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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
なんだか派手な発表会

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69/84

6

 イアンから視線を離したエルフリートは、再びリースの様子を見た。彼は何か掴めそうなのか、口の端が笑んでいる。もう少ししたら声をかけられるだろう。

 エルフリートは彼が顔を上げるのを、このまま待つ事にした。果たして、リースはすぐに顔を上げた。


「ボールドウィン副団長」

「なぁに?」

「慈しみの炎、果てなき光、燦々たる鳥にします!」


 リースがそう言った瞬間、彼を中心にして光の輪が生まれた。それは炎のように揺らいでおり、リースの言葉をうまく表現している幻影だった。リースの脳内でイメージがしっかり固まったようだ。

 それがエルフリートが時々やらかしてしまう花の幻影のように、声に乗って魔力が反応したのだろう。


「わぁ……! いい感じになりそうだね」


 エルフリートの声にリースが目を開けば、もう魔法の名残は消えてしまっていた。リースは自分が何をしたのかいまいちよく分かっておらず、目をぱちくりとさせている。

 無自覚な少年に、エルフリートは簡単な説明をした。


「魔法の幻影が自然発生、ですか。あれはボールドウィン副団長のような、魔力の多い方だけができるものかと思ってました」

「魔力が多い方がやりやすいのかもしれないね。でも、リースもできてたよ。イメージ力の強さも関係していると思うな」


 リースはこれから化けるのかもしれない。エルフリートは先が楽しみだった。




 それからのリースは順調だった。結果的にはイアンよりも早く、炎の鳥を生み出す事に成功した。イアンが悔しさを滲ませつつ、それでもリースの生み出した鳥を嬉しそうに見上げていた――リースの鳥は少し落ち着きがなくて剣に止まれなかったんだよね――のを見て、エルフリートは安心した。

 一方メアリーはと言うと。こちらはエルフリートの想像を、かなり飛び越える結果を出してきた。


「たぶん、大丈夫です」


 メアリーはすばらしい絵をエルフリートに見せて、自信満々と言った様子で笑顔を向けてきた。

 彼女の描いた絵は、ちょっとした抽象画のようだった。青で塗りつぶされた背景は、きっと空をイメージしていて、その中にぽつんと――いや、堂々と存在する火花のようなものは鳥だろうか。

 メアリーが考えてきていた呪文とは、ずいぶんと方向性が違う絵であるように、エルフリートの目に映った。

 エルフリートが結界の中に改めて招き入れると、少女はその絵を目の前にかざして呪文を唱えた。


「あっ!?」

「ええっ!?」


 絵の鳥が急に輝き、紙を燃やす。エルフリートがメアリーの両手首を掴んで紙から手を離させなければ、彼女は手をやけどしていたかもしれなかった。

 描かれていた鳥は紙を燃やして自由になり、空間を優雅に飛んでいる。手品のような魔法だった。()()が、こんな美しい炎の鳥になるなんて、魔法みたい……あ、魔法だった。


「びっくりしたぁ……」


 本人も驚いているし、一足先に練習に入っていた二人はぽかんとしている。うん。すごく分かるよ、その気持ち。


「とても素敵だったよ。今の感じで、もう一回できたりするかな?」


 エルフリートが小さく拍手しながら聞けば、メアリーはこくりと頷き、再び呪文を唱える。だが、今度は何も起きなかった。


「……絵がないと、だめなのかな。でも、焼けちゃった……」


 メアリーが己の両手を見つめて考え込んでいる。残念そう、というよりは、この力を自分のモノにしたいという意思を感じさせる。

 下手に口を出すよりは、待った方が良い。エルフリートは直感でそう悟るのだった。

 ぽかんとしていた二人は、我に返るなり自分の練習に戻る。数日でものにしなければならないプレッシャーからなのか、元々の集中力がすごいのか、ロスヴィータ達がとまり木代わりの棒を持ってくるまで練習は続いた。


「待たせた。少し時間がかかってしまった」


 ロスヴィータが用意してくれたのは、立派な棒だった。エルフリートが望んだ通り炎に強い特別仕様の棒で、自立するようにできていた。


「立つんだ!?」

「安全第一で、用意してもらったのだ」


 小さく笑むロスヴィータの両隣りでは、一緒に出かけていた二人がニコニコとしている。出かけ先で嬉しい事でもあったのだろうか。

 ロスヴィータが二人の頭を軽く撫でる。うう、羨ましい……。


「鍛冶屋にこのとまり木を作ってもらっている間に、二人に合いそうな剣もついでに見繕ったのだよ」

「楽しそう!」


 エルフリートは幸運な二人に、選んだ剣を見せてもらう。彼らは自慢げに新しい武器をエルフリートに見せてくれた。新品特有の持ち手の皮が初々しい。


「チェザレは少し小ぶりな長剣、リオーダンは騎士が使っているのと同じ長さの長剣だ」


 チェザレとリオーダンね。覚えた。エルフリートはこっそり二人の名前を頭にメモする。自慢げに剣を見せる二人に笑みを向ければ、嬉しそうな笑顔が返ってきた。


「リオーダンは大剣を持ちたいと言っていたのだが、持たせてみてまだ早いと判断した。だから、騎士が使っているサイズにしたよ」


 まずは体づくりから、だね。エルフリートは未来の騎士にエールを送るのだった。

2025.4.25 一部加筆修正

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