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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
全て収まり来期へ臨む

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1

 エルフリートとロスヴィータは騎士団総長と副総長に呼び出されていた。総長の執務室に、二人は並び立っていた。騎士学校の件、カールスの件、そしてカールスに巻き込まれたカトレアの件と呼び出された内容の幅が広いせいか、騎士学校の件以外で深く関わっていたはずのブライスとアイマルの姿はない。


「……呼び出した理由は、連絡した通りだ」


 騎士団総長は重々しい雰囲気で口を開く。彼の表情も暗く、決して楽しい話ではないだろうと分かる。


「その中でも面白くない話題からいこう。カールスの件からだ」


 そうして始まったヘンドリクスの話は、確かに面白くないものだった。

 カールスの行動はアルフレッドの父親からの指示だった。計画と実行はカールスであるが、それはアルフレッドの父親であるオースティンが事前に指示していたものが原因だったのだ。

 オースティンは、アルフレッドが王位継承権を持つ人間としてそぐわない行動を取った時、対処するようにと指示していた。

 だが、カールスはアルフレッドの暴走を阻止できず、最終手段である()()すら実行できなかった、というわけである。


 王位継承権を持つ人間の周辺を守る立場の人間として、そういった事を考えるのは当然だ。だが、彼らは残酷で無責任な行動を取った。それは、決して許されることではない。

 もっと早く行動を起こせていたはずだ。ロスヴィータを誘拐して逮捕された時点で、処断できたはずだった。そうすれば、アララット山の件やカッタヒルダ山の件、そしてガラナイツ国との戦争、全て起きずに済んだのだから。そうロスヴィータは思ってしまう。

 とはいえ、国王が下した刑に加えて自分の子供に制裁を、と考える親は少ないだろう。それに、アルフレッドが暴走しないように制御する努力はしてほしかったというのは誰もが考える事であるが、それ以上を求めてしまうのはロスヴィータがあの出来事に関する責任から逃げたいだけなのかもしれなかった。


「本件をもって、かの一族は廃嫡、領地は返還。彼らは陛下の温情で与えられる地にて残りの時間を過ごす事となる」

「……そうですか」


 ロスヴィータが目を伏せると、エルフリートが肩に手を添えた。その手に己の手を重ね、とん、と優しく撫でる。


「アルフレッドとカールスはどうなりますか?」

「彼らは実行した罪がある。アルフレッドの罪状は変わらない。カールスは、最初に求刑されていたものより軽くなる」

「――という事は」


 ロスヴィータは嫌な予感に、頬の筋肉が引きつるのを感じた。


「宣誓をした上での騎士団奉仕活動になるな」


 ――騎士団奉仕活動。

 それは“あらゆる裏切り行為をすれば極刑”とする刑の一つである。これは、一定以上の能力のある人間に特別に設けられる刑だ。使わずに置いておくのはもったいない人間に与えられる事も多い。

 今回は、カールスの計算高さなどを考慮したのだろう。確かに、諜報活動や扇動などをしたい場合に使えそうな人材ではある。だが、長期間に渡って騎士団を引っ掻き回した人間でもある。感情の面で引っかかりがあるのは当然だった。


「……あなた方は、彼を部下にする事に対して不安などはないのですか?」

「ないな。あれは、任務には忠実な男だ。契約さえしっかりすれば、問題ない。それは精神魔法を使っても確かめている」


 ヘンドリクスはいたって冷静に、そして淡々と解説してくれた。それにしても精神魔法まで使うとは、かなりの徹底ぶりだ。


「総長が仰るならそうなのでしょう。私に異論はありません」

「そうか」

「ボールドウィン副団長はどうだ?」

「私は、マディソン団長が納得するのであれば従うまでです」

「……そうか」


 エルフリートの方を意味深に見たヘンドリクスは、しかし彼に向けて何かを言う事はなかった。


「では、次の話題だ。カールスの計画に巻き込まれたカトレア嬢たちの話だ」


 こちらは、最初の話題に比べたら遥かに好ましい報告だった。カトレア嬢とシップリーは、観察処分になった。だが、御前試合での脅迫行為や爆発物の持ち込みに関しては奉仕活動と情報提供の処分が成されるとの事だった。

 けが人がいなかったからこその処分である。奉仕活動とは、今度こそ(・・・・)その名の通りである。教会への寄付及び教会での演劇の上演だ。元々孤児であった彼女たちは喜んでこの活動を受け入れたそうだ。


 そして情報提供の方は、爆発物の製造に関する情報提供である。

 これはシップリーの裏の繋がりを告白するという意味である。仲間を裏切る行為になりかねない、と最初シップリーは渋っていたそうだ。だが、これは摘発ではなく勧誘であると言われ、了承したのだという。

 騎士団はまだまだ発展できる。だからこそ、ヘンドリクスはこの提案をしたのだそうだ。


「そこで、まあ次の話と少し繋がるのだが。シップリーのツテを騎士学校に入学させる」

「本気で取り込むつもりですか」

「そういう事だ」


 どうやら来年も忙しくなりそうだ。ロスヴィータは心の中でそう呟いた。


「では、最後は楽しい話題といこう」


 ヘンドリクスがそう言うと、姿勢を崩した。本当にそういう話らしい。ロスヴィータの緊張も少しだがゆるむ。


「騎士学校の発表会。大盛況だったな。評判も上々だ。この調子で来期も頑張ってもらいたい。以上だ」

「えっ?」


 ロスヴィータが驚きの声をあげれば、彼はきゅっと口角を上げて笑んだ。それはロスヴィータたちが初めて見る、ヘンドリクスのお茶目な一面であった。

2025.7.12 一部加筆修正

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