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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
同時進行は困難ばかり

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9

 方針が決まれば、後は実行するだけである。エルフリートたちは再び彼が拘留されている牢に訪れた。エルフリートが男を厳重に縛り上げる間、ロスヴィータは、どうして拘束するのかを伝える。

 男は精神魔法の効果が続いており、従順で扱いやすかった。


「フリーデ、さすがにそれはやりすぎでは?」

「そんな事ないと思うけど……」


 エルフリートは縛り上げた男を見た。両手首をそれぞれベッドの足に繋ぎ、足首も同じようにした。縄の長さには少しだけ遊びがある。足首に巻かれた縄が手首に届かないような絶妙な長さにする事で、ある程度眠る時の自由を確保したのだ。

 更に、胴体とベッド本体をゆるく巻いておく事で、体が浮かないようにもした。これなら目が覚めても大丈夫。


 全く身動きがとれないように縛り上げる事も可能だが、あまりきつい拘束をすると体に変調をきたす場合があるから、避けたのである。


「拘束が解けないように両手両足を固定しているけど、寝返りくらいはできるようにしてあるよ?」


 結構気遣いのある対応だと思うんだけど。エルフリートが不思議そうにしていると、ロッソが呆れたように言う。


「トイレとか行けないじゃん。寝たきりにさせるのは人道的にどうかと思うんだよ」

「これから寝かせちゃうんだから、トイレは行かないでしょ?」

「いや、でもさぁ……」


 ロッソは同情のまなざしで、ベッドごと蓑虫のようになった彼を見ていた。


「確かに、見た目はちょっと過激だが、フリーデの言う事も一理あるな」

「ロス!?」


 ロッソが裏切られた、とでも言うかのような声で叫ぶ。


「ロッソ、考えてみれば、彼は朝まで眠らされるわけだ。そんな彼が目覚めるとしたらトイレにいきたいからではなく、魔法の効果が切れて逃げ出そうとしているからだ」

「む。むぅ……」


 ロスヴィータが味方になってくれて良かった。


「見た目は確かに異常だが、人道的な方かと思うぞ」

「異常ってひどい」

「いや、異常だろ。なんでベッドと本人をハムみたいに巻いているんだよ!」


 ハムみたい、と言われてみると、そんな気がしてくる。エルフリートは元蓑虫のハムを見つめた。


「確かに、ちょっと不思議かも。食べられないものが食べ物みたいに見えるね。でも、ハムにするならちゃんときつく巻かないと型くずれしちゃうよ」

「そうじゃない!」


 ロッソが壊れた。

 きぃーと変な声を上げて牢から出て行く。ハムを作るのであれば、しっかりと紐を巻かないとだらしない形になってしまう。

 ただ、その事実を口にしただけなのに、大げさな反応を示して出て行ってしまった。

 足音を立てながら去るロッソの背中を見つめながら、エルフリートは小さく息を吐くのだった。


「で、フリーデ。ロッソを追い出す理由は?」

「何もないし、そのつもりもなかったよ」

「……」


 ロスヴィータの視線が心なしか冷たく感じるのは気のせいではない。エルフリートは表情をこわばらせる。


「フリーデ、一般的な人間と感覚が違うのは妖精さんみたいで素敵だが、人間の世界で生きている事を忘れないようにしてくれ、頼む」

「うん、ごめん」


 どうやらやりすぎだという事らしい。発言の加減について、さじ加減が難しいな、とエルフリートは心の中でぼやいた。


「フリーデ、これで大丈夫なのか」

「うん。よほどの事がなければ朝までぐっすり!」


 エルフリートはぐっと拳を握った。途端、ぐにゃりと視界が歪む。咄嗟に目を閉じ、両足で床を踏みしめる。そういえば、ここに向かう途中でもなったような気がする。


「フリーデ?」


 ロスヴィータの怪訝そうな声が耳元でし、エルフリートは目を開けた。エルフリートはロスヴィータに支えられていた。倒れないように足に力を込めたはずだったが、どうやらそれはうまくいかなかったようだ。

 めまいのようなものはさっきの一瞬だけで、今は感じられない。


「大丈夫、多分……」


 魔法を使いすぎた、というほどは使っていない。調整の難しい精神魔法を使っていたが、体に変調をきたすほどでもない。どうしたんだろう。


「フリーデ、顔が真っ白だ」


 ロスヴィータに指摘されるも、自分では分からない。

 とにかくまずは自力で立つところからだ。ゆっくりとロスヴィータから体を離す。足にうまく力が入れられないのか、ゆらりと揺れてしまうが、立つ事はできた。


「ここにいても仕方ないから戻ろ」

「肩を貸そう」


 ロスヴィータの提案は嬉しいが、エルフリートの中の小さなプライドが邪魔をする。

 たったのこれだけの仕事量で弱々しい姿を見せるなど、カルケレニクスで鍛えられ、騎士団の中でも指折りの魔法騎士であるという自信が邪魔をしたのだ。

 要らぬプライドが引き起こすのは、ただの迷惑である。それはエルフリートを含め誰もが知っている事であったのだが。


「少しふらついただけだから」

「だが」


 ロスヴィータの制止を無視し、エルフリートは先に動き出す。一歩ずつ普段と違って慎重に足を繰り出している時点で、自分の状態を認識すべきだった。


「本当に、今は――あれっ?」


 後ろからの彼女の圧に耐えきれず、振り返りながら大丈夫だと言おうとしたエルフリートは、膝からかくんと崩れ落ちた。

2024.12.25 一部加筆修正

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