渚の過去2
ジェフリーに拾われてからの渚は、彼の教育を受け、傭兵としての技術をメキメキと成長させた。だが、同時にジェフリーは心配であった。確かに傭兵として成長こそしているが、彼女の心がまだ不安定であったことに。
実際に、渚が元気になってから、教育方針のことを話しては、喧嘩することが増えた。
「ボクだってもうそろそろ実戦に出てもいいでしょ! もう十分親父からは教わったよ!」
「ダメだ、今のお前では不安すぎる。まだ訓練を受けてからだ」
「えー! もういいじゃん! ボクにも依頼受けさせてよ!」
「ダメなもんはダメだ! お前に人殺しは早すぎる」
そうしてジェフリーに言われ、渚は拗ねる。渚の技量に関してだが、確かにジェフリーは認めていた。だが反面、渚は調子に乗っていた。このまま彼女を仕事に出して、果たして良いのだろうかと思った。
そうジェフリーが思っていたある日のことだった。
その日の彼女はやけにおとなしく、鍛錬に励んでいた。いい兆候じゃないかと思って仕事をしていた。
ある時、一枚の依頼の紙が消えているのに気付いた。その紙は重要人物の暗殺の紙で、難易度の高い依頼だった。
まさかと思い、渚が鍛錬に励んでいた場所に行くと、彼女はいなくなっていた。
しまったと思い彼女を探すも、もう彼女は依頼に向かっていて、追うことはできなくなっていた…。
ーーー
「親父だって、ボクももうそろそろ戦える事を認めればいいのに」
依頼を受けた渚は重要人物の暗殺にきていた。彼の愛用していた銃を持つと、重要人物の近くまで接近し、こっそりと銃を構える。
そして銃を撃つと、あっという間に重要人物は死んだ。
(簡単じゃーん♪ これで親父も認めてくれるかな)
渚はそうして逃げようとするが、銃を撃たれまくり、背中から肩と片足を貫かれた。
「あぐっ!」
身を焼く程の痛みが体に走る。それでも渚は走り続け、なんとか近くの空白地帯にまで逃げ込んだ。
「はぁ…はぁ…親父…ボクやったよ…ちゃんと人を殺した。これでボクのこと、認めてくれるよね」
渚は疲れたのか、寂れた教会の前で座り込む、肩と足からはどくどくと血が流れ出ており…止血をしないと失血の危機があった。
だが渚は止血の方法なんてまだ習ってなかった。
「あれ…おかしいな…体に力が入らないや…」
立ち上がって歩こうとするも、体がふらつき、倒れてしまう。視界もぼやけ始め、渚は死の淵に立たされた。
(寒い……さっき喰らった銃弾が不味かったのかな……ボク、死ぬのかな)
渚は死を感じ取り、そのまま息が絶えそうになる。その時だった。
「…あら、大変! こんなところで、人が倒れているだなんて」
透き通る銀髪の女性が渚の前に立ち、彼女が生きてるか確かめる。まだわずかに息がある。処置をすればまだ生き残れる可能性はあった。
だが銀髪の女性…ラファリスは、その適切な処置をする道具を持っていなかった。
このままでは目の前の命は死んでしまう。そこでラファリスは考えた。自らの血を分け与え、彼女をサキュバスにすることで、命を繋ぐ手はどうだろうと。試さない手はそれしかなかった。すぐに彼女は指を噛むと、サキュバスの血を彼女の口の中に流し込んだ。一滴だけじゃたりない、自身の血を彼女が再生するまで流せるだけ流した。
すると、彼女の体は変化し始めた。角と尻尾が生え、黒髪だった髪が透き通るような銀髪にへと変わる。弾丸も体から浮き出てきて、傷も埋まった。
だがその時、ラファリスはあることに気づいた。彼女のサキュバスとしての適正にだった。自分と同じ銀髪を持ち、普通のサキュバスとは違い、結晶のついた尻尾を持つ。
彼女は、サキュバスクイーンに変化したのだ。ラファリスは彼女を後継者にしようと教会に連れ帰った。そして、彼女が目を覚ますまで面倒を見たのだった。
ーーー
しばらく経ち、渚は目を覚ます。自分は死んだんじゃ…と自分の手を見てみるが、ちゃんと感覚はあった。だが、自分の頭と腰に妙な感覚があることに気づいた。試しに触ってみると、頭には角が、腰からは尻尾が生えていた。これが自分から生えていることに受け入れられず、近くに鏡か何かないか探すと、鏡で自分の姿を見た。
そこに映っていたのは。漆黒の黒髪ではなく、透き通る銀髪で、青い瞳を持った渚の姿だった。
「どうして…なんだよ! この姿!」
渚は自身の姿に驚くが、その時、ラファリスが部屋の中に入ってきた。
「あら、目を覚ましたのね、良かった」
「…キミは誰⁉︎ ボクはどうしてこんな姿になってるの⁉︎」
「……私はラファリス、貴方の母になる者よ、貴方は死にかけのところを私が血を与えて、サキュバスにして救ったの」
「サキュバスに…⁉︎」
渚は現状を受け入れられなかった。サキュバスに自分がなっていただなんて、渚はくらりと倒れ込みかけると、ラファリスに支えられる。
「まだ動いちゃダメよ、怪我が治ったばかりなんだから」
「なんでサキュバスになんてしたの! ボクは人間だ! こんな姿は望んでない!」
「今は生きていることを喜びなさい! 貴方は、銃弾を受けて死にかけてたのよ!」
「でも! ボクは…助けてもらわなかったって!」
「助けてもらわなければ死んでいたのよ!」
ラファリスに迫られ。渚は何も言い返せなくなる。このサキュバスの体はずっと続くのだろうかと考えると、嫌で仕方がなかった。
その日以来、渚はラファリスの下でしばらく暮らすことになった。
最初は彼女と共に過ごすのは嫌だったが、ある日、ラファリスはあることに気づいた。
「……貴方、淫紋がつけられてるのね」
「うん……それでボクは、精がないと生きていけないの」
「なら、こちらにきなさい、私の精を分けてあげるから」
ラファリスに言われた通り近づくと、尻尾を絡ませ、結晶から結晶へ精が分け与えられる。精が分かられた途端、体に力がみなぎる感覚を感じた。
「サキュバスは精を栄養にして生きている種族、特に貴方は、サキュバスクイーンと呼ばれる上位存在なの。貴方が望めばサキュバスの配下を増やすこともできるし、こうして精を分け与えることができる。貴方はすごい子なのよ」
「ボクが…すごい子?」
「えぇ、貴方は私と同じように、サキュバスの親になれる、その気になれば大量の配下を持つことができるの」
「じゃあなんでラファリスは配下を持たないの?」
渚がそう聞くと、ラファリスは寂しそうな顔をして、こう答えた。
「私はいいの、家族が欲しかっただけだから、今は貴方と言う娘がいるだけで幸せなのよ」
そう言うラファリスの姿がどこか寂しげで、悲しそうだったのが思えた。
それ以降、渚はラファリスに少しずつ心を開いていった。母親という存在を渚も持っていなかった為、渚自身も母親を求めて、ラファリスに依存していたのかもしれない。
そんなある日だった、外で洗濯をしていると、ジェフリーに見つかった。
「渚…! 渚…だよな!」
「親父…」
サキュバスの姿となった自分を見られて、渚は嫌悪感を抱くも、けどもジェフリーに久々に会えたことが嬉しかったのか、思わず抱きしめに行った。
「ごめん…ごめん! ボク…調子に乗ってた! 自分にだってできるって思い込んで…死にかけてこんな姿になっちゃって」
「いいんだ、お前がこうして無事でいてくれたのだから」
ジェフリーが渚の頭を撫でると、渚の体はサキュバスの体から、人間の体へ変化した。どうやら自然と、変化の術を覚えたらしい。外の喧騒を聞きつけたのか、ラファリスが外に出てくる。
「あら、貴方は…」
「俺は…こいつの義理の父です。こいつを助けたのは、貴方ですか?」
「ええ、彼女を救ったのは私です」
「ありがとうございます。姿形が変わったとはいえ、またこうして彼女に会えたのですから」
ジェフリーとラファリスが話す、それは、別々の親同士の対談だった。互いに渚を思う気持ちがあるのか、手放したくなさそうでいた。そこで、渚は言った。
「じゃあさ、ラファリス、ボクみたいな子が生まれないように、裏路地で困っている子がいたら、サキュバスにして助けてあげて、家族にしてさ」
「じゃあ、あなたは…」
「ごめん、ボクは、戻らなくちゃいけない場所ができたから」
人間体の姿で言った渚を見て、ラファリスは思った。これはきっと親離れなのだと。けども渚は言った。
「離れ離れになるわけじゃないよ、定期的に精を取りにくるし、困ったら助けにも行く。ここから店も遠くないし」
「でも、私はそんなにたくさんのサキュバスを支えきれないわ!」
そうすると渚は悩むが、ここでジェフリーがあることを言い出す。
「ちょうどウチには夜を担当する給仕が足りてない、もしよろしければだが、眷属にしたサキュバスをウチで働かせることができるが、いいか?」
「精の供給は保証してくれるの?」
「おっ始めるのはダメだが多少の吸精さえできればいいんだろ? それならいいはずだ」
そうして話が決まりそうになったところで、渚は言う。
「ラファリス……ううん、ママ、今までありがとう、ボクを助けてくれてありがとう…これからはみんなで協力して生きていこう? ラファリスはもう、1人じゃないよ」
そう聞くとラファリスは瞳から涙を流した。1人の少女が巣立つことと、自分1人だけじゃないということに対して。
そうしてラファリスは裏路地で途方に暮れる子をサキュバスにし、家族にするすることで救い、ジェフリーは、そんなサキュバス達を働かせることで生かせる事を決めたのだった。
渚も、元の鞘に戻り、ジェフリーの指導をしっかり受けるようになった。ちゃんと受ける指導は全部受け、渚は立派に傭兵として成長したのだった。




