ラファリスという聖騎士
教会に帰った後、渚とラファリスは一室にて怪我の治療をした。
「いだだだ! もっと優しい魔法とかないの⁉︎」
「仕方ないじゃない、エグリーズの加護を受けた剣で切られたのだから、これくらいの痛み、我慢なさい」
そんなぁと思いつつ渚は治療を受け、元気になった。対してラファリスも、斬られた肩口を治し、傷を綺麗に治した。そうして少しの間、沈黙が支配する。
先に言葉を発したのは渚だった
「あのさ、ラファリスって、さっきの騎士たちの仲間だったの?」
「ええ、そうね、私は何千年ほど前にエグリーズという組織を作り上げた創立者だったの。その時はまだ小さな聖騎士団でね、魔族の討伐を掲げてはよく魔族と戦っていたわ」
「じゃあ、何で離反なんてしたの?」
渚の質問に、心苦しいのかラファリスは黙り込む。だが、暫くすると小さく口を開いた。
「ある時、私は小さな魔族を殺したの。貴方よりももっと若い女の子の魔族でね、仲間たちに言われるがまま、私はその子を殺した」
「言われるがまま? 自分の意思じゃないの?」
ううん、とラファリスは首を振ると、話を続けた。
「私はその子を殺すのを躊躇ったのよ。まだ何も悪い事をしていない、無垢なる存在を、抹殺して良いものかと。けれど仲間達は殺す事を望んだの」
はぁっとため息をつきながらラファリスは言う。
「その日以来、私はエグリーズのやり方に疑問を持ち始めたのよ。どんどん組織として巨大化していき、魔族への反発も過激になっていく中、私はどんな魔族でも殺す組織のやり方を認めたくなくなったの」
「だから…離反したの?」
「ええ、私も、さっき倒した相手と同じように粛清騎士、それもトップの座に君臨していた者だった。だけど、過激派していく組織に耐えきれず、離反した」
離反した時のことをラファリスは思い返す。罵倒どころではなく、自らに剣を払おうとした仲間が大勢いたことに恐怖を感じた。
「それ以来、私はエグリーズの使者としてではなく、一般のシスターとして聖職者についたの。そうしたら出会ったの、私をサキュバスにしてくれたお方に」
「そのサキュバスってどんなサキュバスだったの?」
「……自由奔放かつ誰も傷つけようともしない、とても優しい方だったわ。私が元エグリーズの粛清騎士だと知っていても、それでも仲間に誘ってくれた心の広いお方だったの」
ラファリスはあの時のことを思い返すと、優しい微笑みが出てきた。
「ええ、とても良い方だったわ、人にも、魔族にも、双方にも優しくて、皆から好かれていた、とても優しい魔族だった」
「その人は今はどこで何をしてるの?」
「さぁ、私にもわからないわ、でも、きっと今頃も、さまざまな人たちを笑顔にしているかもしれない。そのお方はとても強い方だったからね、きっと生きてるわ」
「どうしてわかるの?」
渚は興味津々にラファリスに聞いた。するとラファリスは優しく答えた。
「一度手合わせしたことがあるの。粛清騎士としての実力がちかなるものか見せてほしいと言われてね。結果は引き分け、互いに大怪我を負ったし、傷の手当てをするのも大変だったわ、でも、勝負を終えた時、2人で笑ってたの」
「本当に仲が良かったんだね」
渚は外に出始めていた月を眺めながら、そう言う。ラファリスも、否定はしないのか、ふふッと笑った。
「あのお方にサキュバスにしてもらってからは、後は言わなくてもわかるわね」
「この寂れた教会でシスターをしながら暮らしてたと?」
「ええ、ここに来る人は私のことをサキュバスクイーンだとわかっていても受け入れてくれた。どのような者でも聖職者をしていいと。そして、貴方がここにきた」
「…あはは、何だか恥ずかしいな」
「そうね、でも私は、貴方を救えて良かったと思っている。例え魔族に堕ちてでも、人の命を救うことは、決して悪いことではないと思ったから」
ラファリスは渚の隣に来ると肩を抱いて寄り添った。
「貴方は私の大切な最初の娘……そして私に意味を与えてくれた子、とても感謝をしているわ、貴方に出会えたことに」
「それは神に対して?」
「それもそうだけど、でももっと違う、運命というものに感謝をしてるの」
ラファリスは渚を抱きしめ、大切そうにする。ラファリスにとって、渚は1人で生きてきた彼女に生きる意味を与えてくれた存在であり、道を示してくれた存在であると。
「渚……いつもありがとう、貴方は文句ばかり言うけれど、けどちゃんと、思ってるところは思ってるから、だから信じてる」
「恥ずかしいことばっか言うなぁ、僕はそんなに優しくはないよ」
「ううん、貴方は優しい子よ、現に、貴方は色んな人を巻き込んでは、自分の仲間にして大切にしている。とても素晴らしい子」
ラファリスは渚をすりすりと頬擦りするが、恥ずかしくなった渚は立ち上がると出口まで行った。
「あーもう、ボクもうかえるよ!」
「うん、今日は来てくれてありがとうね」
そうして渚は部屋から出ていく。それを見送ったラファリスは言った。
「生き延びなさい。この残酷な世界で、眩く輝く星のように」
そのラファリスの言葉は、渚に対しての祝福の言葉のようになったのだった…。




