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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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9

 それから、アンドリューたちがどんな形にしていこうと考えているのかを具体的に聞き出したロスヴィータは、いくつかアドバイスを添えてから部屋を出た。

 思ったよりも時間がかかってしまったが、ひとまずは一通り確認できた。ロスヴィータは進行状況が不安なエルフリートの担当となった部屋に足を運ぶ。

 彼の事だ。きっと、なんとかしてしまうのだろう。心配はしていない。が、最初に丸焦げにされかけた記憶が蘇るとその気持ちが揺らぐのだった。


「調子はどうだ?」


 エルフリートが結界を張っていると教えてくれていたから、安心して扉を開けられる。ロスヴィータは声を掛けながら扉を開いた。


「あ、ロス!」


 振り返る彼の表情は明るい。背景がすごい事になっているが……問題は、ないのだろう。ロスヴィータはひきつった笑みを返す。暑苦しいというか、すごい。ひとまずロスヴィータはエルフリートのすぐ隣に移動した。


「順調、には見えないが……これは順調なのか?」


 生徒には聞こえないよう、エルフリートに顔を近付けて問いかける。彼は生徒の方を見ながら軽く頷いた。


「うん。大丈夫だよぉ。今は長時間形を保たせる練習をしてるんだ」

「……炎の鳥が暴走しているように見えるが、それは気のせいじゃないんだな?」


 目を閉じて集中しているイアン、結界内を飛び回る鳥を追いかけながら騒いでいるリース、ひたすら紙を燃やすメアリー。そんな三人を結界の外で心配そうに見守るチェザレとリオーダン。

 どう見ても、順調に練習が進んでいる光景には見えなかった。


「それは気のせいじゃないねぇ……。だから、彼らには私特製の結界を張って保護してるの。操作も練習させないといけないね」


 エルフリートの乾いた笑いに、ロスヴィータは小さく笑う。のんきな様子が彼らしいとも言えるが、発表会の失敗に繋がりかねない要素は減らしたい。


「このままだと発表中、フリーデが全員に結界を張っているしかなくなるぞ」


 安全面を考えればそうするしかないかもしれないが、実行したらどうなるかエルフリートには想像できているはずだ。「騎士となるならば、せめて結界も自分たちで張るべきだ」と指摘されるだろう事を。


「できるけど、それをしたら発表会としてはダメだよね」

「そうだな。成果の発表としてはお粗末だと言われてしまうだろう。そう言われたら、彼らは悲しむことになる。誰かに結界を張る役をさせるか、結界が必要ない完成度にさせるか選ぶしかない」


 きっと、エルフリートは結界が必要ない完成度にしたいのだろう。だが、どうしようもない場合は、それも視野にいれなければならない。マロリーの訓練を思い起こすと、結界を張るという行為が簡単ではない事くらい分かる。

 そう考えると、どちらの方法をとるかすぐにでも選び、訓練していかなと間に合わなくなってしまう。ロスヴィータはあえて、決断を急かした。


「フリーデ、今決めないと間に合わなくなるぞ」

「うん。分かってるんだけど……」


 がんばっている姿を見ているからこそ、踏ん切りがつかないのだろう。命が関わっていないからか、エルフリートの判断力が鈍っているようだ。


「フリーデが悩むなら、私が彼らに選ばせてやる」

「えっ?」


 ロスヴィータはぱんっと手を叩いた。室内に響く破裂音にも似た音に、全員がロスヴィータの方へ顔を向ける。


「これから完成度を確認する。全員がうまく炎の鳥を操れない場合、一番うまく結界が張れる人間には炎の鳥を諦めてもらい、結界担当になってもらう」

「えっ!?」


 驚愕の声が揃う。ロスヴィータは表情を変えずに続けた。


「当たり前だろう? 本番はフリーデが手伝わないんだ。こんな危険な状態、結界なしで許可するわけにはいかない。あなたたちは、観客にけがをさせるつもりか?」


 ロスヴィータの言葉に、彼らは顔を見合わせた。


「派手な催し物は良い。だが、それは安全である事が前提だ。理由は分かるな?」

「……分かっています」

「将来騎士になるならば、守るべき相手を無駄に傷つけてはならない。短慮な行動は避ける」


 彼らの努力が“結界を騎士に張らせた”という事だけで報われなくなるのは、ロスヴィータも避けたかった。だが、それを言うのは野暮である。

 だからこそ、ロスヴィータは責任感を煽る言葉だけを紡ぐ。


「そうだ。常に、我々は守る側でいなければならない。楽しませたいという気持ちは大切にしてほしいから、否定するつもりはない。

 だが、けがをしたりさせてしまったりしたら、楽しい気分が台無しになってしまう事も忘れてはならないよ」


 楽しい話ではないが、これは騎士として生きていく心構えとしても重要な話である。

 不幸になる人間を人的ミスで増やしたくない。そして、この発表が未熟なものであると言われる隙をなくしたい。その考えも今回の提案にあるとしても、だ。


「フリーデ。私に結界は張らなくて良い。本番環境で、やる」

「分かった。じゃあ、私たちは結界なしで観客役をするから、リハーサルしようか」


 騎士二人の本気を見せられた五つの騎士の卵は、表情を引き締めるのだった。

2025.5.23 一部加筆修正

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