夜中に窓を開けると、白い顔がそこにあった。
夢か現実か分からない。その日以来、車に乗るのが怖くなった。友人たちに相談しようにも、美咲も達也も連絡が取れなくなっている。陽介に至っては、突然「ごめん」とだけ言って電話を切ったきりだった。
最後に車を運転したのは、あの山道に行った1か月後だった。再び同じ道を通り、事故のあった場所を通過した瞬間、後部座席から誰かが囁いた。
「ありがとう、ここで降りるね。」
その声を聞いた瞬間、ハンドルを握っていた手が震えた。振り返ると、誰もいないはずの後部座席に、白い服を着た女が座っていた。
そして、車のドアが静かに「バタン」と閉まる音がした。
それ以降、俺は車に乗ることができなくなった。夜中、窓の外を見ると、車の中に誰かが座っているのが見える。
どれだけ離れても、あの視線を感じる。そして思うんだ。
「俺はあの夜、本当に全員を家まで送り届けたんだろうか?」
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