表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

オーガを素手で握り殺す男

 握力という力の存在は、誰もが知るところだろう。

 文字通り、物を握るための力だ。

 それ以上の意味は無いし、それ以下の意味も無い。

 何故なら、それこそが握力という力の存在意義であり、握力という力の全てであるからだ。


 驚くべき活用性の低さと言えよう。

 握力をいくら鍛えたところで、握るという行為以外に活かせる部分がないのだから。

 しかし、ひとえに「握る」と言っても、物を持つ事だけを「握る」と言うのではない。

 例えば、物を「抉り取る」と言う行為も、立派に「握る」と言う括りに入っている。


「フッ!」

『グガァッ!?』

 

 俺は緑色の肌に漆黒の角を持つ巨大なモンスター、オーガの踵に指を突き立て、そのまま抉り取った。

 突然脚の腱を切断されたオーガは自重に耐えきれず、重力に従って転倒する。

 こうなってしまえば、その自慢の高身長も形無しだ。

 

『ゴアアァァァアアアッ!?』

「ハッ! いいザマだなぁオイ!」


 抉り取った脚の腱をそこらへ放り投げ、オーガの上へと躍り出る。

 暴れるオーガの背中を走り抜け、首元まで到着すると、その頸椎を両手で鷲掴む。

 危機感を覚えたオーガはより一層激しく体を捩るが、俺はもう既にがっしりと掴んでしまっている。

 振り落とすことなど、もう不可能だ。


「らァッ!!!」

『ゴッ』


 気合と共に、頸椎を握り潰す。

 短い断末魔を上げ、体を一度震わせると、オーガはそのまま絶命した。

 何十もの冒険者達を屠ってきた平原の鬼も、やはり生物だ。

 首を潰せば、どんな生物も死ぬ。


「……ふぅ」


 さて、何はともあれ、これにて依頼は完了だ。

 オーガの死骸は、放っておけばギルドの職員が勝手に回収してくれるので、俺が特に何かする必要は無い。

 であれば、日が暮れる前にとっとと帰ってしまう事としよう。

 この世界の道に、気の利いた街灯などないのだ。

 モタモタしていれば、暗闇の中に取り残されてしまう。


「……電気どころか、ガスも無ぇんだよな……ここ……」


 元の世界が恋しいと言えば恋しい。

 しかし、そんな贅沢を言っていられるような立場に無い事は分かっている。

 俺は所謂、転生者なんて言われている類いの人間だ。

 よく分からん狂人に滅多刺しにされたと思ったら、気付いたら赤ん坊になっていた。

 それで、村が滅んだり混沌の軍勢に捕まったりと。色々ありながらなんとか成長して、どうにかこうにか職にありついて、今に至る。


 前世でも随分と波瀾万丈な人生だった俺だが、今世でもそれは変わらないどころか、悪化していたらしい。

 今思い返すと、よくここまで生きていられたよなと思ってしまう。

 この異常な強さの握力が無ければ、俺はとっくに死んでいた事だろう。

 

「……だがなぁ……」

 

 もしこれが転生チートなんだったら、せめて腕力あたりにして欲しかったところだ。

 まぁ、この力には何度も命を助けられたし、今更とやかく言うつもりは無いのだが。

 しかし、どうしてもロマンを諦めきれない俺もいる。

 そう言う力を日常的に見る機会があるのだから、尚更だ。


「……っとと」


 そんな事を考えてながら歩いていると、ギルドを通り過ぎてしまいそうになる。

 慌てて引き返し、扉を開けて中に入れば、俺を暖かく迎えるのは仕事を終えた同業者達の喧騒。

 これを聞くと、無事に帰ってきたと言う感慨がしみじみと湧いてくる。

 

「……あ、ラガンさん。戻られましたか」

「はいはい、戻りましたよ」


 喧騒の中で扉の開閉音を耳聡く聞き取った受付嬢が、俺の帰還に気付く。

 

「オーガの討伐は完了。死骸は平原に放置。回収は明日辺りに頼む」

「はい、承りました。では回収費を差し引いた報酬はこちらになります」

「ん」


 硬貨の詰まった袋を受け取り、軽く浮かばせてキャッチする。

 音と重さで金額を確認する作業には、もう慣れたものだ。

 今回の報酬は、金貨19枚に銀貨4枚。まぁ、オーガ1匹ならばこの程度だろう。

 

「……影響が出るとはわかっていたが、こんな辺境にまでオーガが出るとはな」


 金を懐に仕舞いながら、ふと思った呟く。

 混沌の領域とは遠く離れたこの地域に、オーガのような強力なモンスターが出る事は、まず無かった。

 少なくとも、俺が冒険者になってからの10年は、トロール程度しか出ていなかったはずだ。


「はい……やはり、先の戦争の傷跡はかなり大きいようです。学院からも、今後このレベルのモンスターが連続的に出現するだろうと……」

「連続的に、ねぇ……」


 確かに、つい先月起こった混沌の軍勢との戦いで、混沌の勢力はかなり強まってしまった。

 混沌の軍勢を押し返すには成功したものの、その過程で幾つもの神殿や寺院が破壊されてしまったのだ。

 

「……はぁ、面倒な……まぁ良い。じゃあ俺は休ませてもらおう」

「わかりました。どうぞ、ごゆっくり英気を養ってください」


 受付を外れ、ギルドに併設された酒場の方へ歩いて行く。

 前世は未成年のまま死んだのでよく分からなかったが、今世で理解した。酒は実に良いものだ。

 流石、ストレスに塗れた現代社会で働く大人達の必需品なだけある、と言ったところか。

 ただ二日酔いだけは本当にキツかった。アレはもう二度と嫌だ。

 

「ん? おー! 握力野郎じゃねぇか! おーい! こっち来いよ!」


 声のした方を向いてみると、そこに居たのは俺の悪友共。

 俺から見て左から、防御力のない事に定評のある二刀流のジュード。重装備なのに思ったよりも足が速い大楯使いのコン。近距離はしょっちゅう外す癖に遠距離の狙撃がやけに上手いケビンだ。

 ちなみに、握力野郎と言うのは勿論俺の渾名である。

 由来に関しては言うまでも無いだろう。


「あー、じゃあ失礼する」


 ケビンの引いた椅子に座り、給仕に酒を頼む。

 ちなみに俺が頼む酒は常にエール一択だ。ラガーなんて誰が頼んでやるか。


「んで? オーガだって?」

「ああ、それ俺も聞きたい。他人事じゃねぇし」

「この前の戦争の影響だってよ。あのレベルのモンスターが連続的に出るそうだ」

「うへぇ……大変だなぁおい。しかし、ってこたぁ王都とか前線の方はどうなる?」

「ドラゴン共がうじゃうじゃ居るんじゃね?」

「……有り得るから怖ぇんだよなぁ……」


 この三人は皆それぞれのパーティを持つリーダーだ。

 当然その実力は高く、最前線の兵士達に引けを取らないレベルで、辺境のギルドの顔を張っている冒険者でもある。

 そんな彼らが深刻な顔をすると言う事は、つまりそう言う事だ。

 

「でもまぁ、今はそんな事気にしてもしょうがねぇな!」

「おうよ! さぁ、飲むぜ飲むぜ〜!」


 しかし、酒場で辛気臭い話を長々とする事は御法度である。

 こう言った話は、もっと真面目な場所でだ。

 さて、丁度酒が来た。臨時で良い収入があったのだ。俺も景気良く飲むとしよう。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ