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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
ひと段落したうららかな休日

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3

「そういえば、ロスは魔法具もあまりよく分かってないよね」

 エルフリートの指摘に、ロスヴィータは申し訳なさそうに眉尻を下げる。


「そうなんだ。魔法が使えないから、とにかく剣技だけを磨いたというわけだ。いや、もちろん戦術なども勉強したが、魔法士と魔法具で分けて考えるものではないだろう? そうすると、気がついた頃には知識に偏りができてしまった」

「なるほどね」


 エルフリートは軽く頷いた。彼女は、エルフリートが作った“W”を口に入れる。エルフリートが勉強相手になっても良いが、適任がいる。

 もぐもぐと動く頬を観察しながら、提案をした。


「ロス、時々ルッカのところに行ってお勉強してきたらどうかな。彼女の様子も確認できるし、一石二鳥だよ」

「……それは、良いな。さっそく今度頼んでみよう。で、話は戻るが――」


 ロスヴィータは、炎の鳥の生み出し方などに興味津々だ。きっと、本当はあのグループの成長を見たかったのだろう。エルフリートは、彼女の望みを叶えるべく、草原に幻惑魔法による劇場を作りあげるのだった。

 エルフリートが作った劇を、ロスヴィータは目を輝かせて楽しむ。見せ場がある度、彼女はぱちぱちと拍手を送る。


「こんな感じでね、メアリーが炎の鳥を生み出した時にはみんなの目が点になったんだ」

「それはそうだろう」


 エルフリートがメアリーの絵を拡大してみせると、ロスヴィータは大きく頷いた。メアリーの絵は独特だ。おそらく、ロスヴィータの事を見て女性だと気付かない人がほとんどであるのと同じく、メアリーの絵に描かれた内容を正確に理解する人はほとんどいないだろう。

 こんがらかった毛糸玉のようなものが、複数描かれているように見える。そしてその毛糸玉に二本の棘が生えていて、それが翼だと言われた。つまり、これが鳥なのである。因みに、鳥ではない似たような塊は太陽と炎と森だそうだ。


「でも、どこが鳥なのか分かるようになったよ」


 エルフリートはちよっとだけ自慢げに言った。が、ロスヴィータからは思ったのとは違う反応が返ってきた。


「そのコツ、教えてくれないか?」


 瞬きを数回繰り返したエルフリートはロスヴィータに芸術の見分け方を語りつつ、メアリーの絵の解説をする。


「この、大きな塊が鳥なんだ」

「大きな塊はいっぱいあるぞ?」


 彼女に指摘され、エルフリートは確かにその通りだと気付いてしまった。だが、慣れればどれが鳥で、どれがそうではないのかロスヴィータにも分かるようになってくるだろう。


「……いや、これは難しいな」

「もう少し頑張ろうよ!」

「暗号として、使えそうな気がしたんだが……諦めるよ。これを周囲に理解させるのが難しすぎる」


 そういう事か。エルフリートは納得した。興味を持ったからどういう事かと思えば、騎士としての活用方法を考えていたようだ。仕事人間すぎるが、ロスヴィータらしくて良い。

 エルフリートは小さく笑みを作り、ゆっくりと頷いた。


「確かに、そういう運用を考えてるなら諦めた方が良いと思う」

「残念だ」

「お出かけ中なんだから、難しい事はあとにしよう?」


 エルフリートがそう言ってロスヴィータが作ってくれたクルートをつまむ。ロスヴィータは「つい、すまん」と言いながら苦笑した。

 真面目で、真っ直ぐで、前向きな少女。王子様みたいだと憧れていた彼女は、王子様を地で行く人だった。


「まあ、そんなロスが好きなんだけどね」

「とんだ物好きだ」


 くすぐったそうに笑うロスヴィータに、エルフリートはおどけてみせる。


「女装する男と婚約しておいて、それは酷いよ」

「ははは、お互い様だな」


 二人で笑いながら過ごす穏やかな時間。それはきっと遠い未来にたくさん作れるだろう。




 食事を取り、のんびりと過ごした二人は再び馬上の人となった。速度はない。景色を、そしてこの郊外の空気を味わうように、草葉を踏みしめ、馬を歩かせた。


「私は、あとどれくらいフリーデでいられると思う?」

「……どうだろうな」


 ロスヴィータが長身とはいえ、エルフリートはそこから更に背が高くなりそうだった。妹のエルフリーデは、頑張って身長を伸ばしているようだが、それもロスヴィータと同じくらいで止まりそうな気配である。

 あまりにも見た目が違ってしまうと、入れ替わりを続けていられなくなってしまう。エルフリートがエルフリーデとして生活できる限界が、そろそろ近付いてきていた。


「幻惑の魔法でどうにかしても良いんだけど、限界はあるからね」

「いつまでも、隣にいてもらう事は難しい……か」

「うん」


 本当はずっと、ロスヴィータの隣にいたい。けれども、性別の壁は越えられないのだ。


「あと、一年くらいかなぁ……」

「成長具合によっては、あと二年はいけるだろう?」

「そうかな?」

「いけるさ。あなたはかわいらしいから」


 ロスヴィータが笑う。男としてはどうかと思うけど、でも妖精のようになりたい自分にしてみれば褒め言葉だった。


「じゃあ、ロスも王子様がんばってよ。男装の麗人(おうじさま)の隣に立つのが女装男だとは、誰も思わないかも」

「がんばって良いのか?」


 彼女に流し目をされ、エルフリートの目が泳いだ。ロスヴィータの王子様然としたかっこよさには、毎回のように負けている。

 これ以上、王子様のようになられてしまったら、エルフリートの生活に支障が出そうだ。


「あ、ええと……ほどほどが、良いかも……私が倒れそう」


 エルフリートがそう言うと、ロスヴィータはおかしそうに笑うのだった。

2025.7.6 一部加筆修正

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