依頼報告
二つの依頼をこなした渚は、血だらけで穴だらけの服装で闇ギルド"ナハトヴォルフ"に戻る。すると、その中はならず者たちがいた。ならず者達は酒を飲み、肉を食らい、語り合っては楽しんでいたが、渚の姿を見た途端、歓声を上げた。
「おっ! 渚じゃないか! お疲れだな! また酒でも飲んでロシアンルーレットでもするか?」
「バカ言わないでよ、空砲とは言えビビってお店の中で漏らしたくせに、やんないよ」
男達とバカみたいに笑いながら渚はカウンターへと行く。そんな中で給仕が働いていて、皆女性であったが、全員色白で人ではないもの、悪魔のようなツノと尻尾を持っていた。
「渚お姉さん、お疲れ様、今日も盛況よ」
「そっか、楽しむのはいいけど、ハメを外しすぎないようにね」
そう言いながらカウンターに到達すると、そこにはサングラスをかけたバーテンダーっぼい男がいた。
「渚、二つ続けて依頼お疲れ様。その格好…だいぶしてやられたな」
「えへへ、ちょっとヘマしちゃった、でも大丈夫、ボクはそう簡単には死なないから」
「楽そうにいうんじゃない、もし相手が白銀弾を使ってたらどうしたんだ、常に死を恐れろ」
「そりゃ怖いけどさぁ、ボクはやられないよ、親父」
「まったく、その自信はどこから湧いてくるんだ」
親父と言われた男は頭を抱え、心配そうにする。どうやらこの男が渚の親で、ここのギルドマスターらしい。
「まぁいいじゃねぇかジェフリーの旦那、こうして渚がちゃんと帰って来たんだしさ」
「お前らな、いくら命の軽い戦いに赴くからって軽視しすぎなんだよ。帰って来たのが冒険者手帳だけだった、なんてオチは俺だって避けたいんだ」
ジェフリーと呼ばれる男はそう言いながら渚に夕食のシチューを渡す。
「きゃはー、このために生きてるって甲斐があるよ」
「後これ、依頼の報酬だ、四課から直々の報酬らしいから受け取っとけ」
「四課から? おにぃちゃんは見てくれたかな?」
「さぁな、だが確認はしてくれただろう」
報酬を受け取って渚は金をじゃらじゃら鳴らす。高官の暗殺の任務なだけあって報酬はたんまり入っていた。
「しかしまぁ、四課も手を出せない依頼とは、渚もお高くとまったもんだ」
「そもそもナハトヴォルフは四課と提携を結んでるんでしょ、こういう依頼が来てもおかしくないよ」
「まぁそれはそうだが」
四課とは異世界特別調査隊四課のことで、表向きは窓際仕事を行う部隊だが、裏は普通の部隊では処理できない案件を請け負う死神と呼ばれた殺し屋の部隊だ。そんな彼らができないとされた依頼となると、相当汚れた仕事なのだろう。
「だがまぁ、それが俺たちの役目と考えたら、なんとも思えねぇよな」
「仕方ないよ、いくら四課でも身内の問題には手を出せないもん」
シチューをパクパクと食べながら渚はそう答える。
「裏路地の勢力図はどうなってるの?」
「あ? あんま変わってねぇよ、ここ1番街の裏路地は相変わらず地獄さ」
渚達が暮らす裏路地には、ある掟がある。それは、他人の領域で争いを起こさないことだった。勿論、物乞いが争いを起こすなんてことがあるが、それでもその争いは簡単に済ませる。もし争いが続けば、その領域の組織に殺されては臓器売買や実験の道具などにされてしまうからだ。
なぜこんな掟があるか、理由は単純明快で、裏路地における平和の維持のためだった。組織ごとの領域を設けることで、他の組織が他の組織と無駄な争いを生まないようにして、抗争を起こす際になったとしても、他まで巻き込まれないようにする、そう言った理由があった。
だが領域や勢力図は常に変わっていた。縄張り争いや裏路地での取り引きによって、組織ごとの自治区がコロコロと変わっていくのだ。
「まぁ、お前が出歩いても問題はないが、今日ウチからは死人が1人出かけた」
「誰そいつ」
「マルバリーの野郎だよ、あの野郎、俺たちの領土を拡大しようと取引しようとしてヘマして重傷を負って帰ってきやがった。給仕の嬢ちゃん達の治療でことなきを得たが全身銃創だらけで帰ってきた時は給仕の一部が泡を吹いて倒れたからな」
「マルバリー! 一体何しようとしたの!」
渚に言われてマルバリーと呼ばれた男は全身包帯だらけで答えた。
「姐さん達を思っての行動だったんだ! 金を積んで領地を貰いに行ったら鉛玉を喰らっちまった!」
「どこの組織なの!」
「獣牙の連中だ! あいつら! 亜人のくせして人間にくれてやる領地なんてねぇって言って俺を銃で蜂の巣にしてきやがった!」
「よく生きて帰ってきたね! 今日はマルバリーの勇気を讃えて皆で飲もう!」
そう言っては渚はグラスを掲げるが、バーテンダーのジェフリーは牛乳を渚のグラスに注ぐ。
「なんで牛乳なの⁉︎ ここはビールとかそう言う流れでしょ⁉︎」
「お前に酒は四年ははええ! つか、この前飲み散らかして酔っぱらって店の中で服を脱ごうとしたんだぞ! ここはガキのストリップバーじゃねぇ!」
「でも給仕のサキュバスはキスしたりして栄養補給してるよ?」
「あいつらはいいんだよ! ちゃんと場を弁えてるからな! お前の場合は一線を越えようとするから困るんだよ!」
なんだよもー、と言いながら渚は牛乳を飲む。
ここで働いている給仕の女性は悪魔のような姿をしているがただの存在ではなかった。
所謂サキュバスと呼ばれる存在で、精を搾取しなければ生きていけない存在ではあるが、店で問題にならないある程度の搾精行為が許される代わりに働かせてもらっていた。
そんな渚もサキュバスの1人で、ある理由からサキュバスクイーンを名乗れる程の力を持っていた。だが、思春期の子供である渚に搾精行為は危なく、彼女には専用のエナジードリンクを渡すことで我慢してもらっていた。
渚はサキュバス達にとって姉のような存在でもあり、店で酒に入り浸る荒くれ者の冒険者達にとって姐のような存在であった。
「獣牙の奴ら……ちゃんとした取り引きのはずなのに、鉛玉で送り返すだなんて、許せない、これは抗争の合図と受け取っていいよね?」
「相変わらず血の気が多いな。いいぞ、明日好きに暴れて来い。ただし、夕飯時までにはちゃんと帰るんだぞ」
「分かってるよ全くもう、親父はそう言うところはパパらしいんだから」
渚はジェフリーの心配にぶつくさと文句を垂れると、シチューを食べ終える。
「つまみくらいなら出してやる、他の奴らと牛乳を飲んで遊んできな」
「つまみだけって…生殺しだよぉ…」
つまみのチーズを受け取ると、渚は遊び呆ける男達に混ざりにいく。
「相変わらず渚はちっこいなぁ、年頃の女にしては、他のサキュバスは皆ボンッキュッボンッなのに、お前だけちまーんとしてて、親戚の妹みたいに感じるぜ」
「ほっとけ! 見てろよ! 今にボクも魅惑の女に成長してやるんだから!」
「あらあら、その時は恐ろしいサキュバスクイーンの誕生ね」
そうして渚は仲間達と共に酒と牛乳を飲み交わし、夜を楽しんでいくのだった。




