5話
この話では薫のトラウマのことが出てくるので苦手な方はご注意ください。
side隼斗 ※続き
中学生二年生のときに兄が友人を連れてきた。
その人こそ、俺の初恋の人である夕崎薫さんのお兄さんにあたる夕崎律さんだった。
「悠斗の弟か、よろしくな」
そんなことを言われて、彼女と再会するために律先輩とよく会った。
そして律先輩と同じ高校そして同じ部活の先輩後輩となり、信用されるように頑張った。
そこで、俺の代のサッカー部は全国大会に出場することになったのだ。
これもある意味彼女のおかげだなと彼女に感謝したものだ。
そして20代も後半になった時に律先輩と再会した。
薫さんのことが気になり、そういえばと思い出した感じで先輩に聞いた。
最初から彼女のことを聞いたら怪訝そうにされると思ったからだ。
彼女は医師になり仕事が忙しく、男っ気がないらしい。
先輩、グッジョブ!
相談された俺はつい、
「俺もいつかは結婚しなくちゃならないんですよね。律先輩の妹さんなら信用できるし、見合いをしましょうか?」
と言ってしまった。
言ったあとで恥ずかしくなってしまったが、律先輩だけでなく、夕崎社長もOKしてくれた。
そして、うちの両親もやっと結婚を考えた俺に『一番の懸念事項がなくなった』と薫さんに感謝したものだ。
そして、お見合い当日。
具合の悪い男性を助ける彼女の姿が見えた。
彼女が医師だとしても、その男性は財政界に幅広い権力を持つ有名人だったから助けることに躊躇してもおかしくはなかった。
だが、彼女はそんなことを気にせず病院まで付き添ったという。
あの偏屈爺さんがべた褒めしていたらしく、少し噂になったがもちろん俺が握り潰した。
彼女の良さは俺だけが知っていればいい!
俺は長らく彼女と会っていなかったせいで少しヤンデレ化しているらしい。
そして、薫さんと再会した。
大人になった彼女は、助けてくれたあの時から大人の色気を足して大人っぽくなった美女に成長していた。
しかも、可愛らしさも兼ね備えている。
その可愛らしい笑みを見せてくれるのが俺であることがとても嬉しく、そして誇らしい。
「今度はいつ会いましょう?」
見合いが終わり、そう彼女に尋ねる。
結婚のみならず、恋愛に興味のないらしい彼女には悪いが見合いは進めさせてもらう。
「へっ?お付き合いはないはずでは」
ポカンとする彼女の表情はどこか子供っぽく、あの時を彷彿とさせる。
あの時と本当に変わらない、そう思った。
「隼斗、律の妹さんとお付き合いをしたそうだね」
そう言ったのは、俺の兄である永森悠斗だった。
女性嫌いで社交界ではある意味忌避されている俺にも、優しい好青年である。
そして、現在父親の議員秘書を務めている。
「ああ、兄さん」
「そうか、お前ももう結婚するのか。楽しみだな」
兄さんが嬉しそうに言う。
「女嫌いのお前でも結婚できて良かった。
結婚だけが幸せの全てではないが人を愛するというのは良いものだぞ」
幼い頃からの婚約者を溺愛している兄さんが言うと説得力があるな。
好青年といった風体のため騙されやすいが、いつも冷静で怒ると冷徹に相手を追い詰める人だ。
人を見る目がある兄が認めたのなら、彼女との結婚も上手くいくだろう。
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side薫
さあ、今日は隼斗さんの家でお家デート!
初めて行くんだよね。
どういうところかな……
「薫さん、緊張していますか?」
車内で隼斗さんが気遣ってくれる。
ありがたい。
こういう風に気遣ってくれる男の人ははっきり言って珍しいんじゃないかな。
上流階級の男性といえば女性に対して威張るというイメージが強いけど、彼はそうじゃないことに私は安堵した。
「親戚以外の異性の家に行ったことがないんですよ。
一人暮らしの男性のお家は特に行ったことが無いのでとても緊張しています」
まぁ、私は女子校育ちだからね。男女交際には縁がないもので。
「そうですか」
隼斗さん、何でそんなに嬉しそうなんですか?
「さあ、ここが私の家です」
「へっ?」
驚いて声をあげてしまったが無理もない。
大企業の社長の家というのだから高級マンションの最上階に住んでいると思っていた。
しかし、目の前には外国のような洋館があった。
「隼斗さんって高級マンションの最上階とかに住んでそうと思っていました」
「そうですか?僕は建物にこだわりがあるので。
マンションではこだわりが叶わないので一軒家を建てたんですよね」
へぇ~私はあんまりそういうこだわりが無いんだよな……
「なので、この家は僕の好みを凝縮させた感じですね」
家に入ると、アンティーク調の内装が目に入る。
あれは北欧家具だろうか。
隼斗さんの趣味やセンスの良さが分かる。
「紅茶でいいですか?」
「あっ、はい」
えっ、隼斗さんが淹れるの?
「おいしい……」
こんなに美味しく紅茶を淹れることができるのか。
感嘆と、そして緊張が緩和されたのだろう。
ふぅとため息をついた。
「では、何をしましょう?」
あっ、本来の目的を忘れてたわ…
「映画を見たくて持ってきたんです!」
ほらと隼斗さんに見せる。
「これはホラーでは?」
隼斗さんが顔をしかめる。
ホラー、苦手なのかな?
「そういうわけでは……
薫さんはホラー映画がお好きなんですか?」
「いいえ?ホラー映画は父さんと兄さんに禁止されてて、見たことがないんです。
だから興味があって」
そういうと、隼斗さんが驚いた表情を浮かべる。
「なぜ禁止されているんですか?」
さぁ?何でなんだろう?
この時、なぜ父さん達の言いつけを守らなかったのだろうと後悔することになるとは思ってもいなかった。
「キャァァ〜!!!」
映画で、人に襲いかかる幽霊を見て私は悲鳴をあげた。
「薫さん、落ち着いてください。大丈夫ですか?」
「隼斗さん……」
ハァハァと少し過呼吸気味になりながら彼に助けを求める。
「大丈夫ですよ」
そう柔らかく言われたものだから、私は安心して気が緩み、力が抜けてしまった。
「……さん!、……るさん!薫さん!!」
遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。
誰?
誰かは分からないけど、泣かないで……
「薫さん!!」
ハッと目が覚める。
「ここは……」
「私の家です。大分落ち着かれたようで何よりです」
「隼斗さん……ご迷惑をお掛けしてごめんなさい」
あの時、誰かが襲われているところを見た、気がする。
「薫、すまない」
何とそこにいたのは父さんだった。
「薫さんがお倒れになったのでお呼びしたんですよ」
何から何まですみません、隼斗さん。
それでどうしたの、父さん?
「実はな……
変なところで区切ってしまってすみません。
どうぞ温かく見守ってください。