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「この屋敷の名前の由来ですか? 庭にぐるりと植えられた樹木――珊瑚樹から来ていると聞きました……」
「でも、ちっとも珊瑚っぽくないじゃない」
「ああ、花はね、あのとおり白いです。でも夏が来て実がなると、赤くなる。その様子が珊瑚そっくりだとか」
ふいに思い出したように遺産管財人を兼ねる若い弁護士は付け加えた。
「この樹は〈泣く木〉とも言われるそうです」
「うそーー!」
「こら、苑ちゃん! あんまりズケズケ言わないの。スミマセン、妹、いい子なんだけど率直過ぎて」
「いえ、気持ちがいいですよ。なんでもはっきり物事を言える人って素晴らしいです」
「あら、やっぱり弁護士さんて秘密をいっぱい知ってても職業柄、はっきり言えないことが多いのね? ヤダー、それって超ストレス」
「ハハハ、あんまりいじめるとこの樹みたいに泣いちゃいますよ、ホラ」
弁護士は木に歩み寄ると一枚、葉をむしり取って真ん中から千切った。すると、
「あ、白い糸が――」
「ね? これが涙みたいだと、昔、父が教えてくれました」
「ふーん、だから、泣き虫の木かぁ……ロマンチック! 気に入ったわ、珊瑚樹邸! ねぇ、陽ねぇはどう?」
「ええ、私もよ、苑ちゃん」
「それは、良かった! ご姉妹がお気に召してくださって、あなた方のお祖父様もどんなにお喜びでしょう。では、中に入って遺言書等、書類の確認をお願いいたします……」