帰るべき家
「貴方が出て行ってから、私は多くの人をサキュバスにして救ったわ。けど、皆貴方のように、人として旅立つ勇気は持たなかった。貴方だけは本当に、特別な子よ」
「そう捲し立てられても照れるだけだよ。ボクは単純に帰る家があったから帰っただけで」
渚はそう言うが、ラファリスはにっこり笑いながら答えた。
「貴方がいなければ、私は他のサキュバスの子を作ろうだなんて思いもしなかった。今では立派に家族を作り上げているわ」
「そんなにボクは凄いことはしてないって、単純に提案しただけだから」
渚は照れながらも尻尾を揺らすサキュバスクイーンの尻尾が揺れるが、ラファリスはそんな尻尾を見て渚が愛おしく感じた。
「ボクの妹達はどうしてるの?」
「今の時間帯は空白地帯で露店をやってるわ」
「護衛とかなくて大丈夫なの?」
「大丈夫よ、すぐそこで何かあったら私が飛んでいけるから」
そう言うとラファリスはふふふと笑う。最初はあんなに拒絶してたのに、今では他のサキュバスを思うほどの姉になるなんてと、ラファリスは嬉しく思う。
ふと、渚は気になったことをラファリスに聞いた。
「ねぇ、ラファリスって今はシスターやってるけど、昔はどんなことをしてたの?」
「あら? 聞きたい? 私の昔を」
「うん、聞きたい」
そうね……とラファリスは静かに考え込むと、はぐらかすように言った。
「貴方と同じ人間だったわ、けど、訳があってサキュバスに堕ちたのよ」
「訳って?」
「そうね……その話は、また今度にしましょう」
「えー、つまんないの」
自分の過去は話させたくせに、と渚は文句を言うも、ラファリスも「そう簡単にいえない過去があるの」と念を押した。
すると、教会内にたくさんのサキュバスが入り込んでくる。
『ただいま! ママ!』
「おかえりなさい、露店の仕事はどうだった?」
「今日はちょっと売れたよ、加護が施されたネックレスとか」
「そう、それは良かった」
ラファリスが笑うと、娘となるサキュバス達も笑った。でも、と娘達が不安そうにラファリスに聞いてきた。
「さっき『教会』の人達が私たちに聞いてきたの、空白地帯にサキュバスクイーンが住みついてないかって……私たちは擬態でバレなかったけど、ママのことを探してたんじゃないかな」
「そう……『教会』が来てるのね…貴方達は家の方まで戻ってなさい、『教会』が来ても絶対に人気があるように見せつけちゃダメよ」
「わかった!」
そうして娘達は帰ろうとするが、ここで渚がいるのを見つけた。
「渚姉さんだ!」
「お姉様! 帰ってきてくれたんだ!」
「あはは、ただいま…」
サキュバス達に擦り寄られる中、渚は笑いながら一人一人の頭を撫でていく。ラファリスの庇護を受けてる彼女らにとっても渚は姉同然で、店のサキュバスのように小さななりでも渚のことを姉だと思って大切に思ってくれた。
「『教会』に気づかれないように気をつけて帰りなさい」
「はーい!」
サキュバス達が渚とラファリスに別れを告げては帰っていく。彼女達が消えたところで、渚は聞いた
「『教会』って?」
「"エグリーズ"、そう呼ばれている組織よ、この都市ミズガルズの宗教を管理している組織で、私たちのような魔族の存在を許さない者達よ、それが何故…こんな裏路地まで」
「…ラファリスを追ってきたんじゃ」
「だとしても、ここまで執着されるなんて」
ラファリスは擬態し、シスターの格好になると外に出ては確認を取る。娘達は無事に帰ったようだ。
「これからどうするの?」
「エグリーズの人間を処理する。幸いここは裏路地、どんな事件があっても有耶無耶にされる土地だからね」
そう言うとラファリスはシスターの格好のまま道を歩き始めた、渚もそれについて行ってはいつもの服装に戻り、2人で歩く。
裏路地の空白地帯は基本、誰も手を出さない、理由は、そこに何らかの脅威となる存在があるからだ。この土地には今、ラファリスがいる。彼女の存在が、この空白地帯を塗りつぶすことをできずにさせていた。
そうしてあるいていると、エグリーズの使いか、2名の兵士を見つけた。今は住民に質問をしていた。
「ここに、サキュバスが棲みついてると聞いたが? 知らないか?」
「知らないね、ここは安全地帯だから皆住んでるまでさ」
住民がラファリスをみつけると、ハッとした表情ですぐに家に戻る。同じくラファリスを見つけた兵士達は、ラファリスににじり寄った。
「シスターか、貴様、どこの教会の者だ」
「この先の教会の者でございます、少々寂れてはいますが1人で教会を運営しています」
「ちょうどいい、そこで一度休ませてもらえないか? 我々はあるサキュバスを探している丁度…貴様くらいの背格好のサキュバスだ」
「まぁ怖い、そんなサキュバスがいるだなんて、一体そのサキュバスは何をしたんですか?」
ラファリスが聞くと、兵士達は言った。
「いや、そのサキュバスは、存在そのものが歪んでいる。元聖職者のサキュバスで、我々エグリーズの創立にも関係している。だがそれ故、恐ろしい存在なのだ。何か知らないか?」
「そのサキュバスはどのような姿をしていましたか?」
「どの格好って……確か、銀色でクイーンと呼ばれた個体だと聞いているが…」
その言葉を聞くと、ラファリスがほくそ笑むのを渚と兵士は見た。
「ふ…ふふふ、エグリーズの目も節穴になったようですね、昔は対魔の術や何やらで暴き出していたのに」
「貴様、何が言いたい!」
「何が言いたい、それは、こう言うことよ」
シスターの服装が変化すると、それの意匠を残したドレスへと変わり、角と羽と尻尾が生え、ラファリスは正体を表す。
「なっ⁉︎ 貴様が……」
「いかにも、私はエグリーズ創立者にして離反者、そして今は、神に啓蒙なシスターをしているサキュバスクイーン、ラファリスよ」
手袋をしっかりとつけると、エグリーズが使うとされる十時剣を二本持ち、ラファリスは構えた。
「渚、銃を抜きなさい、彼らはエグリーズの上位粛清騎士、手加減をすると危ないわ」
「最初から手加減なんてする気はないんだけどね!」
渚も銃を両手に持つと、サキュバスクイーンの姿になる
「『教会』の裏切り者、ラファリスめ…ここで粛清する!」
エグリーズの粛清騎士との戦いが始まったのだった。




