2話
この作品はフィクションなのでコロナが起きていない設定となります。
マスクや入場者の制限などは無いことをご理解ください。
私は夕崎薫。 医師をしている。
唐突だけど、明日は隼斗さんと会う日だ。
なぜかソワソワする。
「あれ夕崎先生、今日何かあるんですか?」
あれっ?そんなにバレバレだったかな?
「別に何もないよ?」
私の同僚である木谷先生はこういうところで聡い。
他の同僚達からもからかわれそうだから、しゃんとしよう!
「薫さん、お迎えに来ました」
父と兄のニヤニヤ顔を見てイラッとするが、今は抑える。
今日は水族館に行く予定。
ちなみに私が選んだのだ。
私の目の前に隼斗さんの車がある。
隼斗さんが運転する車は、いわゆる『The金持ちが乗っているような車』だと感じるな。
外国車だろうか。
私はあまり車に詳しくはないので分からないが。
だが一つ彼にお願いがある。
「あの隼斗さん?我が家まで来られるのはちょっと……」
父と兄にからかわれるから嫌なのだ、絶対に。
「それはすみませんでした。
しかし、どこで待ち合わせするかが問題ですね。
あなたは車の免許を持っていないでしょう?」
なぜ知っているのだろう。
だが確かに私は車の免許を持っていないので、待ち合わせは無理である。
「ならば、父と兄に挨拶をするのはやめていただけますか?からかわれるので」
「そんな無礼なことはできませんよ」
うっ、確かに。我慢するしかないか……
うわー!
「ホッキョクグマだー!」
えっ、超可愛い!
はしゃいでいると、
「ふふっ」
と笑われた。
そこで彼と一緒なことを思い出した。
それに、私のこと馬鹿にしてない?
「なんですか!?」
どうせ子供だなとか思っているんでしょう!?
「いえ、可愛らしいなと思いまして」
「そうでしょう?あの子、すごく可愛い」
ホッキョクグマを指差すと苦笑された。
「確かにホッキョクグマも可愛らしいですが、今私が言っているのは薫さんのことですよ」
「へっ?」
私がかわいい?
そんなこと言われたことがないものだから驚いてしまった。
周りの人達の視線が生暖かい。
うぅ、恥ずかしい。
「あの、恥ずかしいのでやめて……」
「可愛いと言われた事がないんですか?」
不思議そうに言われた。
「兄も父も私のことを『男勝り』としか言いませんし、女子校育ちなので家族と同僚以外に男性と話すことがあまり無いんですよ」
「そうですか。しかし薫さんは可愛らしいですよ」
「あっ、ありがとうございます」
やっぱり恥ずかしい!!
それに、なんか嬉しそうにされたけどどうかしたのだろう?
その後、キリンやぞうなど様々な動物を見た。
久しぶりに動物園に来たものだから、年甲斐もなくはしゃいでしまった。
周りに人がいることを思い出し、少し恥ずかしくなったのはお約束というべきか。
動物園の近くのレストランで食事を取った。
あっ、美味しい!
「薫さんは本当に美味しそうに食べますね」
はしたなかっただろうか。
心配して彼を見ると、
「美味しそうに食べる方と一緒に食事を取るのは楽しいものですね。律先輩も美味しそうに食べる方ですし」
と言われた。
満面の笑みでそう言われたので、マナーについては気にすることでもないのだろう。
「今日は楽しかったですね!」
私は可愛い動物達に癒やされて現在はとてもご機嫌。
「薫さんが楽しそうだったので私も嬉しいです」
にこりと微笑まれた。
隼斗さんっていつも笑っているけど、本当は楽しいのかな?
父と兄のことを忘れて家まで送ってもらって、またからかわれたのは言うまでもない。
「律先輩お久しぶりです」
「おう隼斗、悠斗は元気か?」
「ええ、ピンピンしてますよ」
「そうか、悠斗によろしく伝えておいてくれ。
あと、薫とはうまくやっているようだな。良かった」
「律先輩には感謝しています」
という兄さんと隼斗さんの会話を横目で見ながら父に、
「いやー、やっとお前も人並みに恋したんだな」
とニヤニヤされた。
「では薫さん、またお会いしましょう」
「あっ、はい」
彼が立ち去ったあと、兄さんに言われた。
「ほら、俺のおかげだろう?」
父さんも嬉しそうに
「式はいつがいいかな」
と隼斗さんのお父さんに相談しようとソワソワする。
兄さん、顔が悪代官のようだよ。
父さん、まだ結婚すると決まったわけではありませんからね!?
そう言っているのに、父さんも兄さんも聞く耳を持ってくれない。
もう!
✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣
我が家は母さんが昔に亡くなり、父さんは男手一つで兄さんと私を育ててきた。
特に私は一番子供で唯一の女の子ということもあり、溺愛された。
それはもう過保護なまでに。
私に男っ気がなさすぎるからのお見合いなのだろうが、別に女の幸せは結婚で決まるわけではない。
それに、私は言いたい!!
『女子校育ちなんだから男と接する機会なんてほとんどないわ!』と。
別に男嫌いというわけではない。
同僚の男性や患者さんとも普通に話せる。
強いて言うなら、女子校育ちで周りに男性がいなかったことと、私ではなく夕崎商事の社長令嬢という肩書しか見ていない男性しか寄ってこなかったことによるものだ。
それに、私は男性と同じぐらい稼いでいるので普通の男は恐れをなすらしい。
知らんがな!
その点、隼斗さんは私を夕崎薫として見てくれている。
彼と会うまで私に『可愛い』と言ってくれる人がいなかったことに気がついた。
彼ならば。
医師を続けてもいいと父に言ったらしいし、女のくせにとか女だてらにとかも言わない。
そして必要以上にへりくだったりもしない。
そして、駄目なところはしっかり怒る。
怒られたのはとても久しぶりだと感じる。
彼はいい人だ。
だが、彼と結婚というと少し躊躇ってしまう。
それは彼が私のことをよく知っているのに対して、私は彼のことを知らないからだろうか。
私にとって彼は未だに謎の多い人である。
だからこそ彼をよく知ることが大切なんだな。
そう納得した。
だが、こういうことを相談できるような人は私の周りには少ない。
父さんや兄さんに相談するのもな……
誰に相談しよう?
うーん……
あっ、麻子叔母さまとかかな?
ここで麻子叔母さまの説明をしよう!
佐倉麻子叔母さまは父さんの妹にあたる人だ。
そして忙しい父さんに代わり、私と兄さんの保護者のような存在である。
マナーを始め、色々なことを私や兄さんに教えてくれた。
聡明で美しく、私の憧れの人である。
ちなみに、佐倉家は貿易業で栄えた名家である。
佐倉家も夕崎家もどちらも名家だから政略結婚かと思われがちだが、実は恋愛結婚だ。
だから、麻子叔母さまと旦那さんである佐倉のおじさまはとても仲がいい。
叔母さまなら結婚について様々なアドバイスをくれるだろう。
うん、麻子叔母さまに相談してみよう!
私は一番の懸念事項が無くなって、すっきりした面持ちで睡魔に襲われた。
ヒロインは父子家庭ですが父親や兄、父方の叔母などに愛されすくすくと育っています。
また、ヒロインの兄とヒーローの兄は高校からの親友で、ヒロインの兄はヒロインのことを惚気けまくっています。
世にいうシスコンでヒーローの兄からはドン引かれています。