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ゴブリンを素手で握り潰す男

 前の世界と同じく、この世界にも幾つかの諺が存在する。

 その中で最も有名なものは、やはり「不幸な事故とゴブリンの巣」だろう。

 意味としては「どこにでもあること」というももであり、実際にどこでも見かけるのが不幸な事故とゴブリンの巣である。

 

 ゴブリンは混沌の軍勢における雑兵だ。

 体長は成人男性の腰ほどで、身体能力こそ低いものの、とにかく数が多い。

 それに加えて常に群れているので、弱いからと言って村人が不用意に突っ込むと、数の暴力で殺されてしまう。

 かと言って放置しておくと一瞬で増殖しまくるので、早急な対応が求められる。

 故に、我々冒険者が適時潰してゆくのだ。


「……ぬぅ」


 無論、やる気は出ないが。

 ゴブリンの巣はひたすらに中が臭い。

 排泄物や腐った食料の臭いが、狭い空間の中で熟成されているのだ。

 もうこの世のものとは思えない程の悪臭である。

 ちなみに、鼻栓なんてものは無意味だ。

 人智を超えた悪臭はそんなものを易々と貫通し、嗅覚へとダイレクトにその刺激を伝えてくる。


 ここで俺が魔法だの何だのを使えれば、外から砲撃で楽に終わったのだが、生憎と俺にそんなものは使えない。

 そうなると俺は中に突っ込むしかないわけで、自動的に俺がこの悪臭の被害を逃れる方法は、速攻以外に無くなるのだ。

 

「……30秒で終わらせてやる」

 

 息を大きく吸い、息を止めて、ゴブリンの巣へと突入する。

 ゴブリンの巣は、基本的に一つの大部屋のみで構成されている。

 元々あった廃墟や遺跡、洞窟を使っている場合はその限りでないが、地中に穴を掘って作られる一般的なゴブリンの巣はそうだ。

 

『ゴギャッ!?』

『グギィッ!? ギィッ!?』


 今回の巣は、そんな一般的な巣で、それも小規模。

 ゴブリンの数は約20。武器は無し。上位種も無し。

 この程度ならば、突然の光にゴブリン共が驚いているうちに片付けられるだろう。


「ッ!」

 

 足元に居たゴブリン4匹の頭を、左右の手でそれぞれ2匹ずつ纏めて握り潰す。

 ゴブリン共は体が小さく、頭も物理的に柔らかいので、2匹までなら片手でいけるのだ。

 そして、1匹を踏み潰しながら他3匹を蹴り殺せば、計8匹。

 これでおよそ半分だ。この段階で、ゴブリン達の目はまだ光に慣れていない。

 

 手の届く範囲に居たゴブリンの頭を握り潰しつつ大きく踏み込んで、奥に居た2匹も握り殺す。

 そのまま後ろの足を前に持っていけば、追加で2匹。

 これで計13匹。ここでついにゴブリン達の目が光に慣れたようだ。

 俺の姿を捕捉し、侵入者を撃退しようと襲いかかってくる。


 だが、所詮ゴブリンはゴブリン。

 ゴブリンは群れれば脅威だが、やはり1匹1匹は弱い。

 近づいて来る端から握り潰せば、それで終わりだ。

 

 まず1匹目。飛びかかってきたところを握り潰す。

 次に2匹目。下から潜り込むようにして来たので、蹴り殺す。

 3匹目と4匹目は同時に左右からだ。1匹ずつ手で掴んで、握り潰す。


 5匹目は、後ろから脚の腱を狙って来た。

 タイミング的にも、どうやらこのゴブリンが本命だったようだ。

 この短い時間の中でここまでの連携をこなすところが、ゴブリンの恐ろしさだろう。

 しかし、生憎と俺は後ろから迫るゴブリンについて、既に把握していた。


『ギュッ!?』


 脚を持ち上げ、攻撃を空かしたところで踏み潰す。

 これで、本命は文字通り潰した。

 そうすれば残りの3匹はもう作業だ。握り潰し、蹴り殺し、各個撃破してゆく。

 

 さて、これで全滅だ。少なくとも、この巣の中にいるゴブリンで立っている者はいない。

 念のために蹴り殺した個体は死亡を確認するが、しっかりと死んでいる。

 であれば、もうここにいる理由は無い。早急にこの中から出よう。


「…………ッ、ブハァッ!!」

 

 ゴブリンの巣から十数メートル離れたあたりで、思い切り息を吐く。

 服に臭いが染み付いてしまったのか、かなり臭いが巣穴の中よりはましだろう。

 何はともあれ、依頼は完了だ。早く帰ろう。






「────はい、それではこちら、回収費を差し引いた報酬額になります」


 受付嬢さんから渡された袋を、毎度の如く確かめる。

 ……銀貨3枚に、銅貨8枚と言ったところか。

 あの規模の巣なら、この程度が妥当だろう。

 むしろ、相場よりも少し高いくらいだ。


「…………しかし、割に合わん……」


 わざわざ3時間近くぶっ通しで歩いて、臭いのを我慢して連中を殲滅して、また3時間かけて戻って来て、稼げるのは精々豪華な夕食分。

 これだけの時間があれば、俺なら金貨10枚は稼げるぞ。


「まぁ、ゴブリン退治は冒険者の義務みたいな…と言うか、ほぼ義務そのものですし……」

「ぬぅ……」


 ゴブリン退治の依頼は、ほぼギルドからの強制だ。

 拒否権はあるにはあるが、代わりにゴブリンを退治してくれる冒険者を探さなくてはならない。

 勿論、そんなのは誰もが嫌がるので、結局行く事になるのだが。


「だがなぁ……もう少しこう……何と言うか……」

「ラガンさんも、パーティを組めれば楽だと思うんですけどね。もうラガンさんも銀等級ですし、そろそろパーティを組んでもいいのではないでしょうか?」

「パーティかぁ……」


 言われてみれば、今の俺は稼ぎも安定してきたし、貯金も少しは出来た。

 いい加減、そろそろパーティを組んでも良い頃合いかもしれない。

 

「そうだな。そろそろパーティでも作るか……」

「はい、それが良いと思いますよ」


 そうと決まれば、明日あたり掲示板に募集の紙でも貼っておくとしよう。

 応募者が来るかどうかは分からんが、ものは試しだ。

 取り敢えず今日は飲んで、ゴブリン退治の忌々しい記憶を抹消しなくては。

 

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