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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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 ロスヴィータが四人を率いてエルフリートのところへ戻ってくると、彼は移動していた。使う機会のほどんどない耳飾りの魔法具を使えば「中庭にいるよぉ」と返事が来る。


「中庭にいると思う」


 ロスヴィータは生徒たちに向けてそれだけを口にして中庭へ向かう。向かった先には、人寄せになっている彼がいた。


「今日は騎士の卵ちゃんたちの発表会だから、私の魔法が見たいって言われても困っちゃうなぁ」

「フリーデ」

「あっ、ロス」

「暇ならこのグループの相手をしてくれないか?」

「何するの?」


 ロスヴィータの()()にエルフリートがことりと首を傾げた。


「そのまま、立っていてくれるだけで良い」

「ふぅん? いいよぉ」

 エルフリートの許可が下りたところで、四人は彼を囲んだ。

「なになに? わくわくしちゃう」

 エルフリートが作った人だかりに、ロスヴィータと四人が加わった。


「よろしくお願いします」


 アンドリューが礼儀正しく頭を下げる。彼に続き、三人――ニコールとユディト、セダムも頭を下げた。四人は、ロスヴィータに披露した時の剣舞に似た動きをし始めた。

 違うのは、テーブルがなく、エルフリートが中心に立っているという事だ。エルフリートは身構える事もなくリラックスした様子で、彼らの動きを見ている。


 四人が一斉に剣を抜いた瞬間、周囲の人々が小さく息を飲む。内心でしめしめ、と思いながらロスヴィータは剣舞を楽しむ。彼を突き刺すつもりかという勢いで、剣先がエルフリートの首すれすれを通っていく。

 エルフリートは微動だにしない。だが、その表情は楽しそうなのが見て分かるほどに笑顔だ。きっと動いて彼らを混乱させてみたくなって、いたずら心と戦っているのだろう。


 これが女性騎士団員やブライスやアイマルなどであったら、セルフリートは動いて彼らを驚かせていただろう。だが、アンドリューたちはまだそこまでイレギュラーに慣れていないはずだ。そもそも経験値が違う。

 エルフリートがいたずらしたら、いろいろと台無しになってしまうに決まっている。

 我慢するのが最善だな。ロスヴィータはうずうずしているだろうエルフリートに、もう少しの我慢だとエールを送るのだった。

 剣舞は相変わらずすばらしかった。テーブルを相手にしたパフォーマンスを、エルフリートにおこなっている。この事は、ロスヴィータを大いに感心させた。


 人間の体すれすれまで剣を近付ける。これはかなり緊張する行為だ。力加減を少しでも間違えれば人を傷つけてしまう。

 そんな危険がすぐそばにあるのだ。絶対に失敗はできない。かといって変に緊張してしまえば、その分失敗しかねない。四人は四人とも、堂々と、臆することなくエルフリートに向けて剣を向けている。

 傷一つつかなかったテーブルを見た時もすごいと思ったが、今の方がもっとすごいと感心するのだった。


「いやあ、すごいねー」


 四人の剣舞が終わると、大歓声が中庭に響いた。その騒ぎに気付いた建物内の人々が窓からのぞき込み始める。思ったよりも、人が集まるかもしれない。そんな予感がした。


 案の定、四人の剣舞を発表する大広間は、彼らの発表時間直前になり、一気に観客の人数が増えた。それもこれも、中庭でのデモンストレーションのおかげである。

 ざわざわと人々が雑談している中に四人が登場すると、話声がぴたりとやんだ。静寂の中、今日の為に呼んだらしい楽団が音楽を奏で始める。


 アンドリューが動いた。次にユディト、ニコール、セダムと続く。彼らは微妙にタイミングをずらして同じ動作をしている。やはりひとつの生き物のようだ。ロスヴィータは彼らの演技を初めてみた時と同じ感想を抱く。

 計算され尽くした動き。なめらかで、止めと跳ねのしっかりした筆跡のような剣捌き。自分の肉体の動かし方を知っている者にしかできない身のこなしだ。


 背中が内側になるよう、四人が立った。これからメインが始まるのだろう。ドン、と打楽器が低音を鳴らした。それからの動きは、正に圧巻だった。

 互いの姿が見えていないというのに、動きがしっかりと合っている。剣を振る速度、角度、くるりと回転するタイミング、すべてが同じだ。音楽が目安になるとはいえ、簡単にできる事ではない。


 いったいどれほどの練習を重ねたのだろうか。ロスヴィータは息の合った彼らの演技に、時間を忘れた。弦楽器の流れるようなメロディラインが細かく刻まれ、はやし立てるような曲調に変わっていき、クライマックスの接近を暗示させる。

 四人の振り付けは同じだが、内側へ剣先を向ける演技が加わった。それぞれの剣先が、対になる人間の頭のすぐ横を突く。互いを信じていなければ、こんな振り付けはできないだろう。

 彼らが「内側への突き」をする度、観客が息を飲む音が聞こえる。それは、首やわきの下であったり、位置を変えて繰り返される。ロスヴィータでさえ、固唾をのんでクライマックスであろうその演技を見守った。


「すごすぎたよ。このグループ、剣技に関しては教える事ないんじゃないかな」


 演技終了後、去っていく四人を見ながらエルフリートが呟く。


「あれだけの技術を見せられてはな。だが、実際の戦闘とは違うから、授業をパスさせるのは時期尚早というものだ」


 ロスヴィータの言葉に「それもそうだね」と彼は小さく頷いた。

2025.6.14 一部加筆修正

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