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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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7

 結局、エルフリートが炎の鳥を生み出すグループの発表会準備を指導する事になり、ロスヴィータは一人で他の発表会の準備状況を見回る事となった。教員役となっている他の騎士や魔法士、その他様々な職業の人間も一緒になって活動しているものの、今回の発表会は学問方面の発表は少ない。

 騎士として用いる技能で他者を楽しませる事を押し出す方向で動いていたのだった。


 というのも、そもそも学問方面で発表をすると、発表する側とされる側双方に一定以上の知識が必要となってくる。それでは、誰もが楽しめる発表会にはならない。

 実技的な面のある発表が多くなってしまうのは、必然だった。その為、どうしても指導する人間の数が限られてしまう。という事で、エルフリートがあのまま面倒を見る事になったのだった。


「マディソン団長おはようございます!」

「ああ、おはよう。調子はどうだ? 順調か?」


 騎士の卵たちがわっと集まってきた。何事かと思えば、昨日部屋を回っていたメンバーから話を聞いていたらしい。


「俺がいる部屋は順調だから、最後で良いっすよ!」


 挨拶だけではなく、ロスヴィータが確認する順番を調整しようとしてくる人までいる。おもしろい。だが、ロスヴィータは渡された情報を素直に信じるような人間ではなかった。

 まだ騎士道精神が未熟な人間からの言葉は特に。


「順調なら、短時間で終わるな。今すぐ行こう」


 案の定、ロスヴィータが今すぐでも構わないよな、といった態度を示した途端に彼は顔色を変えた。


「あっ、えっ、いやっ、急は困っちゃ……」

「ははは。騎士になったら虚偽の報告は致命傷になる。絶対にやってはいけないよ。さあ、今すぐ行こう」


 墓穴を掘ったな、と揶揄する声が追いかけてくる。確かにその通りだな。ロスヴィータはがっくりと肩を落とす青年の背中を慰めるようにぽんっと撫でた。




 騎士の卵たちは、協力的で良い。元々騎士になる為に研鑽をしてきた人間は少ないが、その分騎士への憧れが強いようだ。ロスヴィータは、彼らの模範として恥ずかしくない振る舞いをしなければ、と身が引き締まる思いだった。

 いくつもの部屋を見て回る。アルフレッドの屋敷は、とても役に立った。生徒の数はまだ少ないとはいえ、少人数グループに分けると二桁は超える。


 発表会自体は、外と中の会場で外は一カ所、中は二カ所を想定している。それぞれが別の発表をするとなれば、スケジュールを組んで回していくしかない。だが、練習はそうはいかない。

 一緒の空間で練習できるものもあるかもしれないが、そのほとんどが実技であるからして、厳しい状況になると最初から想像できる。その「練習する場所をどうするか問題」が、この屋敷の部屋数の多さのお陰で簡単に解決できたのであった。

 しかし、確認すべき部屋が多いのを失念していた。ロスヴィータはエルフリートが頑張っているであろう部屋の前を通り過ぎながら、そんな事を思う。これで本当に最後になるであろう部屋へ向かう。


「失礼する――んっ!?」

「お疲れさまです!!!」


 部屋へ入るなり、歓待された。それぞれが己の役割を理解していて、有機的に動く。あっという間に席へ案内され、茶菓子を差し出され、まったりとしてしまった。


「これは、どういうことだ?」

「マディソン団長がいらっしゃるって話だったから、待ってたんです」

「……待っていた?」


 ロスヴィータはオウム返しした。部屋にいた四人がそれぞれ頷いた。ここは、剣舞だったはずだ。剣舞の練習の為に家具を運び出し、大きな空間になるようにしていたのだが、今は部屋の中央にテーブルが設置されており、そこでロスヴィータがお茶菓子を振る舞われている。


「見ていただきたいのです」

「それは、事前説明なしで……という事か」

「ご明察の通りです。では、始めてもよろしいですか?」

「もちろんだ。頼む」


 ロスヴィータは、わくわくしながら彼らがテーブルを囲むようにして立つのを見ていた。

 彼らがロスヴィータに見せたのは、正に剣舞だった。テーブルに座っているロスヴィータから見えない背後でも、踊っているようだ。グリュップ王国の伝統的な剣舞はコミカルで大胆な動きが特徴だ。それをアレンジしたようだった。


 不意にテーブルへ向け、剣が振り下ろされる。ロスヴィータは胆力のない人は腰を抜かしてしまうかもしれないな、と冷静に評価した。テーブルを剣先が滑る。もちろんテーブルには触れていない。テーブルすれすれを動く剣に、ロスヴィータは舌を巻いた。

 これは、器用だな。四人が四人、簡単にやってのけるというのは、珍しい。現役の騎士にやらせてみたら、失敗する者の方が多そうだ。かく言うロスヴィータだって、易々とこなす自信はない。


 テーブルを中心に剣舞を行っていた四人は、ロスヴィータの真正面に集まり、踊り続ける。体の一部であるかのように剣を扱う四人の動きは揃っていて、熟練の技という言葉を彷彿とさせた。

 これは、素人の集団……だよな? クオリティの高すぎる剣舞に、ロスヴィータはポーズをそろえて演舞を終えた彼らへ拍手を送るのだった。

2025.5.10 一部加筆修正

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