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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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 着実に日々を積み重ね、とうとう発表会当日がやってきた。ロスヴィータはやる気満々のエルフリートと共に、見回りをしていた。

 発表会までの十日間ほど毎日出入りしてきていたからか、生徒たちから友好的な声かけが届く。そのたびに嬉しい気持ちになりながら、二人は手を振り返すのだった。


「にぎやかだねぇ」

「そうだな」

「ふふ、楽しいねー」

「そろそろ運命の炎の鳥の時間だぞ」


 ロスヴィータがそう笑うと、エルフリートが「あぁ……ちょっと、不安ー」と眉尻を下げた。失敗することはもうないだろう。とは思っていても、誰にだって万が一ということはある。

 万が一、という経験をしたことのあるロスヴィータは、エルフリートのその不安が手に取るように分かった。


 エルフリートは強いから大丈夫、そう思っていたのに一度の誘拐未遂と一度の誘拐を許している。ロスヴィータも一度誘拐された事があるからして「絶対大丈夫」というものはないのだと身に染みたものだ。


「少し不安でも、あなたなら何かあっても対応できるくせに」

「そうなんだけどぉ……」


 エルフリートは小さく口をとがらせる。相変わらずの可愛らしい仕草に口元がゆるんだ。


「心配なら、早めに会場へ行こうか」

「うん、うんっ行く!」


 大きく頷く彼を後ろに、ロスヴィータはイアンたちが発表をする広間へ足を向けた。

 広間へ到着すると、題材が珍しいせいか既に満員御礼といった様相だ。これは、イアン立ちも緊張するだろうな、とロスヴィータは苦笑する。

 大盛況なのは良い事だ。だが、変に緊張する原因になりかねない。エルフリートとロスヴィータはどちらともなく顔を見合わせた。


「これは……すごいねぇ」

「ああ、予想以上だ」


 五人が心配になった二人は、彼らが待機しているであろう控え室へ向かった。


「あっ、ボールドウィン副団長! マディソン団長までっ!」


 扉から姿を見せるなり、全員が駆け寄ってきた。素直で良い子たちである。


「人、人がいっぱい……っ! いっぱいいるんですっ」

「こんなに集まるとは、誰も思わないじゃないですか」

「私は芸術作品を見せびらかす機会がもらえて嬉しいです」

「画伯がいる……」

「誰もミスしなければ、なんでも良いよ」


 彼らの反応はバラバラで、なんだかおもしろい。緊張しているらしいリーズとイアン、メアリーは気合いが入っていて、チェザレはそんな彼女の絵を見て複雑そうな顔をしている。リオーダンはどうにでもなれ、といったところだろうか。


「炎の鳥、暴走しないと良いな……」

「俺は生み出せずに失敗しそうなのが怖い」


 リースは生み出してからの事を、イアンは生み出す前の事を気にしている。魔法に対する熟練度や認識による違いだろうか。魔法に関して言うならば、エルフリートが適任だろう。

 ロスヴィータは彼が口を開くのを待った。


「みんなに良い事教えてあげる」


 エルフリートに全員の視線が集中する。どんな話になるのだろうか。ロスヴィータは期待のこもった視線を送る。


「人間は気にしなくて良いよ。椅子の上に本が積み上がってるなーくらいで。本に火の粉が落ちないように気を付けるって気分でやれば、案外うまくいっちゃうものだよ」


 なんともおおざっぱな。全員の目が点になった。


「フリーデ、それは……本気か?」

「うん! 人間だって思うから緊張するんだよ。図書館の中でやっている、くらいのイメージでじゅうぶんだと思うけどなぁ」


 ロスヴィータら、生徒たちに申し訳ない気分になった。


「……それは、一理あるかもしれませんね」

「でしょおー!」

「そう、なのか?」


 指で顎をなぞりながら、イアンが言う。


「失敗しなければ良いんです。クオリティが高ければ、結果がよければそれだけで十分でしょう。本当はこんな人数に動揺するようでは未熟なんでしょうが……」

「いずれ少しは慣れると思うよ。でも、緊張しなくなったら終わりだからね」


 エルフリートの言葉は適切だった。が、少々足りない。騎士の卵には話がちゃんと通じていないようだ。ロスヴィータは少し力を貸してやる事にした――と言っても、すぐに理解できるものではないと分かっているが。


「適度な緊張、適度な恐怖、すべての人間が持つ感情は必要だ。それを失うと、逆にうまくいかなくなるんだ」

「どうして?」


 ロスヴィータの付け足しに質問が返ってくる。良い反応だ。ロスヴィータは聞き返してきたリースに視線を合わせ、それから他の面々に視線を移していった。


「相手の思考を読み切れなくなる。引き時を見失って身を滅ぼす。そういう未来が待っているからだ。緊張や恐怖は、適切に感じて、味方にしなさい」


 ロスヴィータの言葉は、いまいち理解できないかもしれない。だが、きっと覚えてはくれるだろう。


「自分の能力を最大限に引き出す味方なんだ。その感情はね」

「分かったような、分からないような……」


 うぅん、と唸る生徒たちを見て、エルフリートが割り込んだ。


「ロス、今は難しい話より、今すぐの話!」

「いや、今だって大切だが、これから先騎士になってからの話も大切だろう」

「二人とも、大丈夫です。ありがとうございます。もう時間もないし」


 イアンに容赦なく割り込まれ、二人は気まずそうに苦笑するのだった。

2025.6.1 一部加筆修正

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