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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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 そうこうしている内に、時間になってしまった。締まらないな、とロスヴィータは思いつつも五人を送り出す。


「お二人のお陰で緊張がほぐれました。ありがとうございます」

「そうか?」

「えへへ、よかったー」


 大勢の前に立った瞬間、きっとそのほぐれた気分はすぐに霧散することだろうが、それでも嬉しい言葉だ。ロスヴィータは彼らの背中にエールを送った。


 イアン、リース、メアリーの発表は圧巻だった。剣士なのだから、と魔法が使えない残りの二人は炎の鳥を曲芸させる為に工夫を凝らした。止まり木と同じ素材で剣や輪を用意した。

 最初は止まり木に、徐々に曲芸へ。炎の鳥の出現で盛り上がりを見せていたが、曲芸が始まると「いったい何の騒ぎだ」と言いながら人が集まってくるほどの熱狂ぶりだった。

 曲芸を魔獣に覚えさせたサーカス団がいたな、と炎の鳥がリオーダンが頭上に掲げた輪の中をくぐる姿を見て思い出す。いや、あれは退役騎士が魔獣使いとして自分が手懐けた魔獣ごと入団したのだったか。


 イアンの作り出した炎の鳥がチェザレのすぐそばを飛び回っている。じわじわと焼けるような暑さだろうに、彼はどうという事もないという風に涼しい顔をしていた。

 メアリーは細やかな操作はさておき、いくつもの絵から同時に何羽もの鳥を生み出して歓声をもらっていた。ときおり「あれがどうして鳥になるのか分からない」という声もちらほら聞こえている。ロスヴィータはこっそりと同意するのだった。


「素敵だったぁー!」

 終了一番、エルフリートは五人に駆け寄った。

「ありがとうございます」

「おかげさまで大盛況でした」


 彼らはもう、あの部屋に入ろうとした時のように人を燃やしそうになる事はないだろう。


「これからもがんばってねぇ」

「はいっ」


 短期間ではあるものの、彼らをつきっきりで指導したエルフリートの言葉に、全員が尊敬のまなざしで頷くのだった。




「フリーデ、少し寄り道しても良いか?」

「うん、良いよ」

「助かる」


 エルフリートはロスヴィータの声かけに二つ返事で頷いた。熱狂冷めやらん、といった状態の会場では次の発表が始まろうとしている。この状態ではやりにくいだろうな、とは思うが順番は運だ。こればかりは諦めるか受け入れて気分を切り替えてやるしかない。

 この状況で、後続がどのような態度で発表するのかは気になるものの、ロスヴィータには他に見たい発表があった。


「気になる発表でもあるの?」

「その通りだ」


 ロスヴィータは会場に背を向け歩き出す。エルフリートは遅れずついてくる。


「おもしろいグループがいてな……剣を私に向けながら剣舞を仕掛けてきたのだ。圧巻だったが、武芸のたしなみがない人間相手には刺激が強すぎるから却下した」

「へぇ……すごいねー」


 エルフリートは剣舞かぁ、と小さく呟く彼は、まだ見ぬ発表を思い浮かべているようだ。

 ロスヴィータは修正する予定の発表内容を聞くところまでしか関与していない。

 それがいったいどんな形になったのか、楽しみである。発表会の会場は屋敷内外含めて四ヶ所だ。炎の鳥は広間で行ったが、剣舞は屋敷内のもう片方の会場――大広間であった。

 大広間はパーティ会場として使われていただけあって、かなり広い。彼らは、その中央部を使って発表をする予定だ。


「さっきの炎の鳥に人気取られちゃってるねぇ」

「そうだな」


 広間よりも格段に広い場所とはいえ、集まっている人間が少ない。炎の鳥のインパクトが強く、足先が向こうへ向かいがちだったところで期待通りの発表があった。向こうに行ったまま、こちらに戻ってこないのだろう。

 騎士は剣を使う。代わり映えしないように感じられてしまったのかもしれなかった。だが、せっかくの発表であるからして、もう少し観客がほしいところである。


「少し、客寄せさせるか……」


 本当はロスヴィータがしたいところであるが、それをしてしまったらひいきになってしまう。誰かに肩入れするのは、いつの日かの同僚部下となるであろう全員に礼を欠く行為だ。

 それを避けつつ、どうにかしてやりたい。ロスヴィータにできるのは、彼らが客寄せ行為をするように仕向けることだけだ。


「ウォーミングアップをしに、外に出るよう言ってくる」

「はぁい」


 指先をひらりと動かすエルフリートに背を向け、ロスヴィータは彼らの控え室へと向かうのだった。


「人の入りが少ないぞ?」

「あっ、マディソン団長」


 控え室では、最後の確認で通し稽古をしていたらしい。全員が剣を抜いていた。


「人を呼ぶ努力は……していないようだな」

「その余裕がなくて――」

「いや、できたはずだ」


 発表を見に来る人の事を考えるようにと指導したが、その観客がいない事に対する彼らの認識の低さを知ったロスヴィータはアンドリューの言い訳じみた言葉を最後まで言わせなかった。

 代わりに、安心させるようになるべく柔らかい笑みを顔に浮かべる。


「もちろん、今からでも間に合う。淡々と、こつこつと技術を磨くのは悪い事ではない。だが、今回は発表会だ。見てもらって、評価してもらわないと意味がないからな」

「では……?」

「外にいるフリーデに、私に見せてくれたアレをやってあげてくれ」


 ロスヴィータの言葉に、四人は顔を見合わせるのだった。

2025.6.8 一部加筆修正

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