席替え
いらっしゃいませ。ありがとうございます。
1,000字程度のAI怖い話となります。
ある日、会社のフロアで小さな席替えがあった。部署全体での大掛かりなものではなく、近くの席を数名で入れ替えただけ。空いていた隣の席に新人の佐藤君が来ることになった。
「よろしくお願いします!」
明るい声で挨拶する佐藤君に好感を抱きながらも、なんとなく引っかかるものがあった。彼は真面目そうな雰囲気で、業務にも熱心だったが、どこかよそよそしいというか、視線が定まらない。何より、時折こちらをじっと見ている気がする。それも、意識して目を合わせると、慌ててそらす。
最初は緊張しているのだと思った。しかし、仕事が進むにつれ、不安な違和感が大きくなっていった。デスクに向かっているときも、ふとした瞬間に彼の視線を感じる。それが気のせいではないことに気づいたのは、ある日の残業中だった。
深夜22時を過ぎたフロアには、佐藤君と私しかいなかった。静寂の中でキーボードを叩いていると、目の端で彼がじっとこちらを見つめているのが分かった。なんだか息が詰まるような気持ちになり、視線を上げると、彼は何事もなかったかのように画面に目を戻した。
「佐藤君、何か用?」
意を決して声をかけると、彼は少し驚いたような顔をしてから、笑みを浮かべた。
「いえ、ちょっと気になって……大変そうだなって思ったんです。」
その笑顔が妙にぎこちなく、私は少しだけゾッとしてしまった。彼はそれ以上何も言わず、再び自分の画面に目を向けた。
翌日、また佐藤君の視線を感じた。以前にも増して頻繁だった。席に座っているときだけでなく、会議室でも、廊下でも。何度も目が合うたびに何となく背筋が寒くなり、仕事に集中できなくなっていった。
その週の金曜日、ようやく上司にそのことを相談した。佐藤君が自分をじっと見ていること、そしてその視線がどうにも気味が悪いことを正直に話すと、上司は困ったような顔をして言った。
「佐藤君って……誰のこと?」
「え?」
「君の隣の席はずっと空席だよ。席替えの話なんてしてないし、隣に新人が来る予定もない。」
一瞬、頭が真っ白になった。上司が冗談を言っているのかと思ったが、顔は真剣だった。気味が悪くなり、自分のデスクに戻った。机の上には、いつも佐藤君が置いていたマグカップも資料も何もない。ただ、隣のデスクの椅子が少しだけ引かれていることに気づいた。
後ろを振り返ると、がらんとした廊下の奥で、佐藤君がこちらをじっと見つめていた。いつものぎこちない笑みを浮かべながら。
その日を最後に、私はその会社を辞めた。転職して新しい環境に身を置いたが、時々、気づけば視線を感じることがある。振り返ると、佐藤君がそこにいる。どんな場所でも、どんな時間でも、あのぎこちない笑顔を浮かべて。
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