9話
そして、採寸の日。
さすがは永森家。採寸を家でやるなんて……
そう思っていたけど、
「上流階級のご令嬢にとっては普通よ」
とお義母さまに言われ、そういうものなのかと思ったものだ。
「はじめまして。今回永森様と夕崎様このご結婚式を担当させていただきます、笹浜と申します」
うわ〜、これまた美人さんだ〜!
「早速ですが、ドレスを色々と持って参りました。今カタログをお見せしますので、興味を持ったドレスをトラックから運んで試着するということでよろしいですか?」
あっ、よろしくお願いします。
プロらしくテキパキ動く姿には信頼ができる。
まぁ、私も医師としてプロフェッショナルとして働いているからね。
「あら、これいいわね。これも。持ってきてくださる?」
「かしこまりました」
おおう、張り切ってるなぁ、お義母さま。
息子しかいないから憧れていたらしい。
「どれがいいかしら、笹浜さん」
「僭越ながら、薫お嬢様にはマーメイドラインのものよりプリンセスラインのドレスの方が似合うと思います」
プリンセスラインのドレス……
ふわってスカートが広がるお姫様のようなドレス。
似合うかな?
「薫ちゃんは首が綺麗だから、その良さが強調されるドレスがいいわ」
「かしこまりました」
試着してみました!
首周りがレースで覆われていてとても可愛いな~
「次はこれ!」
エンパイアラインのドレスも着てみました。
綺麗という言葉が似合う大人っぽいドレスだ。
悩むな〜
その後、リアル着せ替え人形のように数十着というドレスを試着した私はヘロヘロになった。
世の中の女性は結婚式のドレス選びでこんなに苦労しているのか……
私は世の中の女性に心の中で賛辞を送った。
(※世の中の女性は料金などの問題により、そんなに試着はしません)
あっこれ可愛い!
でも、露出が多い気もするけど……
「これ、薫さんに似合うな」
隼斗さんはそう思う?可愛いよね!
「では、今とって参ります」
笹浜さん、ありがとうございます。
鏡の前でターン。
どうだろう、似合うかな?
綺麗というよりは可愛い系のドレス。可愛いながらもシンプルだ。
ただ、デコルテや首が見えて少しスースーする。
「あの、もう少しレースで隠れているものとか…」
ウエディングドレスの中でも露出が多い部類に入るドレスではないだろうか。
少し恥ずかしい。
そう思って、笹浜さんやお義母さま、隼斗さんの方を見る。
「いえ、とってもお似合いです!」
笹浜さんにそう強調された。
似合ってるのならいいけど……
「薫ちゃん。これでいきましょう!」
センスの良いお義母さまが太鼓判を押されたのなら、これでいい気がする。
でもやっぱり、
「ろ、露出が多くないですか!?」
だんだん恥ずかしくなってきた!
隼斗さんに見られると特に!
助けてください!と彼の方を見るけど、
「薫さん。そのドレスは少し露出度が多い気もするけど似合うし、良いと思う。可愛い」
隼斗さんの可愛いという言葉に照れてしまう。
未だに可愛いという言葉に慣れないのだ。
「あの子の脳内辞書に『可愛い』って言葉があったことに驚きだわ」
お義母さまがだいぶ驚いている。
まさか、隼斗さん女嫌いって言っていたとはいえ、女性に『可愛い』って言ったことがないの?
「あっ、じゃあこれで」
私は結局、単純なのだ。
隼斗さんに『可愛い』と言われたから、それに決めるなんて。
「分かりました!ありがとうございます!」
笹浜さん、テンションがだんだん高くなってません?私は疲れましたよ。
「ドレスが決まったので、次は小物類ですが」
決めることが多くて大変だなぁ。
少しゲンナリしてしまった。
「ウエディングシューズはどうされますか?」
あー、あんまりヒールが高いのは嫌だなぁ。
「ヒールが低めな靴はこちらです」
うわー!いっぱいあるんだなぁ。
「これ、可愛らしいわね」
お義母さまが選んだ靴はレースがたくさんある可愛らしい靴だ。
うん、良いと思う!
「さすが母さん。薫さんに良く似合うと思う」
隼斗さんも似合うと言ってくれるのなら、これで決まりでしょう!
「次にネックレスですが……」
その言葉にお義母さまがああと頷く。
「正晴さんから聞いているわ。郁子さんが結婚式の時に付けたネックレスにするのよね」
「ええ、夕崎様からそう聞いております。ちなみに、ウエディングヴェールもお母様のをお使いになると」
へぇ~、母さんのネックレスとヴェールを使えるのか!
母さんと一緒に結婚式に出れるようで、とても嬉しい。
「では、次は会場のレイアウトについてですが……」
会場のレイアウト?どんな感じが良いんだろう?
「こういった感じでしょうか」
笹浜さんがカタログを見せてくれる。
分かりやすくて良いよね、それ。
「そうね。お花は白薔薇で、それを基調に上品で少し可愛らしさも兼ね備えた感じが良いわ」
お義母さま、手慣れてらっしゃる。
「かしこまりました。
そのような感じですと、このような雰囲気の結婚式ということでよろしいですか?」
笹浜さんが見せてくれたのは過去の結婚式の例だ。
「ああ、こんな感じで。
ただ、あまり可愛くしすぎないようにしてほしい」
隼斗さんがそう言う。確かに可愛らしくしすぎるのは良くないよね。
「かしこまりました。
新婦さまが持つブーケは雰囲気に合うように白薔薇を多く用いたブーケにいたしますか?」
笹浜さん、センスいい!さすが!
「では、ボードはお作りしますか?」
ボードとは?
首をかしげてしまう。
聞いたことがないな。
「一般的にウェルカムボードとも呼ばれますね。
会場の前に飾られるものです」
ああ、前に友人の結婚式に出たときに見たなぁ。
「ご自分たちでお作りになられるか、ご友人や専門の業者に頼むこともできますが」
ええー!自分達で作りたいなぁ。
「自分達で作りましょう」
おお、隼斗さん即決!
「どういうのが良いかしらね」
「一般的にはこういった、新郎新婦がドレスやタキシードを着て前撮りした写真を貼り、周りに飾り付けを行う場合が多いです」
笹浜さんが過去の結婚式のウェルカムボードの例を見せてくれる。
あー、こんな感じだよね。
「ですが写真がない場合もございます。上流階級での結婚式の場合、ほとんどが写真がないボードになっております」
写真がない方が上品だもんね。
「写真無しでいきましょう。カタログを見せてください」
確かに、少し恥ずかしいもんな…
「あら、これいいわね」
やっぱりお義母さまはセンスが良いですね!
お義母さまが指指したのは夜景をバックに新郎新婦の影のシルエットが浮かぶ美しいボードだった。
「写真は私達がご用意いたします。お二人は周りの飾り付けを行ってください」
はーい、頑張ろう。
こうやって悩みながら、だんだんと時間が過ぎていった。
それでも、自分の結婚式のことだから時に悩みながらも楽しく決めていった。
結婚式は女の子の夢ですよね。
薫は『幻の百合姫』と呼ばれているので、お姫様のようなドレスであるプリンセスラインのウエディングドレスを選びました。他に薫にはどんなドレスが似合うか考えると楽しいものですね。