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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
全て収まり来期へ臨む

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5

 結婚かぁ。エルフリートはマロリーのはにかんだ笑みを思い出し、小さく口をゆるめ――しかし自分たちの事を思い出して眉尻を下げた。

 ロスヴィータの寛容さには、いつも頭が下がる。彼女と女友達として、親友としての振る舞いを理由に結婚の事を考えないようにしていたのに、それでも構わないと言う。


「……結婚は、憧れるけどねぇ」


 はぁ、と溜め息が漏れる。ベッドに仰向けに倒れ込んだエルフリートの顔面に、吐き出した溜め息が落ちてくる。エルフリートは降ってきた憂鬱を受け止めて目を閉じた。

 どうにも自分は極端なのだ。気持ちを自覚してから、過保護になりすぎてロスヴィータに怒られてみたりもしたし、逆に最近のように表へ出せと言われてしまったり。

 バランスよく、過ごせるようになりたい。

 しかし、である。ロスヴィータへ向ける視線が変わってしまったらどうしようか、という不安があった。

 きっとロスヴィータは気にしない。問題は周囲である。エルフリーデが別人だと気付く人間が現れるかもしれない。それだけが心配だった。


「フリーデ、まだ起きているか?」

「……! 起きてるっ」


 がばりと起き上がり、慌てて寝室を出る。扉を開けば、まだ制服姿のロスヴィータがいた。そろそろ横になる時間だというのに、彼女はまだ寝支度すらしていないらしい。


「あれっ? 着替えてないの?」

「そういうあなたは、既に寝る姿ではないか……」


 ロング丈のナイトドレスを身にまとっている自分の姿を確認し、エルフリートは視線を逸らした。


「その姿で廊下に出てはいけないよ。中に入っても良いか?」

「……良いけど」


 日中に結婚の話をしていた相手と夜に会うのはなんだか気まずい。しかも自分はこんな格好(少女趣味丸出し)だ。もちろん、念には念をと寝る時ですらエルフリーデとしての姿を手放さないようにしているからだけど、それでも。

 エルフリートはそんな事を考えつつも、彼女を部屋の中へ案内する。

 とりあえず温かい飲み物を、と背を向ければロスヴィータは「そう時間はかからないから必要ない」と断ってきた。

 着地点を見失ったような心許ない気分になりながら、彼女の向かい側に座る。


「日中の件の延長みたいなものなんだが……」

「うん」

「私たちは私たちだ。だから、何も気にする事はない。それだけが言いたくてな」


 ロスヴィータの曇りない目がまっすぐにエルフリートを射抜く。ロスヴィータは不思議な人だ。エルフリートが全ての気持ちを吐露しているわけでもないのに、そっと拾い上げてくる。

 エルフリートがこじらせてしまった憧れや、女装して成り代わっている弊害など、それら全てを受け入れて将来の事を考えてくれている。


「ロス」

「どうした?」

「ずっと一緒にいてね」

「四六時中は難しいな」


 笑い混じりに言ってくる。普段はあまり冗談を言わないくせに、ずるい。エルフリートはテーブルに突っ伏した。


「……もう! 分かってるくせにぃ……でも、そういうところも好き」

「知ってるよ」


 朗らかに言い放つ彼女の声色は、ずいぶんと楽しそうだ。


「私は、こういう時間も楽しみたいんだ。だから、我々のスピードで、我々らしくいこう」

「そうだね……」


 エルフリートがそっと顔を上げれば、ロスヴィータの微笑みが待っていた。エルフリートだけの王子様。それも、いずれは妻になってくれるのだという。

 夢のような話で、しかし揺るぎない事実であった。


「ロス、言っておくけれど、()()()は普通の結婚式をするよ」

「私がドレスを着るのだろう?」


 鷹揚に頷く彼女に、エルフリートも頷き返す。前にドレスアップしてもらった時、ちゃんと似合っていた。選び方さえ間違えなければ、ロスヴィータにも似合うドレスはあるのだと証明できている。

 “ドレスが似合わない”というのがロスヴィータの異性装の始まりである。だから、似合えば彼女はなんの抵抗もなくドレスを身につけられるという事なのだろうが、異性装に慣れすぎると元の衣類が窮屈に思えてくるもの――少なくともエルフリートはそうだ――だ。

 ドレスの着用を簡単に同意してくれるのは、とてもありがたかった。


「でもね、妖精と王子様の姿でも結婚式をしたいなって、思ってるんだけど……どうかな?」

「構わないよ。私もあなたの晴れ姿が見たいからな。きっと似合うだろう」

「……良いのかい?」

「もちろんだ。そうだな、ドレスは私に選ばせてくれるか? とびっきりの、特別なドレスをプレゼントしたい」


 ロスヴィータは、どこまでもロスヴィータだった。


「良いのかい?」

「確認しすぎだぞ。私に“王子様”をさせてくれないか?」


 しつこい、と言外に言われてしまい、エルフリートは苦笑した。確かにその通りだ。ロスヴィータ本人がすると言っているのだから、言葉通りに受け止めれば良い。


「……嬉しくって、本当にこんな、夢みたいだから」

「現実にする為に、今話をしているんだよ。妖精さん」


 ロスヴィータはそう言って笑う。エルフリートが彼女の笑顔に見とれていると、更に彼女の口もとが歪んだ。

 ちょっと悪い顔してるけど、かっこいい。そう考えてにやにやとし始めたエルフリートに、ちょっと悪い王子様がキスを落とすのだった。

2025.8.9 一部加筆修正

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