表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/84

8

 剣舞を終えた四人は剣を納めてロスヴィータの座るテーブルへつく。彼らの息は上がっておらず、余力があることを伝えてくる。


「すばらしかったよ。全員、剣舞の経験者なのか?」

「いえ、私たちは違います」


 きっぱりと否定されたが想定内だ。ロスヴィータは鷹揚と頷いてみせる。


「さて。何が聞きたい?」


 笑みをたたえてロスヴィータが聞けば、四人はすっと姿勢を正した。




 どうやら彼らは第三者の視点から、出来映えを確認したかったようだ。ロスヴィータは先ほどの剣舞を思い出しながら、将来が楽しみだと思う一方、人を楽しませるという点において思慮の浅さが気になった事を伝えた。

 そして、テーブルに観客を座らせる部分に関しては危険なのと、背後が見えないのもあり、却下した。

 今回は一般人向けの発表会だ。自分の身を守るすべを持たない人間も多く参加する予定である。催し物だと分かっていても、目の前で長剣を振られたらどきりとするだろう。


 四人が息の揃った演技をするとは分かっていても、失敗したら切られてしまうような距離で実際に剣を振り回されたら、パニックになる人間もいるかもしれない。

 決闘を至近距離で見させられるのと同じようなものだ。こういった剣舞は、ある程度距離があるからこそ、心から観客が楽しめるのだ。


 それらを伝えると、彼らは少しがっかりしたようだった。

 あの完成度から、手放しで褒められて終わるという過信があったのかもしれない。


「間近で見る事ができたら、我々の技能のすごさが分かってもらえるかと思ったんですが」

「これをされて喜ぶのは騎士か命知らずか、それなりに腕に自信があるかだよ。身を守る術を持たない人間が見知らぬ人間に弓を構えられているのと同じだ。

 我々は弓が飛んできても対処できるだろうが、他の人間はそうはいかない。それに、我々が失敗する事だってある。そういう事だ」

「心の底からは楽しめないという事ですね」


 少しずれた反応だが、確かにその考えはあるだろう。ロスヴィータは頷きつつも否定混じりの言葉を紡ぐ。


「そういう部分もあるだろう。だが、一番は、何も事故が起きない事だ。

 この剣舞、完成度は高いが、絶対にミスをせずに演目を終えられるとは限らない。不安要素が少しでもあるならば、じゅうぶんに対応すべきだ」


 不測の事態が起きても大丈夫なようにする。これは、騎士として今後活動していく上で必要な考え方だった。


「ありとあらゆる結果を想像しなさい。そして、一番観客が喜びそうなものを選びなさい。ただし。安全を損なう事は、絶対にしてはならない」


 お説教のような、技術面とは違う方向の指導の話は苦手だ。ロスヴィータは伝わっていれば良いのだが、と不安になりながらも堂々とした態度を保つ。


「さて、あなたたちならどうする?」


 ロスヴィータは四人に考える時間を与えた。




 時間を決めて考えさせると、彼らは簡単に結論を出してきた。ふむ、頭の回転も、意識の切り替えも早い。期待できる人材だと確信する。


「テーブルというか、台を用意して中央で我々が剣舞をし、周囲を観客で埋める方向にしたいと思います」

「具体的に聞こう」


 ロスヴィータに向けたプレゼンテーションが始まった。

 簡単にまとめると、円形の台を用意してその上で剣舞をする時に様々な趣向を凝らすのだそうだ。

 全方位から見られる為、なるべくまんべんなく楽しめる構成にしたいという事で、ロスヴィータに披露したテーブルを使った剣舞を人間をテーブル代わりにした剣舞に変えて行う事にする。

 内側に向けた剣舞は外側に向けたものへと変更になる。互いの姿が目視できなくなる為に難易度が格段に上がるが、そこは音楽を加える事で動きが揃うようにするつもりらしい。

 なかなか考えたな、と感心した。


「台はどのくらいの高さ、広さを想定しているんだ? 早く用意しないと練習が厳しくなるぞ」

「ああ、それはですね。俺が家から持ってきます」


 話を進めていく内に、この四人の代表者格が誰か分かった。すっと手を挙げて話し始めたアンドリューである。彼は確か商家出身だったか。

 どうりで頭の回転が早いはずだ。


「俺の家に、ちょうど良い台があるんです。もともと踊り子を呼んで踊らせる為のステージなので、使い勝手は良いと思います」

「なるほど」


 感心するロスヴィータに向け、アンドリューは言葉を重ねていく。


「マディソン団長も何か欲しいものがあれば仰ってください。世界のどこからでも取り寄せてみせます!」

「僕にはそんなこと言ってくれないくせに!」


 ロスヴィータへの声かけに、隣に座っている少年――マカーリオ――が立ち上がる。元気な事だ。


「お前はまだダメだ。自分で稼げるようになってから来てくれ」

「く……っ!」


 アンドリューの言い分に対し、マカーリオは素直に着席する。軽口のようなやりとりができる程度には仲が良いようだ。この調子ならば、うまくいくだろう。ロスヴィータは二人のやり取りをにこやかに笑いつつ、商魂逞しい提案はひとまず遠慮しておくのだった。

2025.5.10 一部加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ