襲撃
大地をかけ、転移用のポータルから彼女の住む街、"ミズガルズシティ"へと戻る。そこは、様々な種族が行き交う近未来の街となっていた。信号からして、イストリアの取引に応じた重役は、どうやら裏路地のホテルに身を隠したらしい。
「バカだなぁ、裏路地はボク達の領域だって言うのに」
渚はそう言いつつ、余裕そうな足取りで裏路地の中へ入っていった。
裏路地は薄暗く、そして危険な街だ。このミズガルズにおいて人権と安全が保証されない街で、そこでは、身寄りのない者や、社会からの外れ者が住んでいた。暴力沙汰も日常茶飯事で、人が急に消えることなんてよくある話だ。
そんな街を、少女である渚は闊歩する。周りの人はどういうことか、渚を見ると攫うどころか恐れをなして目を背けていった。
「ボクも有名になったもんだねぇ」
くすくすと笑いながら歩いて行くと、目標のいるホテルに辿り着く。手持ちの武器を確認すると、渚はホテルの中に入った。
「お客さん…んー……あぁ、"裏切り者"なら2階の104号室にいるよ」
「教えてくれてありがと、これチップね」
そうして渚は笑顔を見せてコインを数枚受付の男に渡すと、2階に上がって行く。その姿を見送る店主はポツリとこう呟いた。
「"ナハトヴォルフの女王"自らが動くなんてどんな事をしたんだ? 今夜の客は」
2階に上がった渚は悠々と歩き104号室の前に立つ。そしてコンコンとノックした。
その途端、ドアの向こうから銃が乱射され、渚の身体は銃でズタズタに撃たれる。
暫くして…扉が開くと、そこから、イストリアの重役が出てきた。
「はんっ、四課が来るかと思いきや、こんな小娘だった1人だけとは」
床に倒れた渚を見て、鼻で笑うと、彼女の手を掴んで持ち上げる。
「あーあー、血と肉がぐちゃぐちゃだ、だがここではそういうのは当たり前と聞く、このガキの死体を捨ててこい」
「はい!」
そうして重役は兵士に渚の死体を押し付けるが、気のせいだろうか、彼女がぴくりと動いたような気がした。
「あの!」
「なんだ、私はどうやってこの窮地を脱するかを考えるので忙しいんだ、早く捨ててこい!」
「この死体……一瞬動きませんでしたか⁉︎」
「動くわけなかろう、これだけ撃たれればいくら大人でも死ぬ、試しに白銀弾を頭にでもぶち込めばよかろう」
それもそうかと兵士が能力者の能力を抑える白銀弾を込めた拳銃を取り出したその時だった、カランカランと彼女に撃ち込まれた銃弾が全て傷口から出てきた。
「……? 何故死体から銃弾が」
直後、渚を掴んでいた兵士の首が飛んだ。血飛沫が舞い、重役の男と兵士はそれを見て驚く。
「バカな⁉︎ あれほど撃たれて死んでない、だと⁉︎」
「いったいなぁ……すっごい痛い、もー死ぬほど、もうちょっと手厚い出迎えをしてくれるかと思ったのに、ざーんねん」
片手にマチェットを持った渚が、血を吐きながら立つ。傷口は少しずつ埋まり、少しすれば、数ひとつない元の身体へと戻っていた。
倒すべき敵を見て渚はニタリと笑うが、その姿が彼らに取って、恐怖を感じさせられた。
「し、死ね! 死ねぇえええええっ!」
イストリアの兵士が白銀弾を打ち込むがそれを至近距離で避けると、腰にかけていたショットガンを顎に押し付け撃った。
再び兵士の頭がなくなり、血がべっとりと彼女の黒いケープに付く。顔にも血がかかるが、彼女はそれを拭き取ると、ショットガンを重役に向けた。
「ひぃいいいっ⁉︎ な、なんなんだお前はぁああああ⁉︎」
恐れをなした重役が部屋の隅までさがり、渚を恐れる。対する渚は先ほど撃たれたのに余裕そうな表情で歩き、重役の目の前まで近づいた。
「…ふふっ、なんだと思う?」
先程殺した別のターゲットに言った同じ質問を男に投げかけた。笑顔で、しかし、目は笑ってない状態で。
とすっと、マチェットが男の腹に突き立てられた、少しでも力を入れればすぐにでも肉を割いて刺さるように、マチェットがトントンと押し付けられる。
「四課の奴らではない事は明らかだ…だが、この都市においてこんな力を持ったガキの話なんて聞いたことがない、とすると……お前は…裏路地出身のガキか!」
「んー、半分正解」
すぅーっとマチェットの刃がなぞられ、男の腹に血が垂れる。いつでも殺せる状態だというのに、この少女はターゲットである自分を弄んでいる、そう男は思った。
「まぁ知らないよね、裏路地の事情なんて、都市のお高いところから眺めてるだけの高官サマには」
「じゃあ、お前はなんなんだというのだ⁉︎」
「……聞いた事ない? "ナハトヴォルフ"って言葉」
「ナハト……ヴォルフ⁉︎」
ナハトヴォルフと聞いて男はひっと悲鳴をあげて、同時に気づいた。
「裏路地でも、表社会に影響を与える程の力を持つ闇ギルド…! とするとお前は……!」
「そう、ボクの名前は陽宮 渚、オタクのとこの四課にいる陽宮 永戸の妹で、闇ギルド、ナハトヴォルフを仕切るエース、この裏路地の支配者の1人ってワケ」
そう言うとマチェットを押し付ける力を強め、男にマチェットを突き刺した。
「ごふぁっ⁉︎ や、やめろ……私は、こんなところで…!」
「死ぬようなやつじゃない、なんて言いたいんだろうけど、ダメだよ、キミは抹殺依頼が来てるんだから」
グリグリとマチェットをどんどん強く押し込んでいき、血を吐く重役の男に対してニタリと笑う。
「ボクから逃げ切れてもボクの仲間がキミを殺しに来る、キミの逃げ場はもうどこにもないし、ここで死ぬ。諦めなよ」
マチェットをひきぬくと、また、今度は胸に突き刺しながら渚は言う。
「嫌…だ……死にたくな………」
「…諦めが悪いなぁ、さっさと死ねよ」
そう言うと、男に向けて、マチェットを何度も何度も突き刺した。息が絶えるまで…。
そうして男が死ぬと、渚は立ち上がり、ふぅっと息を吐いて、ヘッドフォンで連絡を取る。
「殺したよ、イストリアの裏切り者を」
『よくやったな、遅くならないうちに帰ってくるんだ』
「今日の晩御飯は何?」
『店で余った肉で作るシチューだ』
やったぁ、好物なんだよねそれ、と言いながら渚は帰路につく、暗闇の中歩く彼女のその背中には悪魔の翼が生えているように見えた。




