第8話 恐怖の試作機
«異能特殊師団視点»
第一大隊は雷嵐が撃ち終わった後、トラウィス機甲部隊の残存兵力を叩くべく各部隊戦闘行動に入った。
「ダラス副隊長!10時の方向にWTー2歩行戦車が接近中!」
「わかった!スミス上等兵、奴の足の駆動部を撃ち抜け!」
「了解。」
ロイ軍曹がハーリー中佐とタッグを組んでいるため一時的に分隊の指揮権をダラス伍長が受け継いでいた。
「ハーリー中佐とロイ軍曹のおかげでまだ強風が吹いているがこの距離なら問題ない。」
雷嵐を放った後もロイ軍曹とハーリー中佐は異能の力を使っているため、戦場には強風や雷の地響きが続いている。
「神よ、再び我に力を。」
撃つ前のルーティンである祈りを捧げ対物ライフルのトリガーを引く。
バァァン
大きい音を出し対物ライフルから放たれた弾丸はWTー2の脚の駆動部を破壊し、バランスを崩したWTー2は横に倒れ歩行を停止する。
「よし、ローラは後方に回り込みハッチを開けてパルスグレネードを投げ込め!他の者はWTー2に追従していた機械歩兵を制圧しローラ上等兵の援護だ!」
『了解!』
ローラ上等兵以外の8人はローラ上等兵の援護のため前に出て後ろで追従していたトラウィス機械歩兵を制圧射撃し、ローラ上等兵は素早くWTー2の後方に回り込みパルスグレネードをWTー2内に投げ込んだ。
立ち上がろうと動いていたWTー2はパルスグレネードを投げ込まれた後動かなくなり完全に機能停止する。
しかし、追従していた機械歩兵達は攻撃の手を緩めず101分隊にエネルギー弾の雨を浴びせる。
「ダラス副隊長!一旦倒れたWTー2に隠れましょう!このままではエネルギーシールドが持ちません!!」
「全員WTー2の所まで下がれー!」
101分隊はWTー2の所まで下がり、WTー2を盾にして応戦する。
「ちくしょう、キリがねぇ!あれだけの損害を出したら普通撤退するだろ!」
文句を言いながらスティーブ一等兵は必死に応戦する。
「確かに、通常トラウィスは作戦続行不可能と判断すれば即座に撤退するはず、指揮官機が居ないのか?それとも別の狙いが……っ!!」
ミランはなにかに気が付き一瞬動きが止まる。
「おい!ミラン!なにブツブツ言ってるんだ!考えるより先に目の前の敵に集中してくれ!」
「すまん!スティーブ!ダラス副隊長に報告しないといけないことがあるからしばらくここは頼んだ!」
「ちょ!おい!勘弁してくれー!!」
ミランはダラス副隊長の元へ走り、スティーブはまた文句を言いながらも持ち場を守るため応戦する。
「ダラス副隊長!このトラウィス機甲部隊は陽動の可能性があります!」
「急になんだ!今はそんなこと言ってる暇じゃ…」
「今すぐロイ軍曹に連絡して陽動の可能性を伝えてください!!じゃないと手遅れになります!」
ミランはダラスに懇願する。
「わかった、今報告するからその間俺の代わりに応戦しててくれ」
「ありがとうございます!」
ダラスはミランの気迫に押され無線でロイ軍曹に報告する。
[こちら101分隊、ロイ軍曹聞こえますか?]
[聞こえる、どうしたダラス]
[先程ミラン一等兵が今戦っているトラウィス機甲部隊が陽動の可能性があると申しており、ミラン一等兵の願いもあって報告しました。]
(陽動か…、確かに最初は罠かと思っていたがそういう素振りは全く無く、あっさりと機甲部隊の3分の1を破壊できた。だけどそれなら普通撤退するはずだが撤退はせずに異常な程抵抗をしてくる。もし機甲部隊が陽動だとしたらこの異常な抵抗にも納得出来る。)
[報告ご苦労、俺からハーリー中佐にも報告して索敵範囲を広げるよう進言してみる。]
[了解しました!]
[あ、あと………]
危うく死亡フラグを言いそうになったので口篭る
[?あと?]
[なんでもない、戦闘続行せよ]
[了解!ご武運を!]
無線が切れる。
近くにいるハーリー中佐に無線の内容を伝える。
「なるほど、陽動か。ミラン一等兵の言う通りトラウィス機甲部隊の行動を見るに陽動が1番可能性が高いな、今すぐ索敵範囲を広げさせよう。」
ハーリー中佐は後方の指揮戦車のオペレーターに索敵範囲を広げるよう命令した。
〜指揮戦車管制室〜
ハーリー中佐の命令を受け索敵部隊に索敵範囲を広げるよう指示し、索敵ドローンも増やしさらに通常兵装の部隊にも索敵をさせ広範囲部隊が展開した。
そしてしばらく時間が経ったあと一通の通信が入った。
[こちら第10普通科大隊所属27分隊、応答願います!]
[こちら指揮戦車管制室、どうした!?]
[我々の前方に移動中の大型浮遊物体を発見!肉眼では見えませんがサーマルで視認するとハッキリ見えます!]
発見の報告に管制室に緊張が走る。
[大型浮遊物体の現在地を教えてくれ。]
[了解!今位置情報データを送ります!]
送られてきた位置情報を管制室の大型スクリーンに映す。
「なっ!いつの間にこんな所まで…」
敵の大型浮遊物体は普通科大隊がいる位置から東に30km離れた所まで来ていた。
「今すぐ偵察ドローンと臨時で迎撃部隊編成し向かわせろ!あとハーリー中佐にも報告するんだ!」
管制室に居た普通科大隊の大隊長が指示を出す。
つけっぱなしだったのだろう、無線の向こう側から慌ただしい声が聞こえてきた。
[なんだあの図体と砲の量は!全員今すぐ撤退しろ!]
[こちら管制室!今どういう状況だ!報告しろ!]
[おい!砲が全部こっちに向いてるぞ!早く逃げ…]
[ザーザーザー…]
無線が途切れる。
[無線完全に途絶、応答ありません。]
「くっ!偵察ドローンはまだ到着しないのか!?せめて彼らの生死だけでもハッキリさせないと…」
「たった今偵察ドローンと迎撃部隊が現場に到着、映像をスクリーンに出します。」
偵察ドローンから送られてきた映像をスクリーンが映し出す。
「なんだあれは……」
スクリーンに映し出されたのは低浮遊しながら移動する横長で戦艦に匹敵する大きさの大型物体とその大型物体が動物の体毛のように身につけている大小様々な大量の砲が映し出される。
「トラウィスの新型か?」
「いえ、頭にある識別番号が0なので試作機だと思われます。」
トラウィスの戦車型は頭に必ず識別番号があり、試作機には全て0が付けられている。
「迎撃部隊、敵試作機と交戦開始!」
迎撃部隊はトラウィスの戦車型に有効なシールド貫通型対戦車ミサイルを何発も撃ち込む。
しかし
「敵試作機に損傷無し!シールドを貫通しても全て装甲に弾かれます!」
「んな馬鹿な!恐ろしく硬い四足歩行型戦車でも損傷を与えるほどの威力だぞ………。」
試作機は何事も無かったように前進を続ける。
そして移動要塞の砲が迎撃部隊の方へ向けられる。
その瞬間。
ドガァァァン
何百門もの砲が一斉に射撃し、一発で迎撃部隊は跡形もなく吹き飛ばされた。
「ああぁぁ…!」
「そんな…!」
それを見ていたオペレーター達は恐怖と絶望を感じることになった。
それからは為す術なく一方的な虐殺が始まり、第10普通科大隊は数を減らしていった。