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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
同時進行は困難ばかり

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7/84

7

「言うこと聞いてくれる?」


 エルフリートが首を小さく傾けて聞けば、男の笑う気配がする。


「嫌だね」

「……最たる神よ、強き名を持つ神よ、罪人を我が指示下におきたまえ」


 エルフリートはいつになく、対象を強く従属させるイメージを浮かべながら魔法を行使した。髪の毛一本ほどでも自由にさせてあげないもんね。


「私の言うこと、聞いてくれる?」


 再びエルフリートが聞く。


「もちろんだ」

「じゃあ、行こうか」


 今度こそ従順になった彼に散歩を誘うかのように声をかけると、侵入者は素直に従ったのだった。




 従順になった侵入者の身動きを封じていた鎖をそのままに、劇場を出る。侵入者を真ん中に挟んで移動する。ロビーに堂々と現れても、無表情のロスヴィータとエルフリートに、周囲はちらちらと視線を寄越すだけで話しかけてこようとはしなかった。

 仕事中だと考え、邪魔をしないようにしてくれているのだろう。


「フリーデ、大丈夫か?」


 口を開いたと思ったら、心配されてしまった。


「何が?」


 街灯の下、詰め所までの道のりを進む。通りを走る馬車(ハンサムキャブ)は使わない。知らない人間の操る乗り物はこりごりだし、そもそも人数オーバーだしね。


「疲れた顔をしている」

「ロスの方こそ疲れているでしょ?」

「はは、どうだかな」


 表情を崩した彼女は周囲に視線を走らせつつ、侵入者越しにエルフリートを見た。エルフリートはロスヴィータがどうして笑うのかが全く分からず、眉をゆがめて答えた。


「心配してくれているところ悪いが、おそらく私の方が元気だよ」


 ロスヴィータの方が元気とは、信じがたい。そう思ったが、思った事をそのまま口にするのはやめた。


「当てずっぽうではないぞ。私の都合に合わせる為に無理をしていたのを知っているから言っているんだ」


 ロスヴィータの口振りから、エルフリートが睡眠時間を削ってまで今日に臨んだ事を知っているのだと気づく。一方のロスヴィータは睡眠時間だけは確保しているようだから、確かに彼女の主張は正しいと言える。

 下手に反応してボロを出すよりも黙っていた方がよほど良い。


「フリーデ、今すぐ帰れとは言わないが、無茶はするなよ」

「はぁい」


 侵入者に行使している魔法が途中で切れたら困る。今すぐ帰れと言われたところで、侵入者に魔法を行使している限り抜けようがない。それはロスヴィータも分かっている事だった。

 エルフリートは、気を回して企画したはずの息抜きが全く別の結果になってしまったなとこっそりため息を吐く。楽しく芸術鑑賞できれば、それだけで良かったのだ。

 何もこんな、捕り物がしたかったわけではない。


「フリーデ」

「なぁに?」

「今度はゆっくりできる場所で、夕食でもどうだろうか?」


 彼女の提案に、エルフリートはぱっと顔を向けた。ロスヴィータはちらりと横目でエルフリートの様子を確認し、前を向いたまま口を開く。


「今日のデートは中途半端になってしまった。誰が悪いかと言えば、この男が悪いのだが、弁償のさせようがないしな。私としては、仕切り直しをしたい」


 一瞬、街灯に照らされてロスヴィータの横顔が淡く浮かぶ。黄金の産毛が光って輪郭を作り、黄金の光をまとっているようだった。


「今度はフリーデの予定に合わせよう」

「……良いの?」

「良いも悪いもない。私が誘っているのだから」


 エルフリートが遠慮がちに言うのが面白かったのか、ロスヴィータは笑いながら答える。最近見た笑顔の中で、一番自然体に見えた。


「うん。ありがとう。私、お肉が食べたいなぁー」

「いつも通りだな。おいしい店を探しておこう」


 二人の雑談は、詰め所に着くまで続くのだった。




「一名様ごあんなーい!」

「おう、フリーデ。とロスじゃないか。二人とも非番だろ?」

「まあな。その出先で捕まえたんだ」


 エルフリートが元気良く大声を上げて詰め所に入ると、入り口付近で待機している騎士が反応した。


「はい、ロッソに挨拶して」

「こんばんは、ロッソ」

「おう……こいつは反抗的だったな? すっかり従順にさせられちまってかわいそうに」


 エルフリートの指示に素直に従って挨拶をする男に、ロッソは同情の視線を向ける。悪い事をした人に向ける視線じゃないと思うんだけどな。

 むさ苦しい見た目と違って、事務仕事の方が得意な人間(ロッソ)が今日の当番とはついていない。エルフリートは犯人の逃亡阻止の準備を念入りにしておかなければ、と頭の中にメモをする。


「お前、何をしたんだ?」


 ロッソが男の覆面を取りながら雑談をするかのように話しかけた。エルフリートの精神魔法が効いているから良いものの、油断しすぎである。

 迂闊に近寄ると危険だから、自分の能力に自信のない人間はこういった行為を避けるべきなのだが。


「オリアーナ劇場の天井や壁を破壊して舞台装置管理室に侵入した」


 覆面の下には、どこにでもいそうな平凡な顔があった。これと言って大きな特徴もなく、これならば覆面を外していても目立ちはしなかっただろう。

2024.12.25 一部加筆修正

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