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成田国際空港10:45発、直通便でチューリッヒ・クローテン国際空港到着は同日18:10。 約14時間25分の空の旅だ。
降り立った空港は郊外にあり、ここからチューリッヒ中央駅まで13分。僕たちは駅から即ザンクトガレン駅へ直行した。
スイス最大の都市チューリッヒから列車で1時間、ザンクト・ガレン駅に着く。
駅は現代的だ。(構内にはスタバもあった!)駅から出て左側に進むとその先が旧市街。
旧市街にはフレスコ画を壁に描いた家や〝ベイバルコニー〟と呼ばれる凝った彫刻を施した出窓を持つ家々が続いている。これは17世紀から19世紀、市で盛んだった織物業で財を成した貿易商の住居だと言う。ちなみに出窓は計111あるとか。そんな通りをおよそ10分歩いて至ったマルクト広場。銅像が見つめる視線の先に二つの塔の大聖堂が見えた……あれがそうだ!
だが、今日はここまで。方向と場所を確認してから、僕たちは今日と明日宿泊予定のホテル・アインシュタインへ向かう。朝野姉妹、そして来海サンのために(兄の行嶺氏もこの点は断固譲らなかった)安心安全の☆☆☆☆☆星ホテルを予約している。目的の修道院図書館に近いロケーション(徒歩5分)は言うに及ばず、建物もスタッフの応対も非の打ち所のない、素晴らしいホテルだった。同業のホテルマン陽さんは勉強になると言って目を輝かせ、しきりに頷いていた。
ちなみに姉妹と来海サンはコンフォート・ルーム、僕はシングル・ルームだ。
翌朝8時。朝食もそこそこに出発した僕たち。
大聖堂は扉が閉まっていた。
だが、慌てるなかれ。ここは入場無料で出入り自由、入場時間も9:00~17:00。だから、扉は自分たちで勝手に押し開けてOK。
この扉のノブが物凄くゴージャスで目を瞠った。ノブがこれなのだから、その内部は――
息が止まる。魂ごと吸い込まれる。降り仰げば、まさしくバロック様式の傑作、豪華で壮麗な、魂ごと吸い込まれる天井画。これは聖人たちが集う天国の風景を描いている……目を伏せれば、壁にズラリと精緻な彫刻を施した小部屋が並ぶ。こちらは懺悔室だそう……そして地下深く聖ガルスの頭蓋骨を納めた聖遺物箱が埋まっている……
逸る心が少し落ち着いた。
この大聖堂の向かい、清々しい緑の芝生の中庭を挟んで修道院がある。
修道院自体は、現在は機能していない。とはいえ、中世にベネディクト会派の主要な修道院として繁栄し、欧州中から貴重な写本や書籍が集まった。修道士たちは日夜、厳格な規則のもと、祈りと読書、そして古書の筆写、装飾製本の腕を磨いたのだ。それら全てが人類の遺産として現代まで受け継がれ、今日、僕たちはこの目で見ることができる――
修道院の左側を進むと目指す図書館の入口があった。
意外に小さいから見落としそうになる。けれど、よく見ると、その小さめの木製の扉に、彫刻された本を読む修道士の姿……! 『遠路はるばるようこそ』と言われたような気がして思わず微笑み返してしまった。
入ってすぐ、階段を登って2階へ。そこがチケット売り場兼お土産売り場となっている。
入場料は大人18フラン(¥2150)学生12フラン(¥1450)
営業時間は10時~17時。
僕たちは最も早い入館者となった。
チケットを購入し、館内は撮影禁止のためスマホを預ける。奥に無料ロッカーコーナーがあったので手荷物はそこに入れた。それから大きなスリッパを履く。これは図書館の床を傷つけないためだ。
こうして、遂に僕たちはスイス最古の図書館に足を踏み入れ――
ちょっと待て、図書館入口に掲げられた額……これは……
〈ψΥXHΣ IATPEION〉
ギリシャ語で、その意味は〈魂の病院〉または〈知性の薬局〉と訳される。
「ん、薬? 薬=カプセル……」
なんと、ここでアッサリ4通目の絵柄の一つの意味が解けた!
深呼吸をして、改めて僕たちは図書館内へ――